第172話 自分を大切に
…ヘ、へ、ヘタレちゃうわ!
俺は衝撃の余り脳内が関西弁になってしまうぐらい動揺した。
”ヘタレ”とは弱しく臆病で情けない性格の様である。
言葉の使用用途としては、
アニメやゲームで言う所の多数の女性から思いを寄せられているにも関わらず
はっきりとしない男の主人公を差して”へたれ主人公”と呼ぶ其れが有る。
俺は…ヘタレじゃない!
確かに俺は、ポーラ姫、ミリィ、
姫騎士団のみんなに好意を持たれている様である。
だが俺と彼女たちはあくまで兄と妹の関係なのである。
彼女たちの好意の元を辿ればそれは妹が兄を慕う気持ちの其れなのだ。
そこを勘違いしてはいけないのである。
そして兄は妹を性的な目で見ることなく愛し慈しむものなのだ。
俺は男である前に兄なのだ!
だから俺はヘタレじゃない!
女性たちの思いにはっきり応えることなく、
はぐらかすヘタレ主人公とは根本的に違うのである!
大事な事なので何度も言うぞ俺は!
俺はヘタレじゃない!
「…イチョウ、モミジ、その様な事は言ってはいけませんよ。
お兄様はあくまで清き兄妹の関係を保ちたいという事でしょう」
ポーラ姫が諫めるような口調で二人に言葉をかける。
そ、そうなんですよポーラさん!
俺は心の中でポーラ姫に何度も頷いた。
「ですが…わたくしには両想いなのに
何もしないと言う兄様のお考えが理解しかねます。
”据え膳食わぬは男の恥”というお言葉もありますし、
立場のある姫様やミリィ様、団長ならばいざ知らず…
わたくし程度の女で宜しければ、
お兄様の思いのままに
何時でも何処でも兄様の愛を受け入れますわ」
「モミジも平気、兄様が遠慮することは一切無い」
イチョウとモミジはそう言葉を返した。
俺はふたりが自分の身を俺の二の次にしていると感じた。
そしてその言葉にいたたまれなくなって…思わず口を開いた。
「そういうことは言っちゃダメだイチョウ! モミジ!」
「…ケイガ兄様?」
急に声を荒げた俺に動揺の色を見せるイチョウとモミジ。
だが俺は構わず二人の肩に手を置いて言葉を続ける。
「俺にとっては皆、愛しい大切な妹なんだ。
だから俺は…俺の都合で皆を好き勝手にするとか絶対に出来ないし、
俺がそういうことをするのを皆は許しちゃいけないんだ!
だからイチョウ、モミジ、
俺の思いのままにすれば良いとか、
そういうことを言っちゃいけない!
ふたりが一番優先すべきは俺じゃない、自分自身なんだ!
人は何よりも自分を大切にしないといけないんだ!
まずは自分が無事にあってこそ…
そうじゃないと誰も護れない!
自分を護れない者が他人を護れるわけが無い!」
俺はふたりに対して自身の思いを噴出させて声を上げた。




