第158話 回転お姫様抱っこ・六連
「そういえばシノブさんが居ないなあ。
どうしたんだろう?」
先の朝食早食い選手権でシノブさんはモミジに次ぐ堂々二位。
しかし彼女はいつの間にか姿を消しており、
三位のミリィに先にお姫様抱っこをしている現状である。
「ケイガ兄君様、シノブは思う所があるからって言ってボクに先を譲ったんだよ」
「…思う所?」
俺はそう答えるミリィを床に下ろす。
そしてシノブさんは今も姿を現さない。
ならば四位が繰り上がりで先にお姫様抱っこということになるのかな?
「…ん、お兄い」
朝食早食い選手権、四位の優羽花が俺に向かってぶっきらぼうに手を差し出した。
まるで渋々と言った感じの動き。
でも彼女は妹歴16年の俺の愛しい妹。
優羽花とは過ごした年季が違うのである。
彼女はアニメや漫画で言う所のツンデレなのである。
俺が一番優羽花のツンデレはよくわかるんだ!
…まあ俺がよく分かるのはツンの部分であるのだが。
優羽花は今俺に対しこの様な振る舞いをしているが、
別に俺にお姫様抱っこされるのが嫌という訳では無い。
だいたい本当に嫌ならば、
そもそも早食い選手権に参加などする訳が無いからである。
つまり俺がすべき対応は、彼女が望むままを行動で示すのみである。
俺は優羽花を抱き上げた。
「どうだ?
優羽花?」
「…悪くない」
「そっか」
つまり優羽花にとってお姫様抱っこはとても良かったという事である。
俺はぷいとそっぽを向いたまま、
頬を赤らめている彼女の顔を見ながらその心境を察した。
…しかしいつも通り素直では無い彼女の反応を見ると…
兄としてはちょっと悪戯心が出てしまうものである。
「…よし行くぞ、優羽花!」
俺は彼女をお姫様抱っこしたままその場をクルクルと回り始めた。
「ちょ、ちょっと何するよお!?
馬鹿お兄い!」
「何って…昔、優羽花が俺に抱っこされた時、
こうやって回ったら
きゃっきゃっと喜んだじゃあないか?」
「何時の話よそれ!?」
「優羽花が俺の家にやってきた頃の話かなあ」
「そんなのあたしが覚えている訳無いじゃないのよお!」
俺は回転の速度を更に上げる。
優羽花を抱き上げたまま、
眼にも止まらぬ速さで回転する俺。
名付けて、『回転お姫様抱っこ・六連』
そして俺は…酔った。
「うっ…気持ち悪い…」
「馬鹿じゃ無いの!?
…うっあたしも…」
兄妹歴16年の俺たちは仲良くその場にうずくまった。




