第312話 ハーフタイムの終わり
「ぐはあああああ…
やってくれるな光の精霊よ。
先程は不意を喰らってこの様な後れをとったが、
もうこのような奇跡は起きぬと知れ」
大魔王が土煙を掻き分けて
その巨大な身体を起こし、
ゆっくりと立ち上がった。
どうやら戦いの休憩時間はここで終了の様である。
俺は思考を戦闘モードに切り替えると、
拳を構え戦闘姿勢を整える。
俺の隣に立つヒカリも俺と同じ姿勢を取った。
「おにいちゃん、
わたしもおにいちゃんといっしょに戦う」
「ヒカリ?」
「わたしはおにいちゃんの力のとうえい。
おにいちゃんの動きに合わせる。
気にせず、おにいちゃんのすきなように戦ってほしい」
「…?」
俺の力を投影する?
俺の動きに合わせる?
そういえばヒカリは先程、
自身の戦闘スタイルは俺と同じ格闘術になると言っていた。
彼女は俺が見る限り、格闘術の心得は全く無い様子。
それでいて、そう言い切れるということは…
この異世界エゾン・レイギスを創造したという超越存在である
光の精霊ならば”それが出来る”ということなのだろう。
俺は彼女の言葉のままに行動することにした。
「ああ、わかったよヒカリ、
それじゃあ…いくぞ!
はあああああ!
光の加護!」
俺は気の集中と身体能力強化魔法を同時に使用し、
自身の戦闘能力を二倍に引き上げる。
そして大魔王を名乗る巨人へ向けて高速で駆ける。
ヒカリも俺にぴったりと続いた。
先の戦闘で俺は巨人の右胸部分に弱点である”核”があるのではと推測し、
怒涛の連続攻撃を仕掛けた。
それは大魔王を昏倒させるというそれまでに無いダメージを与えた。
その結果手痛い反撃を喰らってしまった訳だが。
だが攻撃の手応えとそれまでに無かった威力で反撃されたことを合わせて…
右胸が大魔王の弱点であることはほぼ確定された。
俺は今から再び其処に攻撃を仕掛ける。
巨人の足元に辿り着いた俺は一気に跳躍、右拳に気を集中させた。
「地ノ宮流気士術・一の型、雷迅!」
雷状の気を纏った正拳突きを巨人の右胸に向かって放つ。
だが大魔王も俺の狙いは予想済み。
自身の左腕を突き出して俺の『雷迅』を相殺して見せる。
そして空いた右腕を俺に向かって振り下ろす。
俺は回避行動を取ろうとする、
だがその前にヒカリが飛び出した。
「ライジン!」
ヒカリが俺と全く同じ雷状の気を纏った正拳突きを放ち、
迫り来る大魔王の右腕を喰いとめた。
これが彼女が言っていた
”俺の力を投影する”
”俺の動きに合わせる”と言う事か!?
大魔王の巨大な両腕は二発の『雷迅』に動きを阻まれた。
だが大魔王は臆することなく両目を輝かせ、
破壊の魔力光線を発射した。
物理近接攻撃が駄目というなら即、魔力遠隔攻撃に切り替えたと言う訳か。
左目の光線は俺に向けて、
右目の光線はヒカリに向けて射撃された。
俺は巨人の目線から光線の射線を読み躱す。
そしてヒカリは光線が着弾する瞬間にその姿が掻き消えた。
超スピードで躱した…じゃない!?
俺の目にはその動きが全く捉えられなかった。
そして次の瞬間、ヒカリは先程消えた場所とは少し離れた場所に出現した。
もしかするとこれは…”瞬間移動”という奴か?
俺はかつてリリンシアが使ったのを見ている。
つまり同じ精霊であるヒカリにも同じ事が出来るということだろう。
巨人の両目が再度輝いて光線が連続発射される。
俺は瞳の動きを呼んで高速で跳んで躱し、
ヒカリは瞬間移動で躱す。
よし今度はこっちの攻撃の番だ。
「地ノ宮流気士術・五の型、流星!」
俺は両手のひらに気を集中させて気功波を放つ。
「リュウセイ!」
ヒカリも俺と全く同じく両手のひらから気功波を放った。
俺とヒカリの二発の『流星』が大魔王の巨体に迫る。
狙いはもちろん右胸の”核”である。




