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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
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第2章 29『赤蜘蛛討伐戦』

 ワームを出発し、早1時間。馬の速度も落ち始め、陽が傾きかけた頃である。途中、ビッグフロッグに追われながらもどうにか赤蜘蛛のいる森へと辿り着くことができた。

 ミカエルとクラトスの2人は馬を降りて、近くに生えている木に馬を繋げた。


「ミカエルくん、私が手助け出来るのはここまでです。後はお一人の力で……」


「分かりました。絶対に赤蜘蛛を討伐してきます」


「ご武運を」


 そう言葉を交わし、ミカエルはクラトスと別れて森の中へと入っていった。

 ミカエルが赤蜘蛛討伐の為に用意した装備は、弓と弓矢20本、火の魔石、光の魔石、子供でも持てる軽めの短剣、油、水である。


 火の魔石は赤蜘蛛討伐の為にミカエルが一晩考えて編み出した作戦に必要なので、道中に立ち寄った王都で購入した物である。光の魔石は、万が一作戦が失敗した時の為の保険として購入した物である。


(なんでも屋の店主の話じゃあ、子育ての為に海辺の洞窟からこの森の奥にある洞窟へと移動しているらしいけど……)


 ミカエルは足音を立てないよう周りを見渡しながらゆっくりと赤蜘蛛のいる洞窟へと進んで行った。


 そして、草を掻き分けながら獣道を歩いている時である。


「これは……、骨?」


 踵で何かを踏んづけた感触が気になり、足下を見てみると、そこには魔獣の骨らしき物が落ちてあった。


「何の魔獣の骨だ?」


 腰を低くし、最低限の動きで骨を拾い上げてみた。


「……これはっ!」


 拾った骨に付着している物に思わず小さく声を上げてしまった。何故なら、それがミカエルの探している物だったからだ。


「粘着性のある糸……。赤蜘蛛のやつか……」


 骨を手に取った際に人差し指に付着した白くてネバネバした物。そう、赤蜘蛛が出した糸だ。


「近いな」


 手に付いた糸を水で洗い流し、巣穴が近いことを確認すると、腰に付けた短剣を出し、付近の小枝を切った後、慣れた手つきで近くにある一番大きな木を登り始めた。


(──ビンゴ!)


 木の中断辺りまで登った後、太めの枝に胡座で座り、景色を眺めた。そして、良い景色を堪能すると同時に骨があった場所から20メートル先にある洞窟を発見した。


(間違いない。あれが赤蜘蛛の巣穴だ)


 ミカエルの心は飛び跳ねるように高揚した。心音の音が内耳から聞こえ、今にも飛び出しそうなくらい気持ちが興奮した。


「……ふ〜…、いや、落ち着け」


 だが、ここでの興奮は命取りだ。正常な判断が出来なくなり、逃げの判断を誤ってしまう可能性があるからだ。ミカエルもそれは分かっていたので、瞼を閉じ、心を落ち着かせた。


 数秒間の瞑想の後、2回大きな深呼吸をして心音が小さくなるのを待った。


「……よし」


 そして、完璧に気持ちを落ち着かせる事が出来たと自分に暗示し、巣穴をもう一度見た。


(赤蜘蛛が出てくる様子はない。子蜘蛛含めて全部巣穴の中に籠っていると考えるべきか……。もしくは、もう移動した後か……)


 緊張感が高まると同時に指先が震える。

 その震える指で背負った竹籠から弓と矢を取り出し、矢に火の魔石を括り付けた後、矢全体に油を塗った。


「よし」


 中腰で踏ん張り、立膝を立てて弓の弦を引っ張った。

 弦がギリギリと音を立てる。そして、集中力を高める為に息を止めて洞窟へと狙いを定める。


「ふっ!」


 息を思い切り吐き、矢を持っていた手を離す。

 空を切りながら放たれた矢が洞窟の中に入る。


(どうだ……?)


 今放った矢は火の魔石を鏃にし、油を塗りたくったミカエル特製の矢である。

 この矢の仕掛けは、火の魔石と洞窟内の岩と擦れる事で発火するようになっている。そして、少しでも火が出れば矢に塗った油に引火し、大炎上を引き起こす。

 これが上手く作用すれば、煙と炎で赤蜘蛛を巣穴から誘き出して、その中の一匹の子蜘蛛を弓で射る作戦だ。


 だが、この作戦には多少の不安があった。何故なら、これがぶっつけ本番だからである。もしも、発火しなければ、それこそ巣穴に単身突撃する選択を迫られる可能性もある訳だ。


 しかし、そんな不安も杞憂に終わる。


「……ん?」


 目を凝らして洞窟の方を見てみると、僅かだが、黒煙が洞窟内から出ているのを視認できた。


(上手くいったか?)


 もしも火が着火したのであれば、直ぐに赤蜘蛛が出てくる筈だ。しかし、矢を放ち20秒が経過したが、まだ赤蜘蛛は出てこない。

 ミカエルは、出てきた子蜘蛛を射止める為に弓矢を構え、息を潜めて出てくるまで待つ。


(────来た!)


 すると、1分もしない内に巨大な細い脚が洞窟の中から姿を見せた。おそらくは親蜘蛛の脚だろう。

 一方で、お目当ての子蜘蛛はまだ姿を見せない。先に親蜘蛛が専攻して外の警戒をしているのだろう。


 このあり溢れる程の緊張感を抑えながらミカエルは弓を弾く手を強く握る。


 そして、親蜘蛛の体が全て見えたと同時に体長30センチメートルにも満たないくらいの子蜘蛛が巣穴の中からワラワラと出てきた。


「──!?」


 その数は軽く100を超えるだろう。見る人によっては発狂しながら気絶するレベルの多さだ。


(近くに親蜘蛛がいる。まだだ)


 ミカエルは出来る限り殺気を消し、子蜘蛛が自分の近くを通るまで待つと決めた。

 時折り、上から落ちてくる木の葉を退けながら子蜘蛛一匹一匹に目を移し、自分の所に寄ってくるのを待った。


 暫くすると、群れから外れた一匹の子蜘蛛がミカエルのいる木の方向へと歩いてきた。


(来たっ!)


 集中力を高め、射程内に入るまで弦を力強く引く。


 そして、真下の茂みに入ったその瞬間に、矢を持っている右手を離した。


 空を裂く音と共に矢が高速で子蜘蛛のいる茂みへと入っていった。


「やったか?」


 手応えはあった。茂みの周りの枝を予め切ったおかげで狙いは最後まで安定していた。

 ミカエルは直ぐに木から降り、子蜘蛛を射止めたであろう茂みまで身を低くして移動した。


「よし……」


 茂みの中で矢が突き刺さった赤蜘蛛の子供を発見した。それを左手で掴み取り、小さな声で僅かながらに喜んだ。


(後は親蜘蛛にバレずに此処を離れれば……)


 突き刺さった矢を引き抜き、子蜘蛛を矢の入っている竹籠に入れた。


「ん?」


 子蜘蛛を竹籠に入れた直後、肌に冷たい感覚を覚え、右肩を触ってみると、掌にベットリと白いネバネバした液体が付着していた。


「えっ?これってまさか……」


 頭の中で嫌な予感が過った。白い液体のような物、それが子蜘蛛の背中から茂みの奥へと伸びている。


「──やばい」


 ミカエルは咄嗟の判断で短剣で白い液体のような物、『糸』を切り、急いで森の入り口へと走り始めた。


 走り始めて5秒も経たない内に背後から、枯れ枝を踏む音が猛スピードで近付いてくる。


「やっぱりマーキングされてたか!」


 あの白い糸、もしもあれが子蜘蛛が死の間際に出したものではなく、親蜘蛛と繋がっているものだとしたらという考えが頭の中で巡り、ミカエルの焦燥感を掻き立てた。


 そして、短剣を口に咥え、弓矢を竹籠から取り出した時である。


 それは姿を現した。


「──っ!!」


 木を薙ぎ倒し、確実にミカエルの元まで追いつこうと必死になっている親蜘蛛が怒りを露わにして、地を6本の脚部で這いながら追いかけてきた。


 親蜘蛛が出てきた瞬間、ミカエルの頭は真っ白になった。そして、その間、僅か0.1秒にも満たない時間で考える。


 ──どうするか。


「──ふっ!」


 咄嗟の判断でミカエルは弓を構え、親蜘蛛目掛けて矢を放った。

 真っ直ぐに飛んだ矢は親蜘蛛の脚の関節に刺さった。だが、親蜘蛛はその脚を止めることを知らない。本能のままに子供を取り返そうと荒れ狂いながら更にスピードを上げた。


(何なんだよ!?)


 弓矢を再度放つには、少なくとも5秒、5秒の再装填の時間が必要だ。今、立ち止まる訳にはいかないこの状況で竹籠から矢を引き抜いて、赤蜘蛛へ向けて狙いを定めるのは不可能だ。かと言って、このまま逃げ切れる保証もない。


(ああ、もう自棄だ!上手くいくかどうかは分からないけど、()()に賭けるしかないか)


 ミカエルはこの状況に半ば絶望さえも感じたが、口に咥えてる短剣とズボンのポケットの中に入っている光の魔石を見て、一つの策を思いついていた。


「ふはばれ!!」


 短剣を口に咥えたまま発音したため、子音が上手く発音されずに口から言葉が発声された。

 そう言って、ミカエルが投げたのは掌サイズの光の魔石だった。

 宙に浮いた光の魔石はクルクルと回転しながら赤蜘蛛の方へと迫る。そして、ミカエルは投げた光の魔石目掛けて口から取った短剣を思い切り投げつけた。


 短剣を投げた瞬間、ミカエルは両目の瞼を閉じ、更に袖で目を覆った。

 その直後、光の魔石と短剣が金属がぶつかる音と共に衝突する。

 すると、眩い光が周囲を包み込んだ。


「キィィィィィィ!!!」


 光が放たれた途端、ミカエルを追っていた赤蜘蛛が進行を止め、後脚を使ってゆっくりと後退をした。

 普通の蜘蛛なら、視力が弱いため、こんな悪足掻きが通用しないだろうが、生憎、赤蜘蛛は昼夜問わず真っ暗な洞窟の中で巣穴を作る生き物である。そのため、急な強い光に怯まざるを得なかったのだ。


「………た、助かった……のか?」


 静かな森の中、落ち葉の絨毯に尻餅をつき、大きく息を吐いた。安堵の気持ちが大きく出た為か、冷んやりとした空気がミカエルの肌を触り、この試練の終わりを告げた。

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