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第110話 心からの謝罪

「う、ああああああッーー!?」


 俺は、がばあ!

 と顔を上げて、身を仰け反らせて、跳ね跳んで、

 覆いかぶさっていた静里菜から急ぎ自分のカラダを引き剥がした。


「急にどうしたんですか? 兄さん?」


静里菜(せりな)はきょとんとした顔で俺に言葉を掛けた。


 急にも何も!

 俺は!

 俺という奴は!

 愛しい妹に対して!

 何という事をしてしまったのだッ!?


 俺は自身の浅はかな行動を呪った。


 俺はこの王宮のお風呂に入ってからと言うもの、

 色々とやらかしている。

 兄として、妹たちに無様な醜態を晒しまくってるのである。

 どうしてこんなことになってしまったのか…

 慢心?

 環境の違い?


 冷静に判断するなら、

 西洋ファンタジー的な異世界に何の前触れも無く飛ばされて、

 生死のやり取りの戦いに満ちたこのセカイに

 心身ともに疲労困憊していたところに、

 日本式の旨い料理と快適なお風呂をお出しされて、

 今まで張っていた気が緩んでしまい

 完全に油断してしまったという所だろうか…。


 流石にその散々っ振りから俺は学び、反省した。

 明日からは心機一転、心身ともに一から鍛え直して

 一刻も早く立派な兄に成ろうと、

 先程決意を固めたばかりである。


 そんな俺ではあったが、

 この夢の中のセカイには完全に油断してしまった。

 夢の中だと言うのなら、現実世界には何の影響を及ぼさない。

 …ならば、何の遠慮も無く、欲望のままに振る舞っても良いのでは?

 と俺は心底思ってしまったのである。


 しかし目の前に居る俺の妹歴16年の妹、

 地ノ宮 静里菜(ちのみや せりな)は、

 ここは夢の世界ではなく、

 彼女が俺と連絡を取る為に

 夢の世界を土台にして巫術(ふじゅつ)で造り上げた精神世界であり、

 自分は夢のセカイの人物では無く本物だと言う…

 俺にとって残酷な答えを述べたのである。


 俺は何という事をしてしまったというのだろうか…

 例え夢の中とは言え、

 自分の愛しい妹相手にやりたい放題などと…

 その様な思考に及ぶこと自体が間違いだったのだ…

 そしてその思考のままに行動してしまった…

 そう、俺は反省した様にみえて…

 全然反省が足りなかったのである…。


 真の兄ならば!

 たとえ夢の中であっても!

 愛しい妹に対しては!

 兄として正しい振る舞いをしなければならなかったのだ!


 何がともかく…俺は、静里菜に対して、誠心誠意、心から、謝る事とした。


 俺は着ていた服を正し、襟元を整え、姿勢を正す。

 そして彼女に向かい正座をして、手の平を地面に付け、額を地面に付くまで伏せた。


 日本の古来からの謝罪礼法『DOGEZA(土下座(どげざ))』である。

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