第102話 魔鋼製鎧(マジックメイル)
「おまたせしました、ケイガ兄様」
「いいえ、そんなことは無いですよシノブさん」
俺は銭湯の入り口でシノブさんが出てくるのを待っていたのだが、
思ったいたよりも遙かに早く出てきて、正直びっくりした程である。
待っていた理由は至極簡単。
この王宮の勝手を俺は知らない。
そして今から何処に行けば良いかもわからないのである。
王宮内のこの銭湯もツツジとシダレが案内をしてくれたから来ることが出来たのだ。
今の俺には王宮を知り尽くしているシノブさんの先導が必要なのである。
しかし銭湯の入り口の前で待ち合わせとか恋人同士みたいですね!
まあ所詮は兄と妹の関係なんですが。
「…それにしてもシノブさん。
着替えるの凄く早くありませんでしたか?
その鎧を着るのは結構大変な様に俺は思えるのですが」
俺は全身を鎧に身を包んだ凛々しい女騎士であるシノブさんの姿を見つめながら疑問を口にした。
「ああ、これはですねケイガ兄様。
私たち姫騎士団の鎧は最新の魔工技術で精製された、
軽くてどこまでも伸びる特殊な物質で作られた魔鋼製鎧なので、
見た目に反してとても着やすいのですよ。
…触ってみますか?」
シノブさんはそう言って自身の右肩を覆う肩当ての部分を指さした。
それじゃあ…俺はその肩当ての部分を触って見る。
うん?
これは…?
まるでゴムみたいな感じがするぞ。
両側を引っ張って伸ばしてみる。
おおう!
どこまでも伸びそうなぐらい柔らかい。
そして離すとすぐに元に戻る。
非常に軽く伸縮性に優れている物質の様だ。
なるほど、これなら身体の動きを阻害されることも無い。
シノブさんもお風呂から上がってすぐに、
今の鎧姿に着替えることが出来たという訳だ。
これだけ見るとゴムの様に見えるが、
姫騎士団は黒川課長の作り出した土くれの巨人の巨腕の攻撃を受けても無傷だった。
つまりこの鎧はそのゴムの様な伸縮性を持ちながら、
ゴウレムの岩のような一撃を防ぐ堅牢さを併せ持つという事になる。
俺はこの異世界エゾン・レイギスの文明レベルは、
地球で言うところの中世時代ぐらいの文明レベルと最初は思っていた。
だが先程の日本の銭湯をほぼ再現した技術、
そして目の前のこの鎧を見るに…
この異世界の文明レベルは地球に近いどころか、超えている可能性もあるのでは?
と俺は思い始めた。
そもそも”魔法”が存在する世界なのだ。
技術の方向性が地球とは根本から違うだろうから、
比較することすらおこがましいのかも知れない。
俺は自分の考えの浅はかさを思い直した。




