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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
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第2章 45『作戦前の一時』

 腹の虫が鳴り、学生達が一斉に食堂へ向かう頃、アスタは一度寮の部屋の前に戻って来た。

 扉を開け、数歩進むと、テーブルを囲むようにヨハネとミカエルが正座で座っていた。


「すまない、遅れた」


「ああ、いいよ。まだ初めてないし」


「僕らも来たばっかだしね」


 この昼食の時間に三人は何をしようとしているのか、それは至って単純。昨夜話した作戦会議の最後の確認だ。


「どうする?今ならまだ引き返せるぞ」


「乗り掛かった船だっつったろ。最後まで付き合う」


「うん」


「そうか……。アスタ、ヨハネ、二人共ありがとう。それじゃあ、最後の作戦会議を始める」


△▼△▼


「ふわぁぁぁ」


 昼食後の昼下がり、午後の授業まで後十五分と言ったところでコードが教室に苛々しながら入った。


「……確実に私の方が上なのに」


 何をそんなに気にしているのか、コードは人差し指の爪の先で机を叩きながらとある人物を待っていた。


「どうした?」


「いや、彼女、いつにも増して不機嫌だなって」


 触らぬ神に祟り無しと言うことなのか、カインはそんなコードをそっとしておく事にした。あの爆弾はいつ爆発しても可笑しくない。


「それにしても何処にいんのよ……。校内中探しても何処にもいないなんて」


 苛立ちは最高超と表すべきか、コードから出てる負のオーラは周囲に他人(ひと)を寄せ付けなかった。


「…ん?」


 すると、教室にアスタ、ミカエル、ヨハネの三人が談笑しながら入ってきた。

 それを見るや否やコードは空を切るように肩で歩き、三人がコードが此方へ向かっていると気付いた時にはアスタの胸ぐらが掴まれていた。


「えっ?」


「ちょっ、ちょっと!」


 そのままコードはアスタの胸ぐらを離すと、今度は制服の襟を鷲掴みし、女性とは思えない程の力でミカエルとヨハネを無視してアスタを引っ張っていった。


「あの二人、何かあったのかい?」


「さぁ……」


* * * * *


 〜五階空き教室〜


「おっ、おいもう直ぐで授業始まるんだが!?」


「──っ、うるさいっ!!」


 コードはアスタを壁に叩きつけ、睨みを効かせたまま壁に両腕を押し当て、アスタを逃げられないようにした。


「あんた、あの噂はどう言う事よ?」


「あの噂?」


「惚けないで。二年生が話してるのを聞いたわよ。あんた、無詠唱魔法が使えるってね」


 逃げ場のないこの状況でアスタに問われたのは無詠唱の事。この大陸中でも無詠唱の魔法を使えるのは、分かっている所で両手の指で足りる数と言う。


「知ってたのか」


「ええ、まさかそんなのを隠していたなんてね。通りで……」


(まあ、本当の切り札(ビット)は最後まで隠すつもりだが、そっちも時間の問題だろうな)


「私でも出来なかったあの無詠唱魔法、あんたなら出来るってんでしょ?なら、どうこう言うつもりはないわ。一度私に見せてみなさい」


「──え?」


 コードが壁から離れ、丁度五メートル程の距離ができ、魔法を放てる道を作る。いや、これは私に撃てとの誘いなのだろう。まだ見たことがないアスタの放つ魔法の威力を知る為の。


「ほら早く!」


「……悪いけどそれはできないね」


「どうして?」


「此処で魔法を使って、俺にどんなメリットがある?それに、万が一この教室の壁に穴を開けてみろ。少なくとも一週間は謹慎だ」


 この後の作戦の為にも今此処で魔法を使う訳にはいかない。なので、考える真っ当な意見をぶつけた。


「…どうしても無理っていうの?」


「ああ」


「なら、分かったわ」


 理解してくれたと、そう思いアスタは内心落ち着いたので、教室の出入口へと一歩足を踏み出した。


「──いいっ!?」


 しかし、途端に足を止めると、目を丸くした。何故か、コードが自分の服を脱ぎ始めたのだ。


「ちょっ、ちょっと何やってんの!?」


「ふん、あんたがその気ならいいわ。対価が必要なんでしょ?分かってるわよ。無詠唱魔法なんて高等技術、そう簡単に他人に見せる訳にはいかないもんね。だったら、私の身体を好きに使っていいわ。どう?これで文句ないでしょ?」


 下着まで全て脱ぎ、その身体が顕になった。──今年で13歳。まだ第二次性徴期を迎えたばかりの身体は男を止めるには充分すぎた。


「あっ……」


「なんてね」


 アスタの目線が顕になった胸部と秘部に釘付けになった隙に、コードはアスタにタックルを掛けて倒した。


「──ッッ!」


 コードに倒されてアスタが感じた事、それは倒された痛みでも不意打ちを掛けられた焦りや怒りでもなく、ただ、温かいと感じた。直で触る異性の肌、しかも同年代だ。暫くこれでもいいとも思えた。


「そう簡単に私が身体を売るとでも?甘かったわ……何これ?」


「……ああぁっ!!」


 何が起こったのか、言うまでもない。


「ちょっ、見るなよ!!」


「え?なに?あんた、まさか私の身体見てエッチな気分になったの?」


「い、いやそんなつもりじゃ」


 ──ガラガラガラ


「「あ」」


 扉が開く音と共に廊下からの陽光を通して一つの人影が空き教室の中へ差さる。


「……二人とも、何……してるの?」


 教室の扉を開けたのはヨハネだった。おそらく、いきなり強制連行されたアスタを心配して跡を付けたのだろう。

 しかし、扉を開けたら、飛び込んできた景色はこれだ。裸の女が男に覆い被さっているのだ。なにがあったのか、一瞬、脳が追いつかなくなり、息を呑んだ。


「えっ……あっ。──ご、ごゆっくりぃぃぃぃ」


「待て!誤解だ!」


 場の状況を勘違いしたヨハネが制服の襟を整えて満面の笑みを一度見せると、全速力でこの場から去った。それを追いかけるようにアスタもヨハネの後を追う。

 そして、取り残されたコードは頬を僅かに赤らめながら、脱いだ制服をもう一度着替え始めた。


「……なんなのよ、あれ」


 だが、コードの脳裏に焼きついたのは裸を見られた事でもアスタの無詠唱魔法魔法でもなかった。ただ、最後の硬い感触だけが掌から離れなかった。


* * * * *


「おい待てよ!」


 廊下に出て、ヨハネを追いかけたが、いいが、階段による別れ道で完全に見失った。


(くそっ、何処に行った!)


 授業開始時間まで後僅か、常識的に考えるなら自分達の教室がある下の階だろう。


「…下か」


 下と判断し、階段を一段下りた瞬間、


「もがっ!?」


 口元に布が押し当てられ、呼吸を突然許されなくなった。何者かに襲われたのか──見当はついている。力がかなり弱い。

 アスタは直ぐ様左手で口を押さえてきた者の腕を掴むと、力づくで引き剥がし、身体を回転させると今度は相手の脚に固め技を使った。


「──いっ、痛い痛い!ギブギブ!」


「はぁ、はぁ…やっぱりヨハネか」


 予想通りと言うべきか何というか、まあヨハネであろう。アスタは、固め技を解くとヨハネを正座させた。


「どうしてこんな事を?」


「そりゃ、だって、あれ……いやさぁ!あんなのがもしもクラスの誰か一人に知られたら作戦どころの話じゃないよ!」


「分かってる。あれは…押し倒されたんだ」


「……信じるよ」


「それにしてもあのやり方で俺とコードを気絶させるつもりだったのか?」


「うん。一番手っ取り早いのが、気絶させてアレを無かったことにしようと思ったんだ」


 意外にも冷静である。よくあの状況を見て理性を保てたものだ。


「でも甘いぞ。あれじゃ俺やコードじゃなくても抜け出せる」


「……そっか」


「それじゃあ戻るか。もう時間ないし」


「…うん。でも、アスタはその勃ってるのどうにかしてからの方がいいと思う」


「あ」


 チリンチリン


 午後の授業開始のチャイムが鳴った。


△▼△▼


 それから午後の授業が全て終了し、帰りのホームルームの時間へと移った。


「おい」


 そして、訪れる。復讐の時。

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