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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
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第2章 39『vsコード・ティーナ』

 すいません、色々ミスって再投稿することにしました。

「コードさん、その必要はないよ」


「──は?」


 自分と戦えと宣言され、困惑しているアスタの後ろから長身の男が木剣片手に歩いて来た。


「そんな卑怯者とやるより、この私と手合わせしてみませんか?」


 容姿端麗で澄んだ表情がより一層、この男を輝かせている。


「クラスの女性の中で一番の実力を持つ貴女と男性の中で一番の実力を持つ私。……この男と私を比べ、何方(どちら)が貴女と戦うに相応しいか、一目瞭然でしょう?」


 クラスの女子の中で一番実力があるのはコード。それは否定しない。しかし、男の中で自分が一番実力があると宣言する彼には男達から軽蔑の視線が飛んだ。


「おいお前、自分が一番が実力があるとはよく豪語出来たなぁ」


「僕もクウェルと同意見だ。それは傲慢と言うね」


 その言葉に我慢出来ず、パウェルとカインが前に出た。


「…ふん、君達は力や頭脳だけが実力だと思っているね」


「なに?」


「真に実力と言うものは、何か一つの固定観念に囚われるものではなく、複数の技術と才能を組み合わせ、洗練、完成させたものを実力と言う。君達はそれが分かっていない」


 二人を挑発するように実力の定義を示し、それが自分にあって二人には無いと宣言した。


「なんだと…」


「へえ、なら君にはその実力があると言うのかい?」


 挑発に乗りそうになるパウェルをカインが左手で静止させ、睨みながら敢えて話に乗った。


「そうさ!それが私にはある」


「ねえ」


「──ん?」


 両手を大きく広げ、まるで自分を中心に世界が動いていると言わしめんばかりの表現をしていると、コードが苛つきを見せながら声を掛けた。


「あんた誰よ?」


「……は?」


 ──ぷっ


 誰かが我慢出来ずに微笑を吹いた。


「だーかーらー、あんた誰って聞いてんの」


「こ、この私を…知らないと言うのか?」


 雷に撃たれた時のような衝撃。男は膝から崩れ落ち、地面に俯せとなった。


「お、おい…」


 ショックからか動かない男を心配になり、パウェルが助け船を出そうとすると、それを払い除けるように立ち上がった。


「まぁ、問題ない。知らないのなら、今から知ってもらうまで。──改めて、私の名はマルベルト・シン!王都シミウスの……」


「自己紹介ありがとう」


 コードはそう言うと、マルベルトの自己紹介が終わる前に身体を捻り、爪先でマルベルトの顔面に回し蹴りを入れた。


 ──メキャ


 嫌な音と共にコードは足を蹴り切り、優雅に着地をした。マルベルトはまたも地面に倒れた。

 マルベルトを地に伏せてから数秒後に事態に気付いた講師のクラークが駆け寄ってきた。


「お、おい!お前ら何があったって……うお!マルベルト・シン!?」


 クラークが辺りを見渡し、事態を飲み込むのに秒数も掛からなかった。


(成程……。此奴がやったのか)


 呆然と立ち尽くすアスタ、驚愕と言った表情を隠せないパウェルとカイン、マルベルトを見下ろすコード、何があったかは一目瞭然だった。


「おい、そこのお前、此奴を保健室に連れて行ってやれ」


「あっ、はい」


 クラークは模擬戦に参加せず、地面に体育座りしている男子生徒を呼び、マルベルトを保健室に連れて行くよう指示をした。

 その生徒がマルベルトを背負い、校舎の中に入るまで見送ると、クラークは静けさで包まれたコード達の周りへと足を踏み入れた。


「まあ状況は察するが……うん」


「講師!今回に関してはマルベルトくんがコードに突っかかってきたのが原因です」


 ハンナが大きめの精力でクラークに訴えかける。


「ああそうだったな。コードさんは降りかかった火の粉を払っただけだ」


「そうだ!」


 ハンナの意見に同意するように模擬戦に参加しなかった生徒達が証人となり、多数の意見をクラークにぶつけた。


「……ッ、コード・ティーナ、それは本当なのか?」


「……本当です。私はそこにいるアスタ・ホーフノーくんと模擬戦しようとしたのですが、それを彼…マルベルトさんに邪魔されたので、つい……。ですが、先程の件に関しては私にも非があります。罰なら受けます」


「いや、別にいいんだ。授業中だし、重度の怪我を負わない限りは大学の責任で俺の監督不行だ。お前が責任を感じる必要はない」


 コードの行った事は確実に正しいと言えるものではない。寧ろ、力で押さえつけてしまうのは民の見本となる騎士としては失格だ。だが、結果的にコードはクラスの大半を味方につけた。どんな方法を用いても、こうやって支持を集めるのは立派な事でもある。


(まあ、最初っから動かないよりかはマシだが)


 クラークは右手で頸を掻き、コードとアスタの目を見て考えた。


「分かった。コード・ティーナ、お前を尊重して特別に大会の試合形式で模擬戦を行おう」


「ありがとうございます」


 クラークがマルベルトが落とした木剣を拾うと、アスタに視線を向ける。


「──と言う訳だ。お前も準備しておけ」


「はい」


「試合開始は十分後。それまでにコード・ティーナ、アスタ・ホーフノー両者は試合前の最終調整!その他の者は試合場を円状に作っておけ」


 クラークはそう言うと、マルベルトの様子を見に行く為に木剣片手に校舎の中へ入って行った。


「はあ〜」


 堅苦しい緊張感から解放され、アスタは大きく息を吐いた。


「大丈夫か?」


 アスタの肩を軽く叩き、治療を終えたミカエルがアスタの隣に胡座で座った。


「え?ああ、大丈夫だけど…ミカエルこそ……あの…その……、ごめん…」


「いや、いいんだ。命を賭けた実戦なら俺もやりかねないし、シンナーが相手なら確実にやる」


 ここで改めて金的を蹴った事を謝り、ミカエルから許しを得た。


「そう言ってくれると助かる。それよりも──」


 アスタは話を変え、校舎の窓から此方を見る人がいる教室を指差した。


「あれはなんだ。俺達の事を見ているが…」


「あの教室は使用人科だね」


「ヨハネ!」


 意識を取り戻したヨハネが頭に氷水で冷やしたタオルを巻いた姿で戻ってきた。


「大丈夫なのか?」


「うん、大丈夫」


 見るからに治療を受けたようだが、ヨハネはそんなのお構いなしにピンピンしている。


「それよりも、使用人科って?入学式の時、見た覚えがないんだが…」


「まあしょうがないよね。使用人科は僕ら騎士科や普通科とは違って、人数の都合上、入学式が別日になっていたんだ」


「へぇー」


「俺達とは校舎も違うんだな」


 普通科と騎士科が共同の建物を使っている中、まるで隔離されたように使用人科は離れた建物を使っている。


「──ん?」


 アスタはジッと此方を見る使用人科の者達の中にいる一人の女子と目が合った。


「──あ」


 数秒間お互いがお互いを見つめていると女子側が頬を赤裸目て、教室の中へと戻った。


「…なんだったんだ?」


「アスター、そろそろ始めるってよ」


 ヨハネの呼ぶ声が呆然とするアスタを現実に戻した。この時、胸の内の熱いものが薄れていたのはアスタも分からなかった。


「あっ、ああ今行く」


 いつの間にか地面に落としていた木剣を手に取り、アスタはコードが待つ簡易的に作られた試合場──いや、円の中に足を踏み入れた。

 既に準備を終えてるコードを見据え、アスタは一度深呼吸をした。


「勝敗は何方かが降参を宣言するか、線外から押し出された時点で決するものとする。……ルールとして、魔法以外は原則なんでもあり。ただし、目潰し等の危険な技は無しとする。やったら、最悪停学になると思え」


 戻って来たクラークが審判を執り行う事になり、最低限のルールを付けた。クラークの付けたルールは、あくまでもこれは授業の一環であると言う事を考慮して付けられたものだ。


「お互い離れ、構えっ!!」


 アスタとコードはお互いに五メートル程距離を取り、木剣を両手に前に構える。

 その様子を使用人科の生徒達は皆誰もが二人を注視し、試合開始を心待ちとしていた。

 クラスメイト達も妙な緊張感を感じながら二人の試合の行方を静かに見守ろうと決心していた。


「──始めっ!!」


 クラークの掛け声と同時に長い赤髪がアスタの視界を覆った。──早い。そして滑るように木剣の刃がアスタの後頭部を捉えようとした。


「ッッ!!」


 木剣同士がぶつかり合う音が鼓膜の中に響く。


 ──危ないところだった。後コンマ数秒、勘で木剣を逆手に持ち替えて防御しなければ今のでやられていた。


「──ちっ」


 舌打ちを吐き捨て、コードは一度距離を取った──と見せかけ、体勢を整えると円線に沿うようにアスタの左を取るように走り始めた。


(さっきよりは遅い。…でもっ!)


 この動きをアスタは見たことある。そう、二年前に王国騎士のディオスと戦った時だ。あの時はディオスの絡繰にいいようにやられたが、今は違う。


(ギリギリまで引きつけるのは同じ。ここから)


 二人の距離が大股一歩分にまで迫り、斜めにコードの剣撃が繰り出された。それを木剣を平らにし、油のように上手くいなした。


「──!」


(コード・ティーナが闘流を中心とした剣に対し、アスタ・ホーフノーは静流の剣……いや、あれは違うな)


 審判をしながら二人の剣術を観察しているが、長い間様々な検を見てきたクラークでもアスタの剣の使い方は少し分からないものだった。


(なんなの、なんで全ていなされるの?)


 コードは自分の使える限りの闘流の技を次々に繰り出していた。だが、どの攻撃も全ていなされ、苛つきのパラメータが少しずつ上昇していた。


 横なぎを最後にコードは距離を取り、呼吸を整える為に木剣の柄を両手にアスタの動きを警戒しながら肩を落とし、脱力していた。

 それを見逃さず、今度はアスタが反撃を開始する。


 木剣がギリギリ届く距離まで踏み込むと、身体を捻り、コード目掛けて横なぎで木剣を振った。木剣の刃はコードの警戒心の外を掻い潜り、眉間へと迫った。


「──ッッ!?」


 しかし、それを間一髪のところで背中を反り、髪の毛に僅かながらに触れただけで済んだ。


(遠いっ!)


 一刻前とは違い、攻守が逆転している。アスタはコードからの反撃を警戒し、決してコードの間合いには入らない。コードもそれが分かっているからか下手に攻撃を仕掛けようとはしない。


(成程……独特だな)


 アスタはまるで踊るかのように間合いを意識しながら、時折りフェイントを混ぜた動きでコードを翻弄していた。


「凄い…。あんな動き見たことない」


「おう、俺達じゃ力不足だって事が身に染みるように分かるぜ」


「だけど、それについていってるコードも大概だ。おそらくだが、彼女に取ってもあの動きは初見の筈だ」


「……闘流は、単純に言えば力任せに全力で剣を振るい、立ち塞がる者全てを薙ぎ払う攻撃特化型の剣術……。普通なら、攻めに意識し過ぎて、何回かの被弾は避けられない。なのに……」


 円の外から試合を観戦しているカイン、パウェル、ミカエル、ヨハネは今の自分達の実力じゃ、円の中にいる二人には渡り合えないのを実感していた。


(おかしい……。なんで此奴はこの動きについていけてるんだ?これは、爺ちゃんから教わった剣術だぞ)


 アスタの行っている剣術は、三大流派のどれでもなく、独自に編み出された剣術『我流』である。我流は、個人が編み出した自分による自分の為の剣術である。そのため、アスタはこれが我流であると言うのをしらない。更に、アスタは祖父のフライデンから三大流派が何なのか一切教えられていない。しかし、この基礎となるものは身体で教えられているので、身体の軸がしっかりとしている。そのため、コードの重く早い剣撃にも対応出来ている。

 しかし、その我流を使ってもコードを倒すには至らない。どの角度からの攻撃も紙一重のところで躱されるか止められている。しかも、初撃よりも二撃目、二撃目よりも三撃目と一発ごとに躱し方に余裕を持ち始めている。


「──!?」


 焦った。握力はまだあったが、手汗で柄を握っていた左手が滑り、剣の軌道が変わった。

 その隙をコードは見逃さない。アスタの剣撃を掻い潜り、回し蹴りをアスタの鳩尾にお見舞いした。


「入った」


「かはッ!!」


 口から痰が出る。それが地面へと落ちる頃にはアスタは線の前まで追い込まれていた。

 膝を付き、呼吸を整えようと痛む腹を無理矢理押さえ、とどめとばかりに勢いを付けて上から木剣を叩きつけようとするコードの攻撃を受け止めた。


「ぐっ……」


 たった一つ、たった一つのミスがこのような事態に繋がる。それが練習であれ実戦であれ、僅かな歯車の狂いが齎す結果を観戦している者達は誰もが今理解した。


「……お前達、何をやっている?」


 一進一退の攻防。観戦している全員がそう思っている。だが、たった一人、この二人の今の攻防が単なる小手調でしかないものを見抜いていた人物がいた。クラークだ。


「………」


「………」


「何故本気を出さない。お前らの実力がそんな男女のお飯事(ままごと)程度ではないことは既に此方は分かっているんだ」


「──え?」


 クラークのその言葉の後、押していたコードが力を緩めアスタから離れる。アスタもコードが離れていく間に運動着に付いた砂を払い、軽く伸びをした。


「いいんですか?」


「構わん。全力を尽くせ」


 瞬間、アスタは投擲の如く木剣をコード目掛けて投げつけた。

 完全に不意打ちであったこれすらもコードは剣先で止め


 ──られなかった。


 鋭く回転している木剣はコードの持っていた木剣を弾き、お互いに無防備の状況を作り出した。

 そして、これが狙いであったアスタはアバレイノシシの如く姿勢を低くしてコードの懐まで迫り、腹から下を腕で固定し、その勢いのままコードを線外まで押し出そうと力を込めた。


「ぐっ…おおおおおおお!!」


 柄になく、アスタの口から焦りが込められた言葉が漏れた。これで決める。これで終わらせると意気込み。それに呼応するかのようにコードの身体が傾き、後少しで『勝てる』と思った。


「残念」


 耳元でそう囁かれた気がした。

 何が残念なのか、何がそんなに可笑しいのか、理由は分からなかったが、嫌な予感が過ぎった。海深くに沈められた指輪を拾うかの如く、記憶が蘇る。


 ──ふ〜ん…。寵愛ってね、あんたが思っている程生易しいものじゃないのよ


 『寵愛』アスタはまだコードの寵愛を知らない。そして、ルール上寵愛の使用は禁止されていない。つまり──


(──やばい!!)


 不用意に近付き過ぎた。アスタの腕から力が緩み、この状況から脱出をしようとしたところでもう遅いのは分かっているが、アスタは顔を上げ、今とは違う次の行動に移そうとした。

 すると、アスタの力が緩んだ事を確認出来たコードが両の脚で地面を蹴り上げ、アスタの頭を土台に身体を大きく捻らせて空中で一回転し、そのままアスタの背後を取った。


「フェ……」


(フェイント!?)


 はったりだ。寵愛の存在が頭にチラついた時点でこのフェイントは成功したも同然。千人に一人しか出来ない芸当をやってみせたのだ。

 そして、アスタの体勢はまだ整えられていない。


「ぐっ!?」


 最大の好機。これを見逃す大馬鹿がこの世にいる筈がない。

 コードは踵でアスタの膝裏の関節を脚払いで折り、バランス感覚を失わせて転ばせると、一気にアスタの左脚に取り付き、蛇と同じように自分の脚を纏わりつかせると、腕に力を入れ、関節技で決めに掛かった。


「ぐぅっ……かっ、あっああ……」


 痛い。痛覚を消してしまいたい程の痛みに鼻水と涙と唾液を垂らし、どうにか振り解こうと釣り絵に食いついた魚のように手足を動かして暴れた。


(これで…終わり!)


 折らずとも気を失わせる程度に力を入れ、完全に勝ちにいった。


(勝てる…!)


 そして、それは確信に変わる。自分の歯を食いしばり、どうにか痛みに抗っているアスタの表情を見て、コードは勝ちを確信した。


 そう。その筈だった。


「──!!」


 関節技の弱点、それは関節技を掛けた側は掛けている限り無防備になることだ。それは誰であっても同じ。それを利用し、アスタは同じような関節技をコードに掛けた。


(此奴っ……私と同じ…)


 これでは決着が着かない。もしかすれば、最悪を想定すると両者の脚の骨が折れる可能性だってある。


「……引き分け!引き分けだっ!!二人とも止やめろ!!」


 危険性に気付いたクラークが試合終了の宣言をする。しかし、二人とも今の体勢を維持し続けている。


「おい!二人を引き剥がすぞ!」


「あっ、ああ…」


 クラークの焦りから何かを察したのか、パウェルが線内に入った。それに続いてカインも線内へ入った。


「──!!」


「これ、まずいんじゃ…」


「俺らも行くぞ」


 皆が心配する声は二人には聞こえていない。


 ──もう、意識が無かったのだから。

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