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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
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第2章 35『子供の復讐』

 生徒寮の二階の二〇一号室、そこでアスタ、ヨハネ、ミカエルの三人が大学のホームルームが始まるまでの僅かな時間だけ集まり、アスタとヨハネはミカエルの話を聞いていた。


「……そんな事が」


「そんな事をした奴がのうのうと今日も被害者の前でグッスリと寝てたのかよ」


 二人はそれこそミカエルがかつてしていた極貧生活などしたことがない。しかし、とてつもない屈辱をミカエルが味わい、そして、この大学に入学した本当の理由も知った。


「国は何をやっているんだ!?たかが一貴族が村を滅ぼしていい訳がない!!」


 ヨハネはドリス家の行いと国の無行動に激怒した。


「……国もドリス家には下手に手を出せないらしい」


「どうして!?」


「トゥラスヴィさんから聞いた話だけど、どうやらドリス家は他の貴族より多額の税を国に納めているらしい」


「それがなんだって言うんだ!?」


「ヨハネ、声がデカい。あくまでこれは俺達だけの密話なんだぞ」


 アスタの一言でヨハネが自分の口を抑える。


「ごめん、興奮し過ぎた」


「……話を戻すが、つまりドリス家は税と称して国に…いや、国の中枢を担う役人に賄賂を渡していると言う解釈で間違いないか?」


「ああ、だけど、王自身には渡してないと思う。これも、トゥラスヴィさんから聞いた話だけど、王は不正とかは決して許さない厳格な性格の人らしいし」


「なるほど。何処の組織もだけど、一部腐ってる者がいると言う事かな」


 アスタとヨハネはどうしたものかとアスタは額に掌を当て、ヨハネは顎を人差し指と親指で触りながら考えた。


「…‥ミカエル、友達としてお前の復讐には強力したい。だけど、やるにしても向こうは権力を持っている。俺達じゃまだ手は出せない。せめて、大人の協力を仰いでから考えよう」


「…ああ」


 ミカエルは静かに頷いた。


「そろそろ、いい時間だね。僕達も遅刻する前に教室に行こう」


 三人は用意した荷物を持ち、部屋を出た。

 寮の廊下は朝の通学時間なのに何故か静かだ。どうやら、三人以外の生徒は既に登校をしているようだ。


「それよりも、大人に協力って、アスタは誰に協力の誘いをするつもり?」


「俺もそれは気になってた」


 ヨハネの意見にミカエルが乗っかる。


「あ──、一番協力してくれそうなのはサム講師だとは思ってる」


「サム講師?」


 アスタは入学試験の時に体感したサムの実力、そして、隣にいた王国騎士団の姿を見たからだ。更には命令していた事から見て、大学の講師以外にもそれなりの地位を持っている人物だと踏んだからだ。


「まあ、担任だから一番協力してくれそうって言うのが理由だけど」


「そりゃそうだね。でも、あの人なんか暗いんだよねぇ」


「それは俺も思ってた。……アスタ、本当に協力してくれると思ってるのか?一個人の子供の復讐に大人が」


五分(ごぶ)だろうな」


* * * * *


「はよー」


「おはよー」


「………」


 ミカエルは教室の中に入っても挨拶をしなかった。


「今日は遅かったわね」


「うん?ああ」


 自分の椅子に座り、授業の準備をしていると、隣の席のコードから声を掛けられた。


(──!)


 ふと、アスタはコードの顔を見て思い出した。


「コード、確かお前ってローグさんの親戚って前に言ってたよな?」


「えっ……?ええ、そうだけど」


 コードは人差し指で前髪を触り、アスタから目線を逸らす。


(確か、ヤーフさんによればローグさんは王の娘の付き人。あの人なら、もしかしたらドリス家の不正を暴く為に協力してくれるかもしれない)


「じゃあ、ローグさんに会わせてくれないか?今直ぐじゃなくていい。時間がある時で──」


「無理よ」


 コードはアスタの頼みを全て聞く前に断った。


「えっ?」


 ローグと会う事が出来れば、ミカエルの復讐にも協力してくれる筈だと思ったが、それは叶わぬ夢だと目を見て分かった。


「なんで?」


「こっちにも事情があるのよ」


 誰しもそうだが、コードも何か隠し事をしているようだ。それがどうローグやヤーフと関係するかは分からないが。


「そうか。ありがとう。時間を取らせて悪かった」


「……いいのよ」


 ガラガラガラ


 教室のドアが横にスライドし、担任のサムが教室に入ってきた。


「ああ、おはよう。……全員いるな。ふあぁ……よし、じゃあ十五分後に全員外に集合。魔法基礎の授業をするから……。──俺は先に行ってる」


 サムはそれだけ言うと教室を後にした。


「なんか、サム講師眠そうだったな」


「ああ」


(本当にあの人は協力してくれるのかな?)


 ヨハネはホームルームもまともに行わない担任に不信感を持ち、提案したアスタに顔を向けた。


 十五分後、アスタ達のクラスは運動着に着替え、校庭に集まった。校庭にはアスタ達のクラスの他に普通科のクラスも来ていたので、どうやら共同で校庭を使うようだ。


「皆さん、集まりましたね。私は、一年騎士科の魔法基礎を担当するララ・アロフです」


 校庭に並んでいると、初老の帽子を被ったいかにも魔法使いですよ。と言わんばかりの姿のおばさんがやって来た。


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


 ララが生徒達に向かって敬意を持ってお辞儀をすると、カインを始めとした生徒達も挨拶を返した。


「元気があってよろしい。では、知っている人もいるとは思いますが、先ずは魔法の基本を教えましょう」


 ララは懐から小さな杖を取り出した。


「魔法は『火』『水』『風』『土』『雷』の基本の五属性を中心に『光』『影』『然』『氷』『毒』の副属性、その他に治癒魔法や強化魔法等があります。人によって得意な魔法、不得意な魔法があり、それによって個人の戦い方等が変わります」


 ララは持ってきたボードに書かれている丸い円を担っている五属性とその外にある副属性の魔法を杖で指し、魔法の基礎となるものを教えた。


「どの属性の魔法が得意かは魔法を使っていく内に分かります。例えば、私なら火属性。詠唱を唱えれば、上級の魔法まで使えます」


 上級と言う言葉に生徒達がそれぞれの反応をする。カインやヨハネ、ミカエルは軽く口を開け、頷いて反応をする。他には羨望の眼差しを向ける者、そして、アスタとコードのような無反応の者もいた。


「では、一人ずつ魔法を見ていきます。ヴァーチ・アキシ」


「はい!」


「そこにある的目掛けて魔法を放ちなさい」


「はい。──微風(そよかぜ)の息吹よ、我が力と成りて敵を切れ!──ウィンド!」


 ヴァーチの放った風属性の魔法が弧を描きながら的に直撃した。


「どうですか?」


「……威力こそ低いですが、コントロールは出来ていますね。精進をしなさいと言いたいところですが、軸がブレています。風属性の魔法は貴方の体質には合っていないようです。別の魔法を視野に入れておいてください」


「──はいっ!」


「次、コード・ティーナ!」


「……私?」


 二番目に呼ばれたコードは自分の顔に指を指す。それにララがコクリと頷く。


「頑張れ、コード」


 ハンナがコードの後ろから応援の激を小声で飛ばした。


「じゃあいきます」


 全員の前に立ち、的に向かって両手を前に出す。


「──ファイヤランス!!」


 すると、短い詠唱で人一人分程の炎の槍を一気に的目掛けて放った。


「なっ!?」


 ファイヤランスは真っ直ぐ的に直撃すると、的は粉々になって弾け飛んだ。


「どう?」


 後ろを振り向き、講師のララを見る。ララは目を丸くして、驚きの表情を戻せないでいた。それは、並んでいる他のアスタを含む生徒達も同様だ。


「今、詠唱を端折りましたよね?」


「はい」


(威力も申し分ない、それに中級……。間違いない。この子()天才だわ)


 天才、その言葉を言わしめる程の実力を既にコードは持っていると言うのか。


「講師!今のように長い詠唱を言わなくても、魔法って使えるのですか?」


 すかさずカインがララに向かって質問する。


「……はい。魔法を構成する為の『想像』『質量化』『放出』……これらを纏めたのが詠唱です。ですが、頭の中で質量化と放出の構造を理解する事が出来れば、魔法の詠唱を短縮して魔法を放つ事が出来ます」


「想像……?放出……?」


「本当ならこれは二年になった時に教えるものですが、まさか既に出来る者がいるなんて」


 ララは杖を上に指し、目を閉じた。


「──エレクシトリィ!」


 バチバチと杖から静電気のような音が鳴る。ララも詠唱を端折り、魔法を使ってみせたのだ。


「私も、一部の初級の魔法なら詠唱を端折れますが、中級でしかもこの歳であの威力の魔法を放つなんて、何処かで魔法を習ってたのですか?」


「まあ、そうですね…」


 クールに後ろを向くと、クラスから称賛の声が轟く。寵愛を持っていて、更に自分達より一歩上を歩いてコードに負けまいとやる気に満ちていたのだ。


「では次、アスタ・ホーフノーくん」


「はい!」


 アスタも大きな声で返事をし、新しく立てられた的目掛けて片手を出した。そして、魔力が掌に溜まり始めた時。


「待ってください!」


 授業を静止される。何者かとクラスの全員が一方に視線を向けると、何処からかやって来たサムが鋭い目でララとアスタを牽制していた。


「そいつは私が預かります」


「えっ?今は私の授業……」


「事情は後で説明します。なので、今だけは見逃してください」


 いきなり現れたサムに引っ張られ、アスタは校舎裏まで連れられた。


「全く、お前あの場で何をしようとしていた?」


「何って……、魔法を使おうとしただけですが?」


「……はぁ、アホ。お前がもし無詠唱の魔法……それも高威力の奴を使ってみろ。お前が全力を出したら、的どころか校庭がタダじゃ済まん」


「──あっ」


 自分がもしも上級や星級の魔法を使ったら、何が起こるか、アスタの脳内には簡単にそれが映像で再生された。


「無詠唱の事は帰りのホームルームで俺から伝える。お前は自分の魔力のコントロールを先に覚えるべきだ」


「じゃあ、授業は……」


「魔法基礎の時間は特別に俺が面倒見てやる。今日は一旦教室に戻れ」


 踵を返し、サムは職員室へと戻ろうとする。


「あっ、ちょっと待ってください!」


 アスタは今朝の事を思い出し、サムの足を止めた。


「なんだ?」


「あの、ちょっと相談があって」


* * * * *


 アスタはサムに今朝の事、ミカエルの事情を全て話した。

もしも、サムがドリス家と繋がっていたらこの時点でミカエルの復讐は中止せざるを得なくなるが、アスタはこの大学の『実力主義』と言う校訓を信じ、独断でサムに相談したのだ。


「成程……ドリス家か」


 サムはミカエルの話を全て聞いた上でどのような対応をするのか、場合によってはここで停学を言い渡されるかもしれないと言う覚悟はあった。


「結論から言えば、大学は絶対中立。お前達にどのような事情があろうとも手助けする事は出来ない」


「そうですか…」


 『中立』この場合だと、良くも捉えることが出来れば、悪く捉える事も出来る。だが、今回に限っては如何だろうか。


「手出しをしないと言う事は、自分達は好きに動いていいと言う事ですか?」


「それはお前達で考えろ」


 サムは僅かに口角を上げ、中立の言葉の意味を理解したであろうアスタに期待と醍醐味を感じていた。


「失礼しました」


 講師室の扉を開け、アスタは廊下の奥へと歩いていった。

 長らくお待たせしました。作者の体調も回復したので、遂に物語本編が進みます。

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