第149話 乙女心と秋の空
「ちょっとお待ちになって下さいましクレハ!
何であたくしの目の前でケイガ兄様と急にイチャイチャし始めましたのっ!?
そもそも兄様は、あたくしと話していましたのよ!
其処を突然真横から!
兄様を横取りする様な真似は辞めてくださいまし!」
「イロハ、私は横取りだ何て無粋な真似をした覚えはありませんよ?
そもそも…ケイガ兄様のご厚意を無下に振ったのは貴女ではありませんか?
私はイロハの動向を確認したうえで兄様に話しかけたのですよ」
「あ、あたくしは兄様を振ってなど居ませんわ!
あれはちょっとした照れ隠しなのですわ!
あたくしが兄様の厚意を本気で断ることなどありえませんし、
本気で兄様相手に怒る等もっと有り得ませんの!
これはそう、
あたくしの複雑な乙女心が為せる、
秋の空の如き形相なのですわ!」
「そんな身も蓋もない我儘で兄様を振り回して…
あまりご迷惑をお掛けしてはいけませんよイロハ。
ケイガ兄様は私たち、姫騎士団、
ユウカ様、姫様たちと沢山の妹を抱える兄様です。
少なくとも姫騎士団団員は、
なるべく兄様に気配りをして余りご負担を掛けない様にしなくては」
「わ、わかっておりますわよ…」
「ふふ、イロハ。
わかればよろしいです。
それではケイガ兄様…。
名残惜しいのですが私がいつまでも兄様の腕の中を独占する訳には行きません。
そろそろ下ろして頂けますか?」
「ああ、わかったよクレハ」
俺は腰をかがめると彼女を地面に下ろした。
「ですがその前にもうちょっとだけ」
クレハはそう言うと
再度、俺の頬に自分の頬を擦り寄わせた。
うあっ…またしても!?
彼女の柔らかい頬の感触が俺の頬に伝わって…
気持ち良ッ…。
「兄様はこうされると気持ちが良い様ですね。
ですが私如き無骨な女にこうも簡単に心揺らされる様ではいけませんよ?
これはちゃんと克服すべき案件かと思います。
ですから後日”ふたりっきり”で訓練いたしましょう兄様」
「えっ!?」
俺はクレハからどきりとする言葉を聞いて思わず彼女の顔を見た。
クレハは妖艶な女性の表情で微笑んで俺の側から離れていった。
またしても俺は彼女に度肝を抜かれてしまい呆然と佇んでしまった。
俺はついさっき迄、クレハは武人肌の女騎士さんで
こういう色気染みた事とは無縁の女性とばかり思っていたのだ。
だから彼女の意外な一面に俺はやられっぱなしなのである。
…だが兄としていつまでも呆けている訳にはいかない。
俺は気を取り直すと、イロハに自身の身体を向けた。




