第2章 51『魔力の暴走』
2月は忙しくて、1話しか更新出来ませんでした。本当に申し訳ございません。
「よーし、次は選択授業だ!全員、事前に知らされた場所に遅刻せず着くように」
A組学級委員のカインが座学の授業終了と同時に声を上げた。
「お前、どこ受けんの?」
「俺弓術」
「俺、剣術応用」
アスタが選択したのは『魔法応用』サムの授業だ。アスタは既にサムの授業を受けているのだが、今回は科目が違う。基礎から応用になったのだ。おそらく、授業内容は変わっていることだろう。
「アスタも魔法応用か」
「ミカエルも?」
「ああ、魔法は学んでおいて損になる事はないしな」
アスタの用紙を覗き見したミカエルが自分と同じ科目だと告げた。
「それに、他にも魔法応用を取っている奴はいるぜ。なんせ、魔法は単位を一番取らなきゃいけない科目だからな。俺ら以外にも成績を上げる為に取る奴は他クラスにも多くいるだろうな」
ミカエルの表情は一週間前と違って生き生きとしている。ミカエルの中で何か吹っ切れたのか、口数も前より多くなっている。これが本来の彼なのだろう。
「そういや、ヨハネは何を取ったんだ?」
「ヨハネは魔獣研究だったと思う」
「魔獣研究?そりゃなんで……ああ、そういう事か」
「ヨハネが魔獣研究を選んだ理由、俺も今朝分かったよ」
アスタも察しての通り、おそらく、ヨハネが魔獣研究を選んだ理由はそれこそ『正義』の為だろう。人々を襲う魔獣の生態を知って、将来に役立てたい。おそらく、ヨハネが魔獣研究を選んだのはこんな所が理由だろう。
「おい、行くぞ!遅刻するぞ!」
「──ん?」
気付けば、教室にはアスタとミカエル以外は各々教室を出ていた。それに対し、カインが軽く怒りながら声を掛けた。知らない内に着替えの為の時間が過ぎ去っていたのだ。アスタは時計の方を見て、着替える速度を早めた。しかし、ミカエルは時計ではなく、何故かカインがいる方とは逆のドアを見てから時計を見た。
「おい、やばいぞ!いつの間にかこんな時間に……」
「あの人遅刻には五月蝿いからなぁ、間に合わなかったら間違いなく怒られるだろうな」
「うわっ、そりゃ面倒くせえ。単位も取れなくなるかもだし」
「何をしているんだ!口を動かす暇があったら手を動かせ!」
「はーい」
アスタとミカエルは急いで運動着に着替え、駆け足で教室を出た。
「…おい!急ぐぞ!」
アスタが教室を出た後、ミカエルもそれに続いて教室を出たが、途中で立ち止まり、進行方向とは逆を向いた。それにアスタが反応し、声を掛けたが、ミカエルは考え事をするように立ち止まったままだ。
「すまん、アスタ。ちょっと便所!先に行っててくれ」
「…おう」
十五秒程間を置いた後、ミカエルは突然の尿意に襲われたのか、トイレへと駆け込んだ。
「そんなに我慢してたのか?」
△▼△▼
「遅い」
魔法応用の授業が始まるまで後一分を切った。既に集合場所である魔法館三号館の地下三階ではミカエルを除き、魔法応用の希望者全員が集まっていた。
「ホーフノー、何か聞いていないか?お前、何時も彼奴といるだろう?」
「自分は、トイレに行くとだけ聞いています」
「トイレか……」
サムが壁に掛けられている時計を確認し、より一層表情が険しくなる。
(後三十秒もないぞ。何やってんだよミカエルは)
サムの表情が険しくなるに連れ、授業開始を待っている生徒達にも不安が芽生え始める。こんな事でサムが不機嫌になり、授業の内容に支障をきたしたくない事と、気分良く授業を始められない事に心底怯えている。それはアスタも例外ではない。サムの怒る姿をまだ見た事ないから。
(あれはノーカンだからな…)
よくよく考えてみれば、最初の上級生との魔法基礎の授業の時も怒られた気もするが、あれは怒られたと言うよりかは呆れられたと言うのが正しいだろう。だからこそ、あれはノーカウントと判断した。
時計の針が着々と刻を刻むと同時に生徒達の心拍数も少しずつ上がっていく。扉の向こうからはまだない人の気配、その方向を見つめるサム、誰もが一人遅刻を確信した。
しかし、アスタには聞こえた。
「……ん?」
扉の向こうからはまだ人の気配はない。だが、その向こう、魔法館へと続く階段を下りる足音が聞こえる。息遣いが聞こえる。
(残り時間は!?)
この足音はミカエルの物だ。始業のベルまで残り二十秒未満、アスタはミカエルがここへ向かっている足音を聞き取ったのだ。
「……ッッ!!」
そして、サムが時計から視線を離す。それとほぼ同時に出入り口の扉が勢いよく開かれる。
「はぁ、はぁ…」
ミカエルだ。息を切らし、両膝に体重を掛けて前屈みに強く呼吸をしている。
「すいません……遅れ…ました…」
(七秒前か。……何かあったな?)
──チリンチリンチリン
ミカエルのこの慌てよう、サムは何か事情があって遅れそうになったのは察していたが、この場では敢えてそれに言及はしなかった。
「ミカエル・ブレア、出席番号順に並べ。今回の事は初回授業と言う免罪符の元、目を瞑っといてやる。次からは時間に余裕を持って行動するように」
「……はい」
遅刻こそしなかったものの、ミカエルはサムから軽い拳骨を貰った。それもそうだろう。騎士になれば、時間に遅れる事は許されない。一分一秒の差で人命に関わる局面もあるからだ。今の拳骨はその自覚を持たせる為の拳骨なのである。
「それじゃ、各自準備運動から始めろ。特に腕と股は伸ばしておくように」
サムはそう一言発すると、運動前のアップは各々に任せ、授業の準備の為か、この場から離れた。
* * * * *
準備運動を開始して十五分、アスタとミカエルは二人一組で背中を押して柔軟をしていた。
「トイレにしてはヤケに長かったな。出なかったのか?」
アスタは興味本位からミカエルに危うく遅刻しそうになった理由を聞いた。
「馬鹿言え。そんなんじゃねえよ」
「んじゃ、何してたんだ?」
「それは……」
「全員整列!授業を始めるぞ!」
ミカエルが何か言おうとした瞬間、カインの声が響いた。準備運動終了の合図だ。
「まあ、この話はまた後でだ。──行こうぜ」
「ああ」
そうして、全員が番号順に並んだが、サムの隣に見慣れない人物が一人いる。白のマントを羽織い、整えられた制服を着こなしている少年だ。
(あれは……どっかで見た事があるような)
何処で見たかまでは思い出せないが、アスタはこの少年に見覚えがあった。
「今回はお前達の為に特別講師に来てもらった」
特別講師、その言葉に各々が軽く反応をし、不思議そうに少年の方を見る。この少年はアスタ達とそれ程歳も変わらないように見える。
「あの人はっ……」
だが、その人物を見て、驚く表情をする者もいる。
「名前を」
「はい。──今日は皆さんの特別講師をさせて頂くことになりました。王国騎士第七師団副隊長のエマです」
王国騎士第七師団副隊長エマ、この言葉に全員が呆気に取られ、反応しようにも出来なかった。この男が王国騎士なだけでも驚きなのに、騎士の中でも実力者しかなれない副隊長ともきたものなのだから尚更だ。
「えっ…」
「……えぇっ!?」
そして、時間差で生徒達は各々反応をした。どれも同じような反応の仕方にサムはただ静観を貫いていた。
(何処かで見た事あると思ったら…あの時の)
ここで全てのピースが当てはまる。彼は入学試験の時にサムの隣にいた騎士だ。
「此奴は俺の元教え子でな。十四歳にして、飛び級で此処、アインリッヒ大学を卒業。その後は最年少で王国騎士団の副隊長の座に着き、二年前の魔王軍南下の際に魔王軍幹部を生捕りにした男だ。今日はお前達の為に特別に来てもらった」
場が大きく盛り上がり、生徒達の話し声でやや五月蝿くなる。
「君達も王国騎士の誰かに認められて此処に入学したと思う。今日は僕にその実力を見せてほしい。では、サムさん」
「ああ、今回はいつもの魔法基礎で行う授業ではなく、魔法を応用した技術を身に付けてもらう」
エマが一言話した途端、話し声が止み、早速、授業を進める為にサムへとバトンを渡した。
「では、各々用意した木剣を持て。それで五十回素振りしてから俺の授業は開始だ」
(木剣?魔法の授業なのに?)
この授業名は魔法応用。魔法と名の付く授業なのに木剣を使うとは予想外だ。これには誰もが想定の範囲外だったようで、困惑して木剣を取ろうとしない。
「いいからさっさと木剣を振れ。じゃねえと、俺の授業は始まらんぞ」
「はっ、はい!」
そんな戸惑っている生徒達に嫌気が差したのか、少し強めの言動で木剣を持つよう指示すると、一部の生徒は震え上がり、木剣を持って素振りを始めた。
「しかし、よく来てくれたな。お前も暇じゃなかっただろうに」
「いえいえ、先生直々のお願いとあっては断れませんよ」
「先生って……俺はそこまで出来た人間じゃないぞ。お前みたいな天才でもない」
「そんな謙遜しないでください。貴方が僕の先生なのは事実ですし、僕は天才じゃありません。王国騎士団に入って、嫌という程痛感しましたよ」
「いや、お前は天才だ。その目は天が与えた二つとない物である事は間違いない。……ただ、彼奴らが化け物なだけだ」
「化け物って、貴方もその一人でしょう?元第五師団隊長なんですし」
「俺は化け物なんかじゃない。今の俺は、責任から怖気ついた…ただの臆病者だ」
「………」
生徒達が木剣を振っている中、サムとエマは二人にしか分からない会話をしていた。
「しっかし、なんで木剣を振らなきゃいけないんだ?」
「さあな。だが、この後やる事と関係があるんじゃないのか?王国騎士まで連れてきたんだし」
魔法の授業なのに木剣を振る。その真意が未だにアスタは分かってはいない。無論、それはアスタだけじゃない。ミカエル、カインを含め、サムとエマを除いた全員が分かってはいないだろう。
「……五十!!」
そして、漸く五十回素振り終え、サムとエマの目の前で生徒達十八人は整列した。
「サム講師、一年A組、B組全員の素振り終わりました!」
「そうか。報告ご苦労。では、授業を始める。今回お前達に習ってもらうのは、魔法を使った応用技だ」
(応用技…?)
「これは非常に高度な技だが、習得する事が出来れば、お前達は次のステージへと進む事が出来る。今回は特別講師のエマを見本として、一番実用性の高い応用技を覚えてもらう。──エマ!」
「はい」
エマは腰から騎士剣を抜くと、腰と頭を下げ、柄を強く握る。
「『ウィングブレード』」
そして、この一言の後、目では追えない速度で剣を振り切った。
「え?」
今の一瞬で何が起こったのか、あの見えない神速とも言える速さの剣術を見せて何をしたかったのかと生徒達全員は思ったが、次の瞬間には全員が己の目を疑うことになる。
ズズズズ
すると突然、何の前触れもなく、此処から約二十米離れた所にある木が三本、斜めに二つに別れた。
「これは……」
「分かったかお前達?今のがウィングブレードだ」
「ウィングブレード……」
「ウィングブレードは風属性の中級魔法ギャストウィングと剣を振る時の初速を合わせた、所謂、魔法の応用技さ」
「そうだ。個人差はあるが、これを会得する事が出来れば、相手の間合いの外から攻撃ができるし、魔法の弱点である接近戦を大きくカバーする事が可能だ。ちなみに、鍛錬の練度にもよるが、人によって、飛ばせる斬撃の距離には限界がある。俺は最高二十三米」
「僕は四十米。でも、王国騎士団の中には最長百二十米飛ばせる人もいるからね。その人に比べれば僕もまだまだだよ。君達には此処を卒業するまでに最低十五メートルは飛ばせるようになっててほしいかな。最も、習得出来ればの話だけど」
剣術と魔法が組み合わさって出来る応用技を覚える。これが魔法応用の授業の目的である。
「そうだ。しかし、やり方も簡単とはいかない……カイン!」
「はい!」
「試しに、ウィングブレードを使えるか試してみろ。さっきの見様見真似でいい」
「──え?」
突然匙を振られ、カインは困惑している。習得していない技術であるから当然だろうが。
「どうした?やらないのか?」
「や、やります!」
急に見様見真似でやれと言われても普通は出来る筈がないだろう。A組の学級委員で入試の成績も上位のカインでも、まだギャストウィンドすら習得していない。そんなだから、勿論、斬撃が飛ぶ筈もなく、ただ木剣を振っただけに終わった。
「ぐっ……」
「まあこのようにそもそもギャストウィンドを使えていないと、練習にすらならない。だから、ギャストウィンドをもう使える奴で説明をしていく。メモを取っておくように。──では、ホーフノー!来い!」
「はい!」
(……四十五点の。あれから点数の変動はなしか)
一方的ではあるが、エマはアスタの事を知っている。それだけ、アスタの顔は王国騎士の中でも広まっているのだ。
「えーと…自分もあれを見ただけじゃまだ出来ないと思うんですけど」
「大丈夫だ。ウィングブレードはギャストウィンドが軸になっているからな。幼少期から魔法を使っているお前なら出来るだろう。エマ、手取り足取り教えてやれ」
「はい。──ホーフノーくん、先ずは腰を落として」
「こうですか?」
「そう。それで肘の角度は九十度より少しだけ曲げて、詠唱を……いや、君は必要ないか」
「──?」
(彼が無詠唱の魔法使えるのはあそこであの試合を見ていた者は皆知ってるだろうし、詠唱はいいか)
「そこでギャストウィンドに使う分の魔力を掌に溜めて」
「はい」
アスタは言われた通りにギャストウィンドの魔力を掌に全て集める。
一気に魔力を一つに集めた為、その結果、掌への負担が上がり、プルプルと震え始めた。
「──ッッ!!」
「力まないで。肩の力を抜いて。そう。呼吸で心を落ち着かせて」
エマもこれは予想外だ。自分がウィングブレード使う時には絶対に起こり得ない事が起こっているのだ。
(魔力が暴走してるっ……凄い。これ程までの魔力量とは……おそらく、いや、間違いなく、将来的に見ても彼は大陸一の魔導士になるだろう)
この魔力の暴走の理由、これはアスタの身体の溜めれる魔力量のキャパシティを既にオーバーしているからである。そもそもの話、最大魔力量は二十歳まで歳を重ねる毎に少しずつ増えていくものである。つまり、身体の成長と共に魔力量も増え、その身体に合う魔力量が年齢と共に変化していくのである。だが、アスタは幼少期から魔法を独学で学び、更にそれを実践してしまった為に普通の子供よりも最大魔力量が極端に増えてしまい、結果として、本人ですら偶に魔力を放出しないと制御が出来ない身体になってしまったのだ。
そして、この大学内での寮生活でアスタが魔力を出せる機会は授業以外にそうない。今までは家の裏山で魔力を好きなだけ放出出来ていたが、此処でそれをやる訳にはいかない。それもそうだ。アスタ自身、自分の使う魔法がどれくらい危ないかは自覚しているし、使えば、爆発音等で騒音問題にもなるかもしれない。しかし、我慢して魔力を溜め込んだ結果が今起こっている暴走だ。サムですら、魔力の暴走を見た事がない為にアスタの異常にもまだ気付いていない。
(このままじゃ拙いな。魔力が爆発する)
エマは自分の魔力でアスタの魔力の暴走、爆発を止めようとするが、エマの魔力が逆流する程のアスタの魔力はそれすらもエネルギーに変え、更に爆発の威力を高めようとする。
「──ッッ、ヤバい!…グランドウォール!!」
「──!!」
「サムさん!魔力障壁を!」
「……全員離れて頭を下げろ!!」
「──え?」
サムの呼び声の直ぐ後、魔法館地下三階を風が覆った。その強風を受けた途端に身の危険を感じた生徒達はサムに言われた通り頭を下げ、サムは全員に行き渡るように薄い魔力障壁を展開し、エマは魔法で作った土の壁の外側で抜剣した。
「『ウィングブレード』」
そして、この一言の後、先ず、土属性の上級魔法とエマの使えるだけの魔力で作った土の壁が横一閃、二つに割れ、その次にサムが展開した魔力障壁はある一定の強度を保ってはいたが、魔力障壁の範囲を大きくしてしまった為に通常の魔力障壁よりも魔法の耐性が無くなり、更にそこに斬撃も加わるものだから、魔力障壁は硝子細工のごとく簡単に崩壊した。精々止めれた時間は二秒もないだろう。
しかし、その二秒の間にエマが斬撃を両断。残った余波をサムが魔法で打ち消した。それでも、この三百六十度にも渡るこの巨大な斬撃を消すことは難しく、エマとサム両名でも対応し切れなかった斬撃が天井と壁に直撃した。
〜同時刻、魔法館三号館地下二階〜
「──ん?」
魔法館の一つ上の階、地下二階では別の授業をしていた騎士科の二年生達が自分達の立っている床に起きた異変に気付いていた。
「なんだ?揺れている?」
「地震ってやつか?」
* * * * *
風が止み、ほぼ全員の髪が逆立っていたのが視認出来た頃、アスタを中心に人工の地面が円状に抉れ、生えていた木は殆ど薙ぎ倒され、魔法館地下三階は無惨な状況に変わり果てていた。
(……まさか、魔法を吸収するように加工した魔硝石にヒビが入るとは)
魔法館には内側からの凡ゆる魔法を吸収し、無力化出来るよう、壁や天井には特殊な素材が使われている。そう、普通なら魔法を吸収して分解、魔法を放つ際とは真逆の方法を取る事で魔法を抑えられるよう作られたのだが、許容量には限界がある。しかし、この許容量も星級の魔法を数発は抑えられるように出来ている。しかも、それは瞬時に分解される為、許容量は実質無限と言っても差し支えない。今回は斬撃も加わったとは言え、中級の魔法でそれにヒビが入ったのだ。これは、異常事態だ。
「な、何が……」
サムとエマ以外は何が起こったのか全く分かっていなかった。それは、この火起こし役となったアスタも同じだ。
(……危なかった。後少し遅かったらこの建物ごと僕とサム先生以外は間違いなく全員身体が二つになっていた)
エマ一人ならあの斬撃を簡単に防げている。だが、今回はこの至近距離で守るべき対象が数多くいる。そのため、一点に力を集中しなくてはならない事態になったので、建物への被害は抑えられなかった。それでも、何もせず真っ二つになるよりかは良い方向に進んだが。
そして、一方のアスタは──
「はあ…はあ…」
丸見えになった床に両膝を付き、産まれたての子鹿のように震えていた。
(なっ、なんだ?身体の震えが…止まらない。力が入らない。どうして?こんな事初めてだ。一体、俺の身体に──)
「ホーフノー!」
「…………はい」
「体調は大丈夫か?」
「いえ、少し、寒いです」
「そうか。──エマ、残りの時間の授業の進行は任せた」
「えっ?」
「俺は此奴を保健室に連れて行く」
サムはそう言うと、アスタを担いで魔法館から出て行った。
ボロボロになった実習室、髪が滅茶苦茶になっている後輩達、そして、初めて教える立場になったエマ。こんな状況だが、現役の王国騎士に教えてもらえるとなったのが功を奏し、この後の授業は順調に進行した。
幸いな事にこの後、怪我人が出ることもなく、授業はすんなりと終了した。




