第2章 42『見つけた目標』
「さっそくだが、アスタ・ホーフノーは今日から魔法基礎の授業のみ他学年との授業、コード・ティーナは剣術基礎の授業のみ他学年との授業になった。」
ホームルームの第一声、それはクラスメイト全員にとって訳も分からない事態となった。
「講師!どう言う意味ですか?それは」
学級委員となったカインがサムにどう言う事か説明を求めた。
「どう言う意味も何も、言ったままだ。今日からの魔法基礎の授業はアスタ・ホーフノーのみ魔法館三号館に来い。明日からの剣術基礎の授業、コード・ティーナは一号館の地下に来い」
「だからなんで…」
「お前らも分かっているとは思うが、この二人はクラス……いや、学年の中でも飛び抜けている。つまり、お前達とお手手繋いで仲良し子良ししている場合ではないと、大学の講師全体で判断した」
「なっ!?」
「なんだその言い方は!?」
マルベルトが机を叩いて、立ち上がり、サムに詰め寄る。
講師と生徒の関係とは言え、サムの今の言い方はクラスメイト全員からの怒りを買ってもしょうがない。
「だ……この二人が…いや、百歩譲ってコードさんはいいとしましょう。ですが、此奴に関しては納得出来ません!こんな卑怯者…」
(まだ言うか)
「そんなに悔しいなら、お前も認められるよう頑張れ。卑怯な手を使ってもいい。己に出来ることを全てしろ」
「──っ、分かりました」
何を思ったのか、マルベルトは意外にも素直に引き下がった。
「お前達も授業の成績次第ではこの二人と同じように上学年と同じ授業を受けることが可能だ。お前達もこの二人に追いつける、いや、追い越すのを目標に授業に勤しめ。以上」
そう言うと、サムは教室から退出した。この重い空気のままクラスをほったらかすのもどうかと思われるが、アスタ含めたクラスメイト達は一限目の魔法基礎の授業に向かう為にそれぞれ着替え始めた。
「……昨日の授業見た限りじゃ、上学年の剣術の授業に行くのならまだ分かるよ。でも、魔法は見たことないからなぁ。アスタ、昨日サム講師に止められてたけど、アスタってどれくらい魔法できるの?」
「……無詠唱で治癒魔法以外の魔法は大方使える」
「ふ〜ん……無詠唱でね……無詠唱?」
ヨハネの服を畳む手が止まった。今一体アスタが何を語ったのか、時が止まったかのような感覚に夢遊感と同じようなものをその身で、いや、頭で体験していた。
「えーと……今のは冗談だよね?そうだよね。聞き間違いだよね。そうだ!僕が疲れているんだ。ああ、昨日の睡眠時間が──」
「本当だ」
ヨハネの言葉を遮り、真実だと告げる。無詠唱の魔法が何時迄も隠し通せる訳ではない。何れ学内に広まるのは覚悟していたが、それはサムを通して行おうとしていたことだ。今ではない。
「そうなんだ……。アスタは、今の僕らじゃ追い付けない所にいるんだね」
反応が余所余所しい。当然だろう。友達が自分よりも実は圧倒的な才能がありました──なんて、そう簡単には気持ちが認めないだろう。
「じゃあ僕は行ってくるよ」
「ああ」
「アスタ、俺は驚かないぞ。あの試験の日からお前が何か隠してるのは気付いていた。だけど、それはお互い様だ。……気にするな。才能があるのは悪いことじゃない」
ヨハネが教室から出ていくと、次はミカエルがアスタの肩を優しく叩き、顔を見ないで声を掛けた。
「ああ、ありがとう」
「じゃな。昼、三人で集まろう。最後の作戦会議もあるしな」
「……分かった」
ミカエルはアスタと一度も顔を合わせぬまま、教室を出て行った。
アスタは気持ちの整理がつかないまま着替えを終え、校庭とは逆方向の三号館へ向かう。道則は特に辛いものではないが、途中、上学年の廊下も横切る為、奇異な目でアスタを見る者もいた。
「なんだ?一年が何で此処を?」
「騎士科か?」
「さあ?分からんな」
「………」
余り良くない気持ちで廊下を通り、校舎二階の通り廊下を抜けると、ホームルームや座学の授業を受ける四号館から三号館へと移動した。
「……此処は」
この場所には見覚えがあった。あの時は外から入ったが、今回は内側からだ。そう、入学試験を受けたあの場所だ。
「来たか」
「……サム講師」
通り廊下を抜けると、三号館に入る為の青い扉の前でサムが待っていた。
「案内する。場所は前来た時と違うからな」
「はい」
サムが扉を開けると、目の前には更に長い廊下、そして、左に階段が見えた。
「こっちだ」
サムは階段の手摺りに捕まり、一段一段ゆっくりと下り始めた。アスタもそれに続き、一段ずつ下がる。
「……サム講師、無詠唱の件については、貴方の口から話すんじゃなかったんですか?」
「すまんな。俺から言うより、本人が伝えた方が後々いいと思ったんだ」
「──?どう言う事ですか?」
「自分で考えろ」
放任主義と言うのか、サムの教え方は良くも悪くも受け取れる。今回の無詠唱の件、アスタ自身、別に無詠唱の事は隠すつもりはなかった。しかし、ボルスピにいた頃、無詠唱の魔法を村人達に見せてしまったことで彼ならなんでも出来る、なんでもやれる天才だと勘違いさせてしまった。アスタだって、出来ないことはある。そして、その期待が強くのし掛かり、ある日から家族以外の人前で魔法を使うのを臆病になってしまっていた。その期待の重圧が嫌でアスタは無意識ながら、此処でも無詠唱の魔法を隠そうとしたのだ。
「サム講師」
「ん?」
「授業が終わったら、話したい事があります」
「……分かった。時間を取ろう────着いたぞ」
サムの足が止まる。階段はまだ下へと続いているが、二人が立ち止まった所は薄く発光している非常ドアのような物の前だ。
そのドアのドアノブを回し、奥へと押すと、辺りが暗かったこともあり、中からの光が一層眩く感じた。
強い光に耐えながら、目を凝らして暗明の差に慣らすと、少しずつ景色が見えてきた。
──人影だ。複数人の人影が見える。
そして、視覚が完全に光に慣れた。
「──ん?」
まず最初に両の目に入ってきたのは、四方が白色で囲まれた壁、そして、数は凡そ十人もいない生徒達だ。全員、アスタよりも背が高い。高学年だ。
「全員整列」
サムの掛け声に自由にしてた者達が一斉に横一列に並び、脚を肩幅まで開いて『休み』の姿勢を取った。
「諸君おはよう」
「おはようございます!」
「本日は、兼ねてより話していた諸君等と共に俺の授業を受ける一年生を連れて来た。正直に言えば、此奴は諸君等よりと才能があり、現時点での実力も未だ未知数だ。決して、自分達より年下の後輩だからと見縊らないように」
「はい!」
「早速だが自己紹介だ。前へ出ろ」
アスタは反応しない。状況にまだ頭と身体がついて行っていないのだ。
「………」
「どうした?前へ出ろ」
「はっ、はい!」
言われるがままにアスタはサムから一歩前に出た。上級生からの圧に身震いが止まらない。たったの一年早く入ったかどうかなのに、上級生からの圧は既に高みへと到達しているものに思えた。
だが、クラスの中で自分だけが此処に来たのだ。今更帰る訳にもいかない。意を決している。
「自分は、騎士科一年アスタ・ホーフノーです!色々と訳あって先輩の皆さんと授業を受けて貰うことになりました!よろしくお願いします!!」
今の自分に出せる最大の声量で最初の挨拶を行った。掴みはこれでいい筈だとは思っているが、アスタは上手く並んでいる上級生の顔を見れないでいた。緊張しているのだ。
──パチパチパチ
すると、一人が静かに喝采をした。それに続き、他の者も大きく、または小さく音を出して喝采をする。
「よし、終わったな。時間も惜しいし、今からお前と共に授業を受ける先輩方を左から順に紹介しよう。まずは、一番左にいる学級委員のナナイ・ゼルムスキー、次にコルト・ヴァートン、ファネル・ローズ、バター・ハーマン、ジェム・ロイニア、ババナ・コルセット、ヤレン・タチ、リリエナ・ユイ。皆お前より一つ上の二年生だ」
(二年生……?)
何か可笑しい。彼らが二年生だからと言う訳ではない。ただ、何か違和感を感じるのだ。そう、余りにもアスタ達一年のクラスと比べて──
「あの、二年生ってこれで全員ですか?」
人数が少な過ぎるのだ。
「そうだね。僕ら一組は八人、隣の二組は六人ってところかな」
アスタの質問に学級委員のナナイが答えた。
「一年の頃は、両クラス合わせて四十人以上いたんだがな。…たったの一年、たったの一年で半数以上が退学か別学科へ編入となった。ホーフノー、戻ったら話してやれ。クラスの半分とは今年一杯の付き合いだとな」
「ちょっとババナ!」
「本当の事だろう?実際、俺達がそうなんだし」
まだ入学して一週間も経たない内に知ってしまった真実、騎士と言う名の狭き門が彼らと未来の己を表している現実がアスタの心に重くのし掛かった。
「お喋りはそこまでだ。先ずはそれぞれで魔力の循環の確認をしろ。ホーフノーもだ」
「はい」
アスタ達は目を瞑り、深く呼吸をして自分の心臓から流れ出る血液、それに伴い同じような動きをする流れを感じ取っている。
魔力循環、人の身体を血のように流れる魔力は、朝起きた段階では毛詰まりした排水管のように巡りが悪い。この流れを良くする為に深い呼吸をして、意識を底に落とすのだ。そして、手探りで詰まっている所を引き当て、巡りを良くする。これを行った直後は一発だけ最低限の魔力て魔法を最大威力で撃てるのだ。これは、一年の頃から習う内容で、魔法の基礎中な基礎と言える。アスタも、これは本に載っていた内容だったので知っている。
「よし、全員終わったな。それじゃあ一年の頃に習った奴もいるだろうが、今日の授業の内容は『魔力障壁』だ」
(…魔力障壁?)
アスタの頭の中に疑問が浮かんだ。魔力障壁なんて言葉を聞いたことがないからだ。少し慌てながら、視線を横に動かしてみると、僅かに表情を変えている者、凛として動じない者の二者がいる。
「魔力障壁と言う言葉を聞いたことがある者は少ないだろう」
サムはそう言うと右手を前に出し、数秒間の間を空けてから前面に円形の薄く小さな壁を出した。
「これが魔力障壁だ。魔力障壁は、今から約350年前にあった魔法を応用した技術だと言われている。最近になって、とある魔法使いが文献の解読に成功し、今は俺含め、大多数の騎士や魔法使い、魔導士が使えるようになっている」
最近と言うのがまた曖昧な表現だが、何も言わずに出していた為、それなりに魔法を使える者なら、練習次第で出来ると言うことだろう。
「コイツは詠唱を使わないから、魔法とは一概には言えない。……コツは身体に巡る魔力を指の先端にまで集中させ、空中に壁を作るイメージで魔力を放出する。──やってみろ」
言われた通り、アスタと他の者は目を閉じ、魔力の循環を再び確認する。それを指先一点に集中させ、壁を作るイメージで両手を前に出した。
「──うわっ!!」
指先から何かが溢れ出す感覚を覚え、目を開けると、目の前にはサムが出したのと同じような物が目の前に作り上げられていた。
それはアスタだけでなく、他の八人も同じだった。一年間をこの大学で過ごしてきたのだ。やはり、二年生と言う肩書きは伊達ではない。
「それが魔力障壁だ。限界はあるが、魔力障壁は、魔力を纏った攻撃をある程度の軽減、分散が可能だ。試しに──」
サムは右手を前に出す。
そして、無詠唱でリリエナに向けてファイヤボールを放った。
「え?」
ファイヤボールはうなりを上げながら一直線で進み、一秒未満の間でリリエナに着弾した。
「リリエナ!!」
弾け飛んだリリエナの元にババナが駆け寄る。
「サム講師、いくら何でも不意打ちは……」
問答無用の魔法、これにはアスタだけでなく二年生達もドン引きである。
しかし、サムは一切表情を変えない。ただ、リリエナの方に向けて指を差す。
「よく見ろ」
「あっ、あれ?」
指差す方を見ると、確かにリリエナが倒れているが、身体には火傷どころか、傷一つない。
「今ので分かったな。今のが魔力障壁だ。この程度の魔法なら、簡単に相殺できる。個人の魔力量と防御範囲によっては、更に強度を増す事も可能だ。ただし、魔力を纏わない攻撃には滅法弱いからな。そこだけは気を付けとけ」
アスタは思った。この人は凄いと。魔法の技術で自分より上だと思える人をある一人を除き、見たことがなかった。しかし、今目標にすべき人物が此処にいる。自分の目の前にいる。冷静で知識があり、人間性にはやや問題がありそうだが、状況をよく見ている。尚且つ自分と同じで無詠唱の魔法が使えるこの人をアスタは自分の到達すべき場所だと脳と肌で感じていた。
次回は番外編です!10月20日投稿予定なので、楽しみにしていてください!




