第306話 石の中に居る
全身が痛い…熱い…
ここは…何処だ…?
俺は手の中に白い石の欠片の様なものが有ることに気付いた。
これは…?
俺は身を起こそうとするが身体が動かない…
俺は…
石の中に居る!?
俺は石の中にめり込んだ形になっている。
手の中に握られたものは、この欠片か。
一体何故…こんなことに…?
俺はこうなる前の出来事を必死に思い出す。
確か俺は…
大魔王を名乗る巨人の”核”を破壊すべく、
『見通しの眼鏡』に示された
巨人の右胸の箇所を全力で攻撃した。
あと少しで胸を覆う皮膚装甲を破壊できると思ったその瞬間…
突如巨人の口が開き巨大な火球が放たれて…
俺は真面に喰らって凄まじい勢いで吹き飛ばされて…
クラシアの町を囲む石壁に激突…しばらくの間、気を失っていた…?
俺は此処から脱出すべく身体を動かそうとするが全く動かない。
深く石壁にめり込んでいることもそうだが、
巨人の火球による超高熱と石壁への激突が
俺の身体に深刻なダメージを与えている。
俺は『光防壁』と『金剛力士』を展開して
魔法的にも物理的にも防御していた筈である。
それにも関わらずこのダメージ。
大魔王の口からの火球攻撃はそれ程の威力だったというのか?
いやむしろ…
『光防壁』と『金剛力士』を展開して居たからこそ、
”この程度”で済んで、俺はぎりぎり生き残れたのかも知れない。
石壁の隙間からの視界に映る巨人の姿。
其れはその歩みを進めこちらへと向かってくる。
このままでは…まずい。
俺は精神を集中させる。
「光回復!」
俺は自分の身体に光属性回復魔法を行使した。
だが何も起こらない。
全身の激痛と火傷は治らず、体力も回復しない。
これは…
もしかすると…
俺の魔力が枯渇しているということか…?
俺は元々魔力がゼロである。
光の精霊ヒカリと契約して彼女の魔力を共有して魔法が使える様になった。
だが、ひとたびヒカリと離れると俺は彼女との魔力接続が切れて、
自分の体内に残留している魔力分しか魔法が使えなくなるのである。
俺はこのクラシアの町に救援に来る際に、
ヒカリはホウリシアの王宮に残して来ている。
そもそも俺は魔力が切れるぐらい魔法を連発する何て思いもよらなかった。
これは俺の見通しが甘かったということである。
だがこれは仕方があるまい。
自分の魔力維持の為に、
小さな女の子を戦場に連れて行くなど出来るわけが無いのだから。
何よりも…
魔力が切れるまでに敵を倒し切れ無かった俺の力不足がいけないのである。
そう自省する俺の身体を
巨人の巨大な手がおもむろに掴んで
石の中から引きずり出した。




