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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
50/114

第2章 13『寮生活』

 今回のお話で遂に50話になります。これまで読んでくださった読者の皆様方、本当にありがとうございます。ここまで続けられたのも皆様の応援があったからです。これからもどうか、勇者の弟をよろしくお願いします。

 よければ、ご感想と評価を貰えると嬉しいです。

 アンジェと別れた後、アスタは荷物を持って職員室まで赴き、中にいた女性の講師に持ってきた入学証明書を見せた。


「はい。アスタ・ホーフノーくんですね。入学証明書を受け取りましたので、貴方は今日からうちの生徒です。ようこそ、アインリッヒ大学へ。貴方を歓迎するわ」


 コンコンコン


 女性の講師が入学証明書を受け取ると同時に職員室の扉からノック音が鳴り、ガラガラと扉が開けられる音の後、片目を長い前髪で隠した男子生徒が職員室に一歩、足を踏み入れた。


「失礼します。普通科二年のグリフです。ニーファ先生はいらっしゃいますか?」


「はい。いますよ」


「失礼します」


 アスタが入学証明書を渡した小豆色の髪の講師はどうやら、ニーファと言う名前のようだ。


「此方の書類の確認を」


「はい。確かに受け取りました」


 ニーファがグリフから十数枚の書類を受け取り、それを机の上に置くと、手を合わせて、何かを思いついたように笑みを浮かべた。


「そうだ。グリフくん、生徒会の仕事として彼を寮まで案内してくれる?」


「新入生ですか。分かりました。彼の科はなんでしょうか?」


「騎士科よ。寮の場所は分かりますよね?」


「はい」


 グリフは黙々とした受け答えで了承した。


「失礼しました」


 職員室を出て、退出時の挨拶を済ませると、グリフは荷物を半分持ち、アスタの前に出て先導した。


「ついて来い。今から寮まで案内する」


 そう言われ、校舎の外に出て、敷地内にある同じような建物を三つ通り過ぎると、アスタが泊まっていたシミウス家の別荘より三倍は大きい建物の前で足を止めた。


「ここが騎士科の生徒寮だ。俺は残念ながらこの寮に立ち入れないからな。後は一人で行けるな?」


「はい。ありがとうございました。え〜と…」


「グリフだ。ギグ・グリフ。これでも、一応生徒会の会計監査を務めている。よろしくな、アスタ・ホーフノー」


「はい。これからよろしくお願いします!グリフ先輩!」


 グリフは荷物をアスタに返し、生徒会の仕事のためにこの場を去った。

 グリフから荷物を受け取ったアスタは寮の敷地内に入り、数歩進んだ先にあった観音開き型の寮の入り口のドアを押して、中に入った。


「こんにちはー」


 中に入ると、最初に大きな玄関に出た。

 左右の壁に百以上もの数の下駄箱があり、ここに外靴や上履きを入れるようだ。


「あ、あった」


 下駄箱を眺めていたら、右にある下駄箱の左端から二番目の所に自分の名前が書いてあった。


「ミカエルのもあるな」


 アスタの下駄箱から三つ下の下駄箱にミカエルの名前もあった。中には靴は入っておらず、まだ寮入りをしていないようだった。


 アスタは自分の下駄箱の中に外吐きを入れた後、建物を支える柱の横に置いてある箱からスリッパを取り出し、それを履いて玄関から少し進んだ先にある寮を管理する事務室へ行った。


「こんにちは。誰かいますか?」


 事務室の中を覗くと、室内は真っ暗で明かりが付いていなかった。


「誰もいないのか…」


 窓越しで事務室の中を見ていると、奥にあった鏡が玄関手前の階段を反射し、そこから下りてくる人影と目が合った。

 アスタが直様階段の方を向くと、右手で手摺りを掴んでいる赤髪でミディアムの髪型をした同い年くらいのツリ目の女の子がいた。


「ふん」


 直で目を合わせた途端、少女はそっぽを向き、上の階に戻ってしまった。


「なんだったんだ…?」


 ああも無視されると、少しだけ心にしこりが残る。でも、同級生ならまた会えると思った。

 部屋の場所も分からず、右往左往していると、事務室の手前にある窓口、その横の机にある黒い箱の中に纏められた紙を一枚手に持った。


「一人一枚ずつお持ちください…」


 よく見ると、紙の上の方に小さく書いてあった言葉を声に出して読み上げた。

 一枚ずつと言う事は複数枚取るべき紙があるということ。よく見れば、黒い箱の中には2種類の紙が置かれている。


「なになに」


 アスタはもう一枚の紙も取った後、最初に取った紙に目を通し始めた。


「えーと、これ、寮の時間割りか?六時三十分起床、七時朝食……」


 紙にはキッカリとした寮の基本的な時間割りが書かれていた。それこそ、学舎で授業を行う時間以外は全て一纏めされていた。


「食堂は朝七時から夜の二十二時までやってるのか。調理師の人達は交代制なのか?」


 寮の時間割りを一通り見終え、次の紙に移ろうとした時、持っていた紙が光で照らされ、裏面の文字が透けた。


「あ…、裏もあった」


 持っている一枚目の紙を裏にすると、小さく四十二名の名前と部屋番号が細かく書かれていた。


「俺の名前の隣にある部屋番号が今日から俺が部屋か。──と言うか、二人で一つの部屋なんだな」


 よく見れば、アスタの名前の上に書かれている別の人物の名前の横にもアスタと同じ部屋番号が書かれている。


「部屋番号は二〇一号室……。同室者の名前は、『ヨハネ・アマベル』」


* * * * *


 アスタは、この重い荷物を一刻も早く部屋に持って行きたかったので、もう一枚の紙を見ることなく、自分の部屋である二〇一号室へと足を運んだ。


「この部屋か……」


 部屋の入り口であるドアに二〇一と書かれた札がぶら下げられていたので、部屋の場所は直ぐに分かった。


(同室の人はもう来てんのかな)


 ドアノブに手を掛け、ゆっくりと回し、静かにドアを開けた。


 中に入ると、右手前にスリッパを置くための靴箱が用意されていた。

 スリッパを靴箱の中にしまい、部屋の奥へと向かう。


(中々広いな。二段ベッドに二人分の勉強机、これは…調理場か?食堂あるのに)


 部屋を一通り見て回ると、以外にも快適そうな空間だったし、水の魔石を応用して作った水洗式のトイレも完備されている。


(物置も二人分あるし、結構個人に配慮されてるんだな。それでいて、共同生活も出来るようにされている。考えられた作りだな)


 アスタは荷物を床に置き、二つある中の一つの物置に鞄から出した物を詰め込み始めた。


 〜五分後〜


 一通り荷物を整頓し終えた後、アスタは調理場に向かい、部屋に常備されている鉄製のポットに持って来た紅茶の茶葉と水を入れ、火の魔石を素材に作られた網目の台座の置いて、それに少量の魔力を注ぎ、お湯を沸かし始めた。


「荷物もないし、同室の人はまだ来てないのか」


 アスタは、お湯が沸くまでの間、暇になってしまったので、最初に取った二枚の紙の二枚目に目を通すことにした。


「えーと……、あ、これ明日の入学式の予定だ。しっかり読んでおこう」


 もう一枚の紙は明日の入学式のプログラムと一日の予定が書いてあった。


「俺たち新入生は、十時に校庭に集合。そこでクラス分けがされた後、体育館へ向かい、入学式を行う。終わった後は

教室へ行き、一時間程、軽い校則等の説明、その後は昼食。最後に帰りのホームルームをして初日は終了……」


 一通り声に出して紙に書かれていた内容を読み終えると、部屋の入り口のドアノブが回る音がした。


「こんにちはー、あ、もう誰かいる?」


「!」


 ドアを開け、部屋の中に入ってきたのは灰色の髪の少年。アスタと同室だから、男なのは間違いないのだろう。だが、その幼さが残る容姿から少女と見間違えられても仕方がない。実際、アスタも一瞬だけだが、自分の目を疑った。


「君が、ヨハネ・アマベルくん?」


「うん、そうだよ」


 声変わりが始まってきたアスタの低い男らしい声とは違い、中性的な声と自然な笑顔から、恋に堕ちてしまうのではないかと思うくらい胸を弾ませた。


「えっと……一応聞くけど、男だよね?」


「同室なんだから当たり前だよ。疑うなら、お風呂の時に確認する?」


 ヨハネの言い答えから、女と間違えられるのはしょっちゅうあるようだ。慣れたように男のシンボルが付いているか確認も取ろうとするし、本当に男のようだ。


「ああ…大丈夫かな」


 アスタの冷や汗が落ちると同時にポットのお湯が沸く音が鳴った。

 そんな訳で今日からアインリッヒ大学での寮生活が始まった。


 余談 その日の夜、お風呂でヨハネにアレが付いているかこっそりと確認してみた。本当に付いていた。

【豆知識】

 アインリッヒ大学には騎士科、勇者科、普通科、使用人科の4つの学科がある。勇者科には何年かに一度しか勇者候補の1人しか入学しないため、勇者科の寮は騎士科と併合されている。

 また、学年や学科ごとに寮の場所が違ったりする。

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