第313話 分身(オプション)
大魔王は両腕を交差させて完全防御の構えを取り、
俺とヒカリの気功波攻撃を防ぎ切きった。
今のは惜しかったかもな…
俺とヒカリ二人合わせた戦闘能力数値は4800。
だが『流星』の技によって数値は更に上昇していたから、
大魔王の魔力数値5000以上は確実であった。
右胸に直撃すれば”核”を貫いてそのまま大魔王を倒せたかもしれない。
だが数値5000の大魔王が完全に防御に回れば
数値5000以上の攻撃も防ぎ切れるという訳か…。
「わたしはおにいちゃんの力のとうえい。
おにいちゃんの動きに合わせる。
気にせず、おにいちゃんのすきなように戦ってほしい」
ここまでの戦闘で俺はヒカリの言葉の意味を概ね理解した。
彼女はその言葉の通り俺に力も動きも合わせているのである。
ヒカリの魔力数値は2400。
これは俺が気の集中と身体能力強化魔法を同時に使用し、
気力と魔力を合わせた戦闘能力数値を二倍に引き上げた状態の数値と同じ。
これは俺が身体の負担なく維持できる戦闘能力数値の最大値でもある。
これがヒカリが世界の法則内で出せる力の上限であるのだろう。
ともあれ…ヒカリは俺と同じレベルの力を出すことが出来る。
これがヒカリの言う”俺の力の投影”ということである。
続いてヒカリは俺の動きにぴたりと続いて
俺が使う気士術を寸分違わず模倣して使って見せた。
彼女自身には格闘術の心得が全く無いにも関わらずである。
論理は全く不明だが人知を超えた精霊であるヒカリには
契約し魔力接続している
俺の身体の動きを完全に模倣出来る能力があるということは間違いない。
これがヒカリの言った”俺の動きに合わせる”ということである。
そしてヒカリは大魔王の連続光線攻撃を
高速移動では無く、
空間から空間へと渡る"瞬間移動"という現象で完全に躱した。
俺が知る限り瞬間移動を行使出来たのは
光の精霊ヒカリと闇の精霊リリンシアのみ。
今迄戦ってきた魔族はおろか、
目の前に対峙する大魔王も使っていない超常の技である。
もしかしたら"瞬間移動"と同じ作用の魔法もあるのかもしれないが、
ヒカリの様にタイムラグ無く常時使用できるものとは俺には思えない。
つまり瞬間移動はこの異世界エゾン・レイギスを創造したとされる
精霊のみが使えると俺は見立てている。
とにかく…ヒカリは"瞬間移動"によってあらゆる攻撃を無効化出来る。
これがヒカリが言った
”ヒカリのことは気にせず俺の好きに戦って欲しい”ということなのだ。
わかりやすく言うなら、
シューティングゲームで言う所の自機が俺ならば、
ヒカリは自機に随伴する分身なのである。
シューティングゲームの分身は
自機と全く同じ攻撃力を持ち、その動きも自機に倣う。
そして分身は敵の攻撃が全て素通りする。
つまりヒカリが一緒に戦ってくれる今の俺は
単純に考えて…
何のリスクも無しに攻撃力が二倍になっているということである。
今の状態ならば押し切れる!
俺はそう判断し、大魔王に一気呵成に攻撃を仕掛けた。




