第135話 ぬくもり
「と、とにかく!
ケイガ兄君様は眠ってしまったし、
今後の話については明日にしようよポーラ。
…ポーラ?」
ボクの言葉をよそにポーラは
ベッドで眠っている兄君様の側に立つと、
掛かっている布団の右側の端をめくり上げた。
「それではお兄さま、失礼いたしますわ」
ポーラはそのまま兄君様のベッドに入り込むと
自身の身体の上に布団をかぶらせて、
兄君様と完全に同衾する形になった。
「ちょ、ちょっ、ちょっと待つんだポーラ!
一体何をしているんだい!?」
「…ミリィお姉様、
こんな近くで大声を出されてはお兄様を起こしてしまいますわ。
せっかく安らかにお休みになられているのに、
それはいけませんの。
しー…ですわ」
「…あ、ああ…そうだね…それでは小声で…
何をしているんだポーラ…
兄君様と床を共にするなんて…!」
「ミリィお姉様。
わたくしは不肖の妹ながら、
お疲れのお兄様を少しでも癒して差し上げたいと思いましたの。
何でも人肌のぬくもりが母の胎内を思わせて、
人にとって一番安らげる温度とか?
ですから…こうやって添い寝をすることで、
お兄様がより心地くお眠り頂ければ…と思ったのです。
その様にミリィお姉様の蔵書の本にも書いてありましたわ」
「…なるほど、そういうことかぁ。
びっくりさせないでよポーラ。
ボクはてっきり夜這いの類かと思っちゃったじゃないか…
って、何で服を脱いでいるんだいポーラっ!?」
「より人肌のぬくもりを伝えるためには
裸になるのが一番と、
ミリィお姉様の蔵書の本には確かにそう書いてありましたわ」
「…そ、それは、ボク所有の趣味本に書いてあったコトだね…。
確かにその情報自体は嘘ではないかも知れないけど…
何でもかんでも本を鵜呑みにするのは止さないかポーラあ…!
とにかく兄君様が起きないうちに脱ぎかけた服を戻すんだ」
「わかりましたわお姉様。
それでは…服を着直しました…。
それじゃ、おやすみなさいませ…
…ミリィお姉様…すやすや…」
「って、そのまま兄君様と一緒に寝るのかい!?
し、仕方ないなあ…」
ボクはケイガ兄君様の右隣で眠るポーラと反対側の、
兄君様のベッドの左側に移動すると、
布団の端をまくってベッドの中に自身の身体を潜り込ませた。
「ポーラひとりを兄君様と寝かせて
万が一だけど、何か間違いがあってもいけないし、
これは念のためボクが見張るという理由だからね。
別にポーラだけ兄君様と一緒に寝てズルいとか、
ボクも一緒に寝たいとかそういうコトでは無いんだからね…!
…ふ、ふぁあ…ボクも今日は疲れたから…
…すごく…眠くなって…すぅ…すぅ…」
以上が、ミリィが聞かせてくれた
俺が二人とベッドを共にすることになった敬意である。




