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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
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第2章 9『特別試験』

 馬車に揺られて15分。アスタは、リラックスしながら胸の鼓動を高鳴らせていると、遠目で4日前に見た大きな門が見えてきた。


「そろそろ着きますよ」


「はい」


 馬の手綱を引くアンジェがアスタの方を見て、顔色を伺う。アスタの顔色は4日前の夜とは違って見事なまでに健康そのものだった。


(──ん?あの人も追試を受ける人か?)


 馬車が十字路を曲がった時、アスタと同じくらいの年齢の少年が馬車と同じ方へ向かっているのが見えた。


「どうかしましたか?」


 ずっと同じ所を眺めているアスタが気になり、アンジェが声を掛ける。


「いえ、なんでもないです」


* * * * *


「私は此処までです」


 アインリッヒ大学の門前。そこで馬車が停まり、扉を開けて、アスタが馬車を降りる。


「実技だけですが、此処(アインリッヒ大学)の追試試験はかなり厳しいですよ」


「そんな心配しなくても大丈夫ですよ。んじゃ、行ってきます」


 アンジェの心配をよそに、アスタは気楽そうに歩き始めた。


「あと」


 アンジェが何か言葉を付けたそうとし、アスタの足が止まる。


「終わったら、聞きたいことがあります」


「えっ…、はい」


 振り向き、アンジェの顔を見ると、真剣な表情でアスタを見るアンジェの顔に気圧され、承諾してしまった。

 そして、馬車が動き出し、100m程離れた所で停車した。


(聞きたいことって、なんだろう?)


 アンジェの言葉の意味を理解しようとしても、彼女が考えている事が分かる訳ではない。アスタは、アンジェの発言を頭の片隅に置いて、試験に臨む気持ちへと切り替えた。


「さて、今回の追試受験者は6人。内1人が実技試験のみの追試。そして、そいつが無詠唱の魔法を使うので間違いないんだな」


「はい。僕も実際にこの目で見ましたので間違いはありません」


 アインリッヒ大学内の廊下。2人の人物が歩きながら会話をしている。内1人は、濃い髭を短く伸ばした男。もう1人は、騎士の制服を身に纏う少年。

 更に、少年の着ている制服の胸には片方の皿に心臓が乗った天秤のエンブレムが刺繍されている。


「エマ、その時のそいつは何点だった?」


「最後に見たのが1年前でしたので、いくらか変わってると思いますが、当時は45点でした」


 そう。男の隣を歩いているのは王国騎士第7師団副隊長のエマだった。


「45点か…。なるほど、悪くない点数…。寧ろ相当いい」


 男は含んだ笑みを浮かべ、足を止めてから窓の外を見た。


(……彼奴か)


 男の目線の先、そこにアスタの姿があった。


「う〜、体育館って何処だ?」


 追試を受けるための会場が体育館なのは知っていたが、アスタには、その場所が分からない。


「体育館って言うくらいだから大きい建物かと思ったけど、あの宮殿みたいな建物は違うみたいだし、本当に何処にあるんだよ」


 4日前にアインリッヒ大学に来た時は、在校生に案内をしてもらい、試験会場の教室へと足を運べたが、今回は理由があって試験を受けられなかった者への試験だ。受験者も少ないので、先導する必要がないのだ。


「あっ、あの人もそうかな」


 体育館への場所が分からず迷っていると、アスタの横を1人の少年が通り過ぎた。数刻前に馬車から見た少年だ。


「すみませーん」


 微かな期待を持って、アスタは通り過ぎた少年に声を掛けた。


「ん?なんだ?」


「あのう、試験会場の体育館の場所が分からなくて迷ってしまったんですよ」


「そうか。なら、一緒に行こうぜ。俺、何回か体験授業で此処に来てるから大学内の地図は頭の中に入ってるんだ」


「ありがとうございます。あの、お名前はなんと言うのですか?」


「…ミカエル・ブレア」


 ミカエルと名乗る少年は自分の名前を伝えようとした時、一瞬口籠ったように見えた。


「ミカエルさんですか。俺の名前はアスタ・ホーフノーと言います。よろしく」


 アスタも自分の名前を言い、右手を出して、ミカエルに握手を求める。


「ああ」


 握手を交わし、2人は体育館へ向かった。


「そう言えば、ミカエルさんはどうして追試を受けることになったんですか?」


「家の事情だ。アスタもなんで本試験を受けられなかったんだ?」


「いや〜、実は筆記試験は受けられたんですけど、実技試験の前日に魔犬病に罹ってしまったと判明してしまって、治療の末に高熱を出してしまったんですよ」


「魔犬病……。アスタ、お前出身は何処なんだ?」


ミカエルは、魔犬病と言う単語に驚きの顔を見せ、アスタの出身地を聞く。


「ボルスピです」


「ボルスピって、大陸の南東にある小さな村か。もしかして、魔獣も出るのか?」


「しょっちゅう出ますよ。最近は土熊も出ましたね」


「土熊…。危険度がかなり高い魔獣じゃないか。そう言う魔獣って、魔王領に近付かないと出ないんじゃなかったのか?」


「そう言うのはあんまり分かりませんが、最近、魔獣の活性化が多いみたいなので、その影響で土熊がこっちまで移動して来たとしか言いようがありませんね」


「そうか…」


 アスタの住んでいる土地が危険と隣り合わせと言うことを聞いたが、ミカエルは頷くことしか出来なかった。


「俺と同じだ」


「──え?」


「なんでもない。気にしないでくれ」


 なんでもないと言う者には大抵何かある。アスタはそう思っても、それを心の中に押し留めた。


 そして、教会のような建物へと入り、スリッパに履き替え数歩進むと、例の体育館に辿り着いた。

 中には既に計4人の少年少女が待機していた。どうやら、アスタとミカエルが最後に到着した追試受験者らしい。


「全員揃いましたね」


 アスタとミカエルが用意された椅子に座ると、壁の方で待機していた顎の長い男が腰を上げ、6人の受験者の前まで移動した。


「私の名は、フォック・メイヴィウス。このアインリッヒ大学の副大学長です」


(メイヴィウス……。最強の騎士と同じ家系か)


「追試を受ける皆々様、ようこそいらっしゃいました。堅苦しい挨拶は抜きにして、早速、試験へと移っていきましょうか」


 フォックの言葉の後、1人を除き、壁際で座って待機していた者達が一斉に立ち上がり、フォックの後ろで横にならんだ。


「我が校が誇る20人の講師が君達を試験します。では、筆記試験を既に受けたアスタ・ホーフノーくんを除き、全員、講師の案内に従い、指定の教室まで移動してください」


 アスタ以外の5人の追試受験者が席から立ち上がり、半分の10人の講師が体育館の外へ行き、筆記試験をする教室へと移動を開始した。


「では、アスタ・ホーフノーくん。君には悪いのですが、筆記試験が終わるまで此処で待っていてくれますか?」


「ええ、構いませ──」


 アスタもそのつもりだった。公平を期すために5人の追試受験者の筆記試験が終わるまでここで待とうと。


「待ってください」


 だが、それに待ったを掛ける者が講師達の列の中から1人出てきた。


「──む、サムさん、どうしたのですか?」


 列の中から出てきたのは濃く短い髭を揃えた男だ。


「副大学長、彼の試験を私に一任させてください」


 試験を自分に一任してほしいと言うサム。こんなこと不可能だろうとアスタは思った。なぜなら、此処は由緒正しい名門。そうそう1人の講師の意見を通すなど滅多にない筈だと思っていた。


「…分かりました。アスタ・ホーフノーくんの試験を貴方に一任します」


 しかし、フォックはサムの意見を通した。渋い顔をしていたが、本当にいいのだろうか。他の講師も特に口出しはしない。


「お心遣い感謝します。…ホーフノー、お前は特別試験だ」


 サムの目付きが突然変わり、アスタは身体を身震いさせる。


(なんだ…この雰囲気?)


「エマ、行くぞ」


「はい」


 最後まで壁際で座っていた騎士服を来た少年、エマが席を立ち上がり、サムの隣に立った。


(この人、王国騎士団の制服を着ている。なんで騎士が此処にいるんだ?)


「ホーフノーも来い」


「はい」


 アスタは訳も分からぬままサムの後をついて行き、アインリッヒ大学の離れにあるドーム状の建物へと入っていった。


「さあ、始めるぞ」


 中に入ると、天井が筒抜けになっている部屋へと案内され、そこでサムが立ち止まった。

 すると、突然アスタとサムを半透明の壁が囲んだ。


「エマ、もしも結界が壊れたら()()()()でどうにか止めろ」


「無茶言わないでください。僕の魔力量じゃ、彼の魔法を逸らすので精一杯ですよ」


 エマは半透明の壁──結界の外にいる。彼は、これから始まる事を知っているようだ。


「一体、何をするんですか?」


「決まってるだろ。試験だよ」


 サムはズボンのポケットに両手を入れた。


「撃ってこい」


「──え?」


「お前が無詠唱の魔法を使えることは知っている。遠慮せず撃て」


 要求されたのは魔法。それも無詠唱の魔法だ。

 アスタが無詠唱魔法を使えることを知られているのは可笑しくないが、それを自分に向けて撃ってこいと言うのは色々と可笑しい。


「どうした?撃ってこいよ。勿論全力でだ」


 これには困惑をせざるを得ないが、魔法を使わなければ、この試験に受かることがないのは確実だった。


「分かりました。どうなっても知りませんよ」


 アスタは、言われた通りに右手を前に出し、掌に魔力を貯める。


(凄いな。結界の外にいても分かる。彼の掌を中心に膨大な魔力が結界内に渦巻いている)


 そして、アスタは全力で火属性の上級魔法を放った。

 アスタの掌から放たれた炎は、サムに向かって勢いを増しながら迫る。そして、サムが魔法に向けて左手を出した瞬間────魔法が消えた。


「えっ?」


「……やはり、この程度か」


 サムは左手をポケットに入れる。

 結界石が効力を失い、アスタとサムを囲んでいた結界が崩壊する。


「やっぱりこうなりましたか」


「え?ちょっ……、え?」


 アスタは訳も分からなかった。突然魔法を撃ってこいと言われて撃ち、撃ってみたら魔法を掻き消され、今に至る。理解しようにもし難い状況だ。


(なんで魔法が消えた?寵愛?いや、そんなものを使った素振りはなかった。じゃあ何だ?魔法を無効化する魔法?あり得ない。絶対にある訳がない)


 膝を崩すアスタを横目にエマは一度溜め息を吐いた。


(まあ、サムさんに魔法勝負で勝てる訳がないよ。彼ならもしかしたらと思ったけど、やっぱり無理だったね。なんせ、サムさんは僕が知る限りじゃ、大陸最強の魔道士。そして、元王国騎士第5師団隊長。単純に考えて、相手が悪すぎる)


「不合格…ですか…」


 肩を落としたアスタは、堂々と立つサムに問う。自分は不合格かと。


「何を言ってるんだ?」


 怪訝な顔でサムがアスタに近付く。


「お前は合格だぞ」


「は?」


「その歳で無詠唱の魔法が使える貴重な人材を不合格にする訳がないだろう。今のは、お前の魔法の威力がどんなものか知りたかっただけだ」


 脳の処理スピードが追いつかない。ただ、サムの目だけを見ている。


「ようこそ、アインリッヒ大学へ。君を歓迎する」


 サムから出された右手は、新たな世界への扉なのか本当に自分が成長出来る希望への架け橋なのか、それが正しいと思うなら、その手を取ってみてもいいかもしれない。


「はい。よろしくお願いします」


 アスタは、サムから出された手を掴み、立ち上がる。


「エマ、彼を体育館まで連れてってくれ。一般の追試が終わるまでまだ時間があるからな」


「了解しました」


 エマとアスタは、体育館へ行くため部屋を退出した。


「──ふっ」


 サムは鼻で笑い、ポケットに入れた自分の左手の掌を眺める。


「あの歳でこの威力か……。本当にとんでもない原石が現れたようだな」


 サムの左手は赤白く腫れ上がっていた。さっきのアスタの火属性の魔法を受けた際に出来た火傷だ。


「完全には消せなかったのか。──ふん、これから面白くなりそうだな」

【豆知識】

 アスタの一人称が『僕』から『俺』に変わっている理由は、僕よりも俺の方が威圧感が出ると思ったからです。後、レイドが死んだことをまだ引きずっているから、レイドの一人称であった『俺』を使っています。その内、レイドと同じ口調になるかもしれませんね。

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