第193話 妨害
「さあ…お兄様…どうぞ…来てくださいませ…」
ポーラ姫は目を閉じると、
まるで超一流の芸術作品を思わせる様な
綺麗な柔肌の頬を俺に向けて差し出した。
「あ、ああ…
それじゃあ…
もう一度…
いくぞ…ポーラ!」
俺はおそるおそる鉛筆を手にした右手を伸ばす。
ポーラ姫を(鉛筆で)突くのはこれで二度目ではあるのだが、
俺は今現在でも全くと言いほどに慣れていない。
それどころか緊張で身体が強張っている始末である。
何しろポーラ姫は超ロイヤルで高貴なオーラを身に纏った、
正真正銘のお姫様なのである。
超一般人である俺がそんな簡単に慣れるとでも思ったか?
そんなの無理に決まっているだろいい加減にしろ!
俺は震える手をポーラ姫の頬に向けてゆっくりと進めた。
…じー…
そんな俺をジト目で見続ける
妹歴16年の我が愛しい妹、
優羽花。
あの…ユウカサン?
そんなに強い目線で見つめられるとですね…。
俺はやりにくいいのですけど…?
「…どうしたの、お兄?
はやくしなさいよ。
ポーラさん待ってるよ?」
動きを停めた俺に対して言葉を掛ける優羽花。
「で…でも…
お前の視線が…」
「別にあたしなんか気にせずに、
どうぞどうぞ?」
「…お、おう…
それじゃあ…」
…じー…
…じっー…
…じっいー…
「…って出来るかあ!」
くそっ!
優羽花のまるで睨みつけるかのようなジト目の視線が気になって、
俺はこれ以上右手を進めることが出来ない!
どうしてだ優羽花っ!?
お前はポーラ姫が言う所の”つんつん”をされるのを嫌がっていただろう?
なのに何故此処でそんなにも俺の邪魔をする…??
完全に動きを停めてしまった俺に気付いたのか、
ポーラ姫は閉じていた目を見開いた。
そして宝石の様な綺麗な碧眼で
俺を覗き込むように見つめながらその可憐な唇を開いた。
「どうしたんですのお兄様?
側に来て…」
「ポ、ポーラ…で、でも…優羽花が…」
「はやく来て、焦らさないで…」
…ゴクッ…
俺は唾を飲み込むと、
ポーラ姫の頬へと手を伸ばした。
お姫様にここまで言わせておいて、
棒立ちの案山子のままで居るなんて…
兄としても男としても失格であろう。
彼女の望みを一刻も早く叶えなければ!
それこそが俺の面目躍如というものである。
俺は意を決して優羽花のジト目の妨害を跳ね退けると、
ポーラ姫に(鉛筆を)突き入れる。
その(鉛筆の)先っぽが彼女に触れるその刹那…
部屋の入り口の扉が音を立てて勢いよく開いた。




