第179話 この世界の知識を
「ああ、委縮させてしまってごめんね、兄君様、ユウカ。
精霊様が召喚した異世界の勇者と戦士であるふたりに
ボクなんかが居合わせていると思ったら、
ちょっと興奮して舞い上がってしまったよ…」
ミリィは俺たちに向かって頭を下げて謝った。
「ああ、大丈夫だよミリィ。
俺たちもちょっと驚いただけだから」
まあ一般人である俺からしてみれば
一国の公爵であり、王位継承権を持つミリィのほうが
よっぽど凄い存在だと思うのだが。
「それじゃあ続いては、
エゾン・レイギスの地形について復習するよ。
精霊様の星が突き刺さっているエゾンリア大陸中央部分は
中央域という通称で呼ばれている。
星の中をつたって地上の人間界と地下の魔界は繋がっているんだ。
そして星の中には精霊様たちが張った結界が張られている。
中央域は魔界にもっとも近い場所。
言わばボク達人間が魔族と対峙する最前線になる訳なんだけど、
此処には人間は一切住んでない空白地域なんだ。
この場所に人が住んでも、
魔界からやって来る魔族にすぐ攻撃されてしまうから
住むことが出来ないというのが正しいね。
ちなみに魔族側も精霊様たちの結界に阻まれて
強力な魔族を地上に送り出す事は出来ないから、
この中央域に強力な魔族軍を常駐させることは出来ない。
つまり魔族もこの地域に前線基地を作ることなどは出来ないんだ。
だから中央域は人間、魔族ともに空白地域になっているんだ。
そして中央域を囲むようにしてこの大陸には人間の国が多数存在する。
ボク達が住まうエクスラント聖王国もその国のひとつだ。
聖王国は精霊様たちが異世界から召喚した人間に
専用の装備を授ける”光の神殿”を領内に持つ国。
そして聖王国には異世界から召喚された人間を
補佐する義務が精霊様達から与えられている。
異世界から来た人間を迎え入れて、この世界の知識を与え、
魔法を教え、必要な装備を整えて、そして魔族と戦って貰うんだ。
つまり今ふたりがボクの授業を受けていることがまさに、
聖王国の補佐のひとつという訳なんだね」
地球の住人である俺たちは、
この異世界エゾン・レイギスについての知識は全く無い。
このままの未知の状態で魔族と戦い、
ましてや人間界を救うなどという大それた事が出来る訳が無いのだ。
まずはこの異世界の知識を、常識を知ることが重用なのである。
このセカイの歴史、仕組み、地形、種族、国、ありとあらゆる事について…
俺と優羽花は知らなければならない。
戦って、生き残るために。




