第336話 認識
「かああああッ!」
大魔王の大地を震わせる巨声が、
勇者の力の詳細についてを脳裏に過らせていた俺を現実に引き戻す。
大魔王は優羽花に向けて魔力の光を纏わせた巨大な腕を突き出した。
まるで巨大な光の尖塔。
「流星光斬!」
優羽花の声と共に、星剣の刀身が、がきん!
という音と共に二つに割れて中から光の刃が姿を現した。
がぎん!
がぎいん!
がぎいいいん!
巨大な光の尖塔と光の剣が鍔迫り合う。
身丈30メートルの巨体から繰り出す超重攻撃と、
16歳の女子高生の細腕に握られた剣が、
全く互角に渡り合う。
いや…。
「ぬおおッ!?」
大魔王の巨大な腕が弾かれた。
互角では無い。
優羽花の剣が僅かだが大魔王を押している。
ヒカリの言った通り、
『勇者』の光の魔力は相対する存在の魔力数値が高い程、
その力を増すということである。
相手は魔族の長『大魔王』、
地球からこの異世界から召喚されし光の勇者、
優羽花の力は最大パワーで発揮される。
大魔王は勇者・優羽花の凄まじい力に押されてたたらを踏んだ。
「この余が…
人間如きに押されるなど…
有ってはならぬのだ!
かああッ!」
大魔王は口を開いた。
その口内がこれまでにない赤い光に満ちて、
灼熱の閃光が放たれた。
「はあっ!」
優羽花は光の剣を一閃させ光の斬撃波を即射、
大魔王が放った灼熱の閃光を相殺した。
「馬鹿な…今のは…
余の仮初めの肉体で出来る最高の技…
それをこの距離から一瞬で切り返しおるとは…」
大魔王の表情に声に驚愕の色が浮かぶ。
そして…優羽花を見据える目線が明らかに変わった。
そう、魔界を統べる魔族の長、大魔王はいま此処に、
はっきりと認識したのだろう。
自分の眼前に立つ少女が
500年振りに現れた”自分を討つことが出来る敵”であるという事を。
「光回復!」
俺は自分自身の身体に回復魔法を掛け続けている。
大魔王に踏み潰されてズタズタになった
俺の皮膚が、内臓が、骨が繋がっていく。
だがここまで徹底的に破壊されては、
回復魔法と言えども完全に治すには相当な時間を要する。
だが完治まで待っては居られない。
俺は両手両足が動くことを確認すると、取り急いで立ち上がった。
やはりまだ身体のあちこちが痛むが、動かすこと自体は問題ない。
俺は大魔王に光線で焼かれて倒れたままのヴィシルの元へ駆け寄ると、
彼女にも回復魔法を掛けた。




