第116話 生命力の差
「フフフ…アタシはアナタのご希望通りしっかり名乗ったわヨ。
次は童貞クンの名前を教えて欲しいナ?」
リリンシアはゆったりとした動作で、
俺に向けて手を差し伸べながら言葉を紡ぐ。
その動きも言葉もとても穏やかなもの。
だがその穏やかさとは裏腹に、
彼女の身体からとてつもない圧力が巻き起こった。
それはまるで…突如台風の中に投げ出されたが如く。
俺は吹き飛ばされまいと必死に地面を踏みつける。
「俺の名は…鳴鐘 慧河だ!」
俺は大きく息を吸いこむと大声で叫んで名乗りの口上を上げた。
所詮は強がりである。
だが強がらなければ…彼女の圧に気圧される!
「フフフ、ケイガ…良い響きの名前ネ。
それじゃあケイガクン。
今からお姉サンと遊びましょうネ♪」
リリンシアの腰より長い髪がふわりと浮いたと思いきや、
それはまるで巨大な蛇の如くのたうって伸縮し、俺に襲い掛かって来た。
俺は咄嗟に身体を横に逸らしてその一撃を躱す。
リリンシアの髪は俺の真横を通り過ぎると弧を描いて方向転換し、
その先端を再び俺の方へと向けた。
「ふうン、目も身体の動きも良いみたいネ。
それなら複数ならどうかしらネ?」
リリンシアの髪は枝分かれして、数多の蛇の群れと化して俺に迫り来る。
先程の一撃を間近で見て感じるに…
この髪攻撃の硬度は鋼並みと俺は分析した。
ならば!
俺は気を練り上げて技を行使する。
「地ノ宮流気士術・三の型、金剛!」
俺は自身の肉体を鋼並みに引き上げる。
そして高速の拳の連撃を撃ち放って、
リリンシアの怒涛の多方向同時攻撃を捌き切る。
「へえー、この攻撃も効かないんだ?
すごーい!
期待以上の力じゃナイ!
それじゃあ別の遊び方を考えないとネ♪」
リリンシアは俺に称賛の言葉を述べると、
蛇の群れの如く蠢いていた自身の髪を元の状態に戻した。
攻撃手段を変更するつもりか?
だがそうはさせない!
俺は彼女の一瞬の隙を逃さず一気呵成に攻撃に転じる。
地を蹴り上げて一瞬でリリンシアの間合いに飛び込むと、
俺は右拳に気を集中させた。
「地ノ宮流気士術・一の型、雷迅!」
俺は雷撃状の気を纏った正拳突きをリリンシアの腹部に向けて撃ち込んだ。
どおん!
轟音が周囲に響き渡る。
今のは手応えがあった。
だがリリンシアは気を放出し終えて無防備になった俺の右手首をがしりと掴んだ。
「フフフ。捕まえたワ」
そんな…『雷迅』は土くれの巨人を一撃でバラバラする程の威力が有る。
それをまともに受けてノーダメージだと言うのか!?
「ウフフ、そんなに驚いた顔しなくて良いのヨ。
今の技はちゃんとアタシに効いているワ。
でもね、アタシの生命力は人間に比べて高すぎるから
それぐらいのダメージじゃ全然足りないのヨ。
そうねえ、生命力が一万あるのに与えたダメージが百じゃネ…
って例えがわかりやすいかしら?」
リリンシアは俺の右手首を掴み続けながら言葉を述べる。
まずい!?
このままでは捕まってしまう!
「地ノ宮流気士術・一の型、雷迅!」
俺は気を纏った左拳をリリンシアの腹部に撃ち放つ!
どおおん!
再び轟音が周囲に響き渡る。
この一撃はさっきよりも手応えがあった。
しかしリリンシアは特に気にする様子も無く、
俺の左手首をがしりと掴んだ。
そして俺の両手首を掴んだまま、俺をぐぐっと押し込んでいく。
…こんな細腕にも関わらず何という凄まじい力!?
「ウフフ…このまま押し倒しちゃおうかしらネ」
リリンシアは妖艶な笑みを浮かべた。
そして俺に覆い被さって来る。
申し訳程度に覆った彼女の衣服の間から、
その魅惑的な腕が、足が、胸が、腰があらわになった。
「フフフ…このままケイガクンの童貞を貰っちゃうのも良いかもネ」
こ、このままでは…
俺の背筋に冷たいものが走った。




