第326話 絶望と希望
「地ノ宮流気士術・五の型、流星!」
「リュウセイ!」
俺とヒカリは両手のひらを突き出して気功波を放った。
大魔王の魔力心臓核は剥き出しになっている。
一撃でも当てればこっちの勝ちである。
だが大魔王はその巨大な腕を振るい二発の『流星』を瞬く間に叩き落した。
「がはははは、人間にしては凄い技よのう。
余の腕がしびれてしまったぞ?」
大魔王め、言ってくれる…
俺の『流星』は魔力を纏ったガードも何も無しの素手で
そうやすやすとはね返せるような技では無い。
だが大魔王の魔力数値5000に対し俺の数値は2400程度。
それ程の力の差が在れば容易いということである。
別に大魔王の魔力数値は先程より上がっている訳では無い。
だが奴の”遊び”の類が一切消えた分、
今迄の戦闘よりも加速的にこちらが不利になっている。
俺は今の”本気の大魔王”と幾らか拳を交えた結果、
例えヴィシルが戦線離脱していなくとも…
こちらに付け入る隙が無いぐらいに強くなっていると感じ始めていた。
これは…もしかしなくても…俺は…
大魔王にどうやっても勝てないのか…?
俺は自分の心が急速に冷えていくのを感じた。
これが…絶望という奴か?
「む…なんだこの魔力は?
とてつもない力が遠くから近付いてくる…?」
大魔王は何かに気が付いたかの様子で空を見上げた。
…これは?
確かに奴の言う通り、強い魔力が近付いてくる!
この力は…俺に取っては懐かしい…というよりはお馴染みの魔力。
『見通しの眼鏡』で何者か探る迄も無いだろう。
この異世界エゾン・レイギスに召喚された正真正銘の光の勇者にして、
俺の愛しい妹、鳴鐘 優羽花のものだ。
俺と優羽花がこの異世界エゾン・レイギスに召喚されて三週間。
魔族軍が国境の町クラシアを襲っているといる連絡が入り、
姫騎士団のツツジ、カエデ、シダレが至急救援に向かう事になった。
俺は彼女たちの手助けと魔族軍がどんなものかを実際の目で確認したくて、
一緒に行くことにした。
その際に優羽花も一緒に行くと言ったのだが、
今の我が妹は三週間の鍛錬で召喚された時より更に力を上げている。
魔族側に人類側の最高戦力である勇者の力の上限はなるべくは隠しておきたい。
戦力の秘匿も戦争には大切な事なのである。
よって優羽花には万が一の備えを含めて
そのまま王都で待機してもらうことにした。
だが勇者である優羽花の優れた感覚は
国境に出現した魔族の力の大きさに気が付いたのだろう。
その魔族が俺よりも強いという事も。
そして俺を助けるために文字通り飛んで駆け付けてくれているのである。
まったく…ふがいない兄で申し訳ない。
でもありがとうな、優羽花。




