第139話 幻の大技
「そ、そうなんですの…?
それではこのお子さんは…
まさか、ミリィお姉様とケイガお兄さまとの愛の結晶!?」
「そんな訳ないよね!」
ミリィの再度のツッコミが響き渡る。
俺は今回のツッコミは見送った。
天丼はしなくても良いよな?
ツッコミの箇所が多すぎて俺はもう疲れたてしまったのである…。
ひとつめは一緒に寝るだけで子が宿るいうこと。
俺ナニもしてないよ?
ふたつめは一晩で子が生まれるということ。
早い早すぎる。
みっつめは産んだのが俺だということ。
俺は筋肉モリモリマッチョマンの変態か?
シュ〇ちゃんか?
ポーラ姫の性教育どうなってんの?
おかしいですよミリィさん!
「お兄!
朝早くからうるさいんだけど!
何かあったの?」
突然部屋の扉がバタンという音と共に勢いよく開いて、
妹歴16年の俺の妹、鳴鐘 優羽花が踏み込んで来た。
「ゆ、優羽花!?
どうして此処にッ?」
「ああ、兄君様。
ユウカは隣の部屋の寝室で休んで貰っていたからね。
ボクたちが騒がし過ぎて、
ユウカを起こしてしまったみたいだね…」
「そっか…優羽花は隣の部屋に居たのか…。
そういえばシノブさんに優羽花の部屋を聞いておくのを忘れていたなあ」
「あ、あ、あんた…!
何してんのよおおッーー!!」
優羽花は俺を指さしながら口をわなわなと震わせると、
怒りに満ちた表情で俺に詰問する。
「何って…俺は寝てただけだが…?」
そう答えながら俺は自分の状態を確認する。
俺はベッドに横になっている。
横には見目麗しい美少女であるポーラとミリィ。
そしてお腹の上には幼い美少女である光の精霊が乗っている。
ああ…これは…。
傍から見たら酷い光景だな。
酒池肉林かな?
”ブチィ”と優羽花から何かが切れる音がした。
「…お兄…」
優羽花は
まるで幽鬼の様にゆらりと俺に歩み寄ると、
その手に持っていた星剣を鞘から引き抜いた。
「優羽花、待て!
これは誤解だ!」
「ふぅん…
お兄の大声がしたから
一応心配になって急いで様子を見に来たら…
みんなと仲良く一緒に寝ていたって訳なんだ…ふぅん」
「違うんだ優羽花!
話せば長くなるが、
端的に言うと俺は無罪だ!
俺はナニもしてないっ!!」
「お兄をころしてあたしも死ぬうううーー!!」
「う、うおおおおおーー!?」
優羽花は星剣を大きく振り上げると俺に向かって全力で振り下ろした。
俺は両手のひらで剣を挟み込んでその一撃を受け止めた。
いわゆる幻の大技、”真剣白刃取り”という奴である。
あくまでも創作世界の技とされ、
所詮大道芸人の見せ技とも称され、
現実の戦いでは再現不可能とされる本技ではあるが、
攻撃側の腕が防御側の腕より著しく劣っていれば可能ではある。
優羽花の剣術は素人、
対して俺は地ノ宮流気士術の修練を十数年積んでいる。
そして勇者の専用武器である『星剣イクシオン』も、
振り下ろした相手が魔族では無く只の人間であることから
その力を発揮する事をしなかった。
以上の様々な要因から俺は運良く…
この真剣白刃取りという幻の大技に成功したという訳である。




