第335話 捨て台詞
「ん? 俺が教える…?
何を言っているんだ優羽花?
勇者の戦い方の主体は剣。
俺は格闘が主体で剣は使えるとはいえ専門という訳ではないからなあ。
餅は餅屋、
武術はそれぞれの専門家に教えて貰うのが理に適っているというものだぞ。
それに教えるのが身内だと色々と甘くなりかねないしなあ。
…という訳でシノブさん!
優羽花に剣の基本を叩き込んでやってくれませんか?」
「他らなぬケイガ兄様のお願いです。
喜んでお引き受けいたしましょう」
いつの間にか俺の隣に控えていた全身鎧姿の騎士団長が頷いた。
「ええっ!?
お兄があたしに教えてくれるんじゃないのっ!?」
「シノブさんの剣の腕前は俺も身を持って知っているからな。
生半可な剣の腕の俺から学ぶよりも遙かに有意義なはずだぞ優羽花。
それでは宜しくお願いしますシノブさん」
「了解しましたケイガ兄様。
それではユウカ様、
光陰矢の如し、時間はまってくれませんよ。
早速鍛錬場に参りましょうか?」
シノブさんに手を取られて俺の部屋から連れ出されていく我が妹。
それにしてもシノブさん、光陰矢の如しかあ…
日本のことわざがこういう風に聖王国の人々に知れ渡っているのは、
俺たちよりも前に召喚された日本人のおかげなんだろうなあ。
と、俺はしみじみ思った。
「えっ、そんないきなりっ!?
ちょ…ちょっとシノブさん!、
そんなに腕を引っ張らないでぇ!」
ずるずるとシノブさんに引きずられていく優羽花。
ポーラ姫の時もそうだったけど
シノブさんはこういうことに手際が良い気がする。
やはり国を守る騎士だけあって、
国に仇名す罪人を連行することに慣れているとかだろうか?
優羽花もポーラ姫も犯罪者という訳では無いのだが。
「…お、お兄!
あたしは、あたしはねえ!
お兄が手取り足取り優しく教えてくれると思ったから…
面倒そうな鍛錬もOKしたのにい!
よ、よくもあたしを…
よくも騙したわねえ!
よくも騙してくれたわねえええ!!」
優羽花は俺に対して何故か怒りに満ちた言葉を吐いた。
だが俺が直接、妹に剣を教えるとは一言も言っていない。
これは優羽花が勝手に思い込んで居ただけである。
騙すなんて人聞きが悪いぞ我が妹よ。
「それじゃあシノブさんとの鍛錬頑張ってな」
「覚えてなさいよ馬鹿お兄いいいいーーーー!!」
俺はだんだん遠くなっていく妹歴16年の愛しい我が妹に手を振って、
笑顔で見送った。




