第267話 退避誘導
「ほう…光属性攻撃魔法で我の注意を引いたその隙をついて、
騎士どもを救い出すとはな。
くくく、やるではないか人間の女の騎士たちよ。
…いや、まだ年端もいかない子供というべきかね?
『見通しの眼鏡』の計測によると魔力数値は70と72。
先ほどの騎士どもよりは幾らかやる様だが、
所詮人間ではその程度の魔力よ。
我が同志たちよ、奴らを捉え我が前に引きたてるのだ!」
「「「「了解!!!」」」
三体の魔族が瞬時に跳ねて、ふたりの女騎士へと襲い掛かる。
だが彼等の爪が、拳が、牙が届く前に、
女騎士たちの姿が掻き消えた。
「このォ!?
この雌ガキども速いッ?」
「その程度のスピードじゃあシダレの足には付いて来れないよ!?」
「このおふたり、可憐な見た目とは裏腹に随分な手練れですな!」
「鬼さーんこちらー、カエデの方へー」
ふたりの女騎士は騎士をひとりづつ抱えたままの状態で有りながら、
魔族たちの攻撃をひらりひらりと躱す。
「ワレワレをここまで翻弄するとは…
何という身体能力か。
更に身体能力強化魔法を使ってもいるとワレは見たぞ…。
ヴィシル、ガグーン、下がるのだ!
ワガ魔法で一気に吹き飛ばす…
『風空爆発』!」
獣型魔族ライゼガの口から放たれた風の球が弾け、
周囲に凄まじい風圧を巻き起こす。
まさに風の爆弾というべき広範囲風属性攻撃魔法。
「光防壁!」
しかし女騎士たちの前に光の防御魔法が展開、
光の壁に荒ぶる風は完全に遮断されて霧散した。
「うあっ、今のはちょっと危なかったね…
兄様ありがとう!」
「やっぱり魔族は強いねー。
油断たいてきー。
…そろそろ時間稼ぎは限界かなー?
ツツジー、回復のほうはもう終わったー?」
「…うん、終わった。
クラシアの町の守備隊さんたち、国境警備軍の聖騎士さんたち。
みなさんに薬草配り終わったよ…」
「う、うん…俺たちは一体…?」
「確か魔族にやられて…?」
「身体が動く…回復している?
どうしてだ…?」
魔族たちの攻撃にやられて意識を失い倒れていた
守備隊、聖騎士団の皆が次々と目を覚まして起き上がった。
「む…?
あの前髪で顔を隠した女騎士…
今の今まで全く気配を感じ取れなかった?
なるほど…あの俊足の女騎士ふたりは我々の気を引く陽動。
その間に気配を完全に消す技を持った前髪隠れの女騎士が、
我と同士達で蹴散らした人間ども皆に薬草を与えて回復させたというのか?」
「…さあ、みなさん。
薬草で回復させて頂きましたけど、
あくまで身体が動くだけの応急処置的なものですから、
戦いはとても無理です…。
兄様の邪魔にならない様、
急ぎここから退避しますので
私に着いてきて来て下さいね…」
ツツジが先頭に立って
クラシア守備隊と聖騎士団をこの場から退避誘導する。
皆、回復し立てで意識が朦朧としながらも
彼女に従って一斉にあとに続いた。




