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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
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第2章 21『出会い』

「ありがとうございましたー」


 午前9時。宿を出て、朝日が完全に昇り切った時間帯にミカエルと母は町へ帰るために王都の北門へと歩き始めた。

 まだ、大通りの商店は開店の準備をしている最中で、通りを歩いている住民達も少なかった。その代わりなのか、今日はいつにも増して、衛兵の数が多い気がした。


(何かあったのか?こんな朝っぱらなのに出払っている衛兵がかなり多いな)


 ミカエルの目線の先、王都を囲む高さ60メートルの城壁の上に何十人もの衛兵や冒険者が完全武装で待機しているのを確認できた。


(やっぱり、事件でもあったのかな?冒険者まで駆り出されてるって事は、盗賊関係、もしくは王政府へのクーデターを企んでるって噂の連中が動いたのか?)


 ここ最近の王国はお世辞にも治安が良いとは言えない。主な原因としては、改善されつつはあるが、各地に蔓延る貧富の差が原因とされている。それ故、そんな貧富の差に憤りを感じている者達がここ最近、王政府へのクーデターを企んでいると半年程前から噂されるようになったのだ。

 最も、そんな事を起こそうとすれば、王国の懐刀である王国騎士団との衝突は避けられないだろうし、クーデターする側の者達もそれは分かっているだろう。だから、滅多な事がなければ手を出さないし、なんなら、出す前に壊滅させられる可能性もあるのだ。


 ミカエル達も決して裕福な暮らしを送れていると言う訳ではないが、今の王政府に不満を持っている訳ではないので、このクーデターを行おうとしている連中には一切の興味を示していない。


「ん?」


 北門まで後100メートルを切ったであろうと思った矢先、衛兵の詰所の横にある管轄下の馬小屋から一頭の馬が荒ぶりながら、ミカエル達に突っ込んできた。


「いい!?」


 間一髪で馬を避けたものの、急に回避をしてしまったために母が乗っていた車椅子が横転した。


「──っ!いったぁ」


 足を挫き、上手く立ち上がれなくなる。そこに、1人の男がミカエルに手を差し伸べた。


「大丈夫かい!?怪我は?」


「──大丈夫です。自分は問題ありません。それよりも、母さんは?」


 自分の事を他所に、ミカエルは、馬が突っ込んできた拍子で離してしまった母が乗った車椅子の行方を探し始める。昨日からミカエルが感じていた嫌な予感とはこの事なのかと言わしめるくらいに焦りを覚えていた。


「ううっ…、ミカエル、何処?大丈夫?」


 母は、ミカエル達から見て左に位置する詰所の前でうつ伏せで倒れていた。どうやら、弾みで車椅子から前に飛ばされたようだ。


「母さん!──っ!」


 ミカエルは母の元に駆け寄ろうと足を動かそうとしたが、捻挫をしたのか、右の膝の関節に無理な力が働き、鉛を背負ったように足の動きが止まった。


「大丈夫ですか!?」


 動けないミカエルの代わりに手を差し伸べてくれた男が母の元に駆け寄る。


「すいません。僕が不甲斐ないばかりに…」


「ああ、ありがとうございます」


 母が男の肩にもたれながら衛兵の詰所の中に行き、治癒魔法の詠唱をして、怪我を治した。


「ほら、君も」


「はい」


 男はミカエルを手招きして呼ぶと、置いてあった椅子に座らせ、捻挫したであろう右の膝を男の前に出した。


「神の御心よ、力無き者に立ち上がる力と勇気を与えん『ヒーリング』」


 男が初級の治癒魔法の詠唱をすると、擦りむいてできた傷がゆっくりと塞がっていき、捻挫のような違和感も消えていった。


「ありがとうございます」


「いや、元はと言えば僕が悪いんです。僕が馬から目を離さなければこんな事にはならなかったんです」


 外を見ると、3人の衛兵が暴れている馬を取り押さえている様子を確認できた。馬は鼻息を荒くし、土埃を立てながら興奮していた。


「どうどうどう、落ち着け落ち着け」


「珍しいな。()()が躾している奴なのに、こんな暴れるなんてな」


 衛兵達が馬の手綱を掴み、餌で落ち着かせながら馬小屋まで引っ張って行った。


「おい!何してるんだヘルド!」


 外の様子を見ていると、縮毛の金髪の男が詰所の中に入って来た。


「ああ、ごめんハーマル。先生怒ってる?」


「ああ、カンカンだぞ。いきなりいなくなって何処いったんだ!って相当お怒りだぞ」


「ははっ、街の人達にも迷惑掛けちゃったから、こりゃあ反省文だけで済むかな?」


「知るかよ。さっさと戻るぞ」


 ハーマルが詰所から出ると、ヘルドはミカエルの方を向き、駆け足で寄って来た。


「ごめんね、怪我はもうないよね?」


「あ、はい。ありがとうございます」


「…もし、君のお母さんか君に何かあったら、メイヴィウス家を頼ってみて。これは僕から君への貸し一つになるから」


 ヘルドはミカエルと母に耳打ちでそう伝えると、そそくさと詰所を出て、何処かへと行ってしまった。


(メイヴィウス家…、確か、どの世代からも優秀な剣の使い手を出してる名家だったっけ)


 詰所を出ると、騒ぎを聞きつけて開店準備を始めていた通りに店を構える店主達が集まっていた。

 ミカエルは、彼らを横目に車椅子を押しながら北門へと再び歩き始めた。

 今回登場したヘルドとハーマルはアインリッヒ大学に在学していた時の2人です。この頃はまだ仲が良く、今のように殺伐とした関係ではありませんでした。

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