第2章 6『屋敷への再来』
ナモナキを出発して3時間。道中、魔獣に襲われる事となく、ゆっくりとしたペースで山を降り、王都までの中継地の場所として出発当初は予定していたルーフに辿り着いた。
「悪いけど、私はここまでね。この街で医者を探してから、兄さんの所に向かうから。……試験、頑張ってね」
「はい!」
馬車から降り、リムに見送られながらアスタはゼーヒャ街道に向かった。
* * * * *
「ん?坊主、1人か?」
「はい」
ルーフの門を出た直後、前から馬に乗った1人の衛兵に声を掛けられた。
「1人で大丈夫か?ゼーヒャ街道には人目もあるし、魔獣が出ないとは言え、王都までは結構な距離があるぞ」
1年前に王都に行った際は、王都を囲む壁まで馬車で送ってもらったので時間も掛からず王都まで行けた。しかし、今回は徒歩だ。この衛兵の言う通り、ルーフから王都までは約7kmの距離がある。徒歩で行くのは少々骨が折れる距離だ。
「時間は掛かりますが、大丈夫だと思います。体力には自信があるので」
「そうか。ところで、坊主は何しに王都へ行くんだ?」
「アインリッヒ大学、騎士科の入試を受けに行くんです」
「おっ、受検者か。なら、特別に馬を貸してやろう。そこで待ってろ」
「え?」
衛兵はそう言うと、ルーフまで馬を駆けて行った。
10分後、座り心地の良い岩に腰をかけていると、手綱で馬を引く衛兵がアスタの目の前に来た。
「馬、乗れるか?」
「一応乗れます」
馬に乗った事はあるが、あれは少しトラウマものだ。大人2人を軽々と空中に放り投げ、更に、それが自分に向かって来たのだから。
「よし、これで大丈夫だな」
馬に跨り、手綱を持ち、姿勢を正した。
「そういや、名前を聞いてなかったな。なんて名前なんだ?」
「アスタ・ホーフノーです」
「ホーフノー……?──あ!まさか、1年前に死んだ勇者の……」
「弟です」
「そうか。嫌なこと思い出させて悪かったな。俺の名前はマウザー。ただのしがない衛兵だ。君が騎士になったら、一緒に仕事する日を楽しみにしてるよ。頑張って来いよ」
「ありがとうございます」
マウザーから応援と馬を貰い、アスタは王都シミウスに向けて馬を走らせた。
馬を走らせて20分。舗装された道を駆けていると、遠目で巨大な壁を視認できるまで王都に近付いた。
「もう少しだな」
馬をそのまま走らせていると、縦8m、横10mの巨大な門の前に並ぶ人の行列を前に馬を急停止させた。
「並ばなくちゃいけないのか」
アスタは最後尾に並び、自分の番まで本を読んで待つことにした。
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「──おい」
「………」
「おい坊主!」
「──はっ」
大きな声で門兵をしている衛兵に声を掛けられ、身体を身震いさせる。
「あれ?いつの間に……」
「なんだ?本読むのに夢中で自分の番に気付かなかったってところか?」
急に声を掛けられたため、地面に落としてしまった本を衛兵が拾う。
「ほれ」
「ありがとうございます」
本を受け取った後、アスタは懐から通行許可証を衛兵に見せる。
「……よし、通っていいぞ。──ん?ちょっと止まれ」
王都への通行の許可を貰い、門を潜ろうとした直後、また衛兵に呼び止められた。
「なんですか?」
「その馬どうしたんだ?それ、衛兵団の馬じゃないのか?」
アスタが跨っている馬の首に赤いスカーフのような物が巻かれている。これは、衛兵団管轄下の馬である印だ。
「この馬は、さっきマウザーって人から貸して貰いました」
「あ〜、あのお人好しか。──分かった。先に詰所に馬を返しに行ってくれるか?」
「はい。……あ、でも、詰所って何処にあるんですか?」
「詰所は門を潜ったすぐ先だ。看板が目立つと思うから直ぐに分かると思う」
「分かりました」
衛兵にそう言われて、門を通った後、先に詰所に寄って馬を返してから、予め手紙で行く事を伝えていた、今はアンジェ1人で管理しているシミウス王家の屋敷へと赴いた。
「相変わらず大きい屋敷だな…」
此処に来た理由は、2日間の入試が終わるまでの間、泊めてもらう為に来た。
門の中に入り、庭を真っ直ぐに進んだ後、屋敷の玄関の扉を3回叩いた。
「ごめんくださーい」
すると、扉の奥からスリッパが床を踏む音が近付いて来る。アスタは一歩後ろに下がって、外開きの扉にぶつからない位置に陣取る。
扉が開き、中からメイド服を着た桃色の髪の女性が出て来た。
「お久しぶりです」
「はい。2年ぶりですね。少し背が伸びましたか?」
アスタを出迎えた屋敷の使用人、アンジェは1年前とは殆ど背が変わっていない。年齢的にはアスタより4つ上な筈なのに、変わっている所は少し髪が伸びたくらいだ。
「そうですね。最近は成長痛で身体が上手く動かせない日もあります」
「そうですか」
そんな他愛のない会話をして、屋敷の中に入る。アスタは、広間の壁に掛けている時計を見て、今の時間がお昼前だと確認する。
「お部屋は前と同じでよろしいですか?」
「はい。そこでお願いします」
前回泊まった時と同じ部屋に入り、荷物を一箇所に纏めてから、備え付けの机の上に羽ペンとインクと過去問を置いてから、シーツが綺麗に引かれたベッドに倒れる。
「なんか疲れた……。おかしいな……。今日、そんな動いてない筈なのに……」
謎の気怠さに襲われ、ゆっくりと目を閉じた。




