第196話 思考文字
「古代文字?
ミリィ、それは一体どういう文字なんだ?」
「ケイガ兄君様、
『古代文字』は別名、”思考文字”とも呼ばれている
この世界エゾン・レイギスでも稀有な特殊文字なんだ。
人間の脳内の思考領域に直接浮かんで文字化されるんだよ。
だから国、種族、民族、そしてセカイすら違っても関係ない。
全てが各個人の脳内でそれぞれ最も使い慣れた文字に訳されて、
視覚化される万能共通文字というべきものなんだ。
兄君様が書き出した文字は、
脳内で訳される前の原文の古代文字の様だ。
文字っぽい様に見えるけど、
その実は規則性の無い”データ模様”と言うものらしいんだ。
元々は精霊様が人間と交流する時に使われていた文字で、
500年前の人間と魔族の大戦終結後に
精霊様たちが人間の前に姿を現すことが無くなった時に
同時に失われた文字なんだよ」
「…う、うん…?
つまり…ミリィの言う通りなら
『古代文字』は、
脳内で自分の国の言葉に訳されるという事なんだろう?
それじゃあ何で?
俺の『見通しの眼鏡』に表示されている
文字は訳されて無いんだ?」
「そうだね兄君様。
『古代文字』が正常に機能していない事は疑いようがない。
ボクは、『見通しの眼鏡』に
何らかの不都合がでているのではないかと思う。
でも、古代文字は精霊様の使われる文字。
どうやって脳内で訳しているのか、
ボク達人間に其の原理は未だに解っていないんだ。
役に立てなくて申し訳ない。
…でも、
『見通しの眼鏡』をお授けになった精霊様なら、
その不都合の原因がわかるんじゃないかな?」
「…なるほどなあ。
それならその”当人”に聞いた方がてっとり早いな。
おーい光の精霊、
突然で済まないけどちょっと姿を現してくれないか?」
俺は自身の頭上の虚空に向けて
『見通しの眼鏡』を俺に授けてくれた当人、
”光の精霊”を呼んだ。
「んー?
おにいちゃん、
よんだ?」
次の瞬間、頭上の空中がまぶしく輝いて
その髪から衣服までその全てが白い幼い少女、
”光の精霊”が姿を現した。
彼女はいつ何時やって来るかも知れない
闇の精霊から俺を護るために”常に”俺の側に居るのである。
このセカイに実体化している時もあれば
今の様に精神体としている時もあるが、
とにかくいつも俺の側にいるから大丈夫と
光の精霊本人に以前説明を受けていたのだ。
だから俺は虚空に居ると思われる彼女に向けて、
今の様に呼びかけたという訳なのである。




