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勇者の弟  作者: ドル猫
第1章『〜幕開け〜王都からの手紙編』
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第1章 停会『夕暮れ時の会合』

 急ぎ足で一人の衛兵が騎士団本部の廊下を走っている。途中、すれ違う者達から注意されるが、彼の焦った表情からは、そんな事を耳に入れないくらいに只事ではないのは明らかだった。


 そして、とある部屋の扉を開けた。


「はぁはぁ…」


 部屋の奥では一人の男が外の景色を眺めていた。彼は、王国最強の騎士、ヘルド・K・メイヴィウス本人である。


「ご報告します」


 息を整え、衛兵は言伝で伝わった事を報告した。


「勇者一行の一人、フィネオス・クローズが帰還しました。彼の報告によれば、勇者一行は生還したフィネオスを除き、全滅した模様……」


 ヘルドは何の反応も示さなかった。


「……失礼しました!」


 衛兵は報告を終えると、団長室へ行くために退出した。


「──っっ!!!」


 ヘルドは、奥歯を食いしばり、ギリギリと苛つきながら地団駄を踏んだ。


 部屋にあった本棚が浮き、床に叩きつけられる。

 机が突然発火する。

 椅子が朽ちたように崩壊する。

 紅茶の入ったコップが粒子となって消えた。


「──っっ!!はぁはぁ、死んじまえこのクソ野郎が。()()()()()()?」


 ヘルドが何かに向かい、憤慨を言葉にして言い放った。誰に言ったのだろうか。


 時間は夕刻。オレンジ色の夕日が西へ沈みかけていた。

 ヘルドは与えられた自室を出て、あてもなく廊下を歩いていた。すると、数メートル先から一人の男がヘルドとすれ違った。特徴的な縮毛の金髪、ハーマルだ。


「浮かない顔してるな」


 ボソッと耳元で囁かれた。


 瞬間、ヘルドは腰に帯剣していた騎士剣を抜刀し、ハーマルの首を刎ねる勢いで斬りかかろうとした。


 ──キインッ


 静かに響く鍔迫り合いの音と共にヘルドの持っていた騎士剣の剣身が根本から折れた。

 いつの間にか抜刀をしていたらしく、ハーマルの持つ騎士剣から静電気のような音が鳴る。


(……見えなかった。相当強くなっている)


 ハーマルは騎士剣を鞘に収め、ヘルドを睨んだ。


「どうだ?少しは私の気持ちが分かったか?」


「さあね」


「お前には、一生分からないだろうな」


 ハーマルは歩き出し、ヘルドの横で止まった。


「……これだけは言っておく。私はいつか、必ずお前を殺す」


 それだけ言うと、ハーマルは再び歩き出し、廊下の奥へと去って行った。

 ヘルドは折れた刃を拾い、隠すように消滅させた。もしも、ここで抜刀したのがバレたら、死刑にはならないだろうが、数日間は地下牢に入る羽目になる。それから逃れる為に持っている騎士剣の柄もこの場で消滅させた。


「……ハーマル、その願いは叶わないよ」


* * * * *


「さて、後は団長に報告だけ済ませて──」


「よおハーマル」


 報告書を纏め、業務終了の報告をしようと副隊長のプリクソスと共に団長室へ向かおうとした時である。不意に背後からレオに声を掛けられた。


「なんですか?」


「ちとお前に話がある」


 レオは八重歯を剥き出しで笑みを浮かべながら右手を腰に当て、ハーマルを呼び出す。


「……分かりました。コルキスさん、後はお願いします」


「了解です」


 ハーマルは報告を副隊長のプリクソスに任せ、レオと共に屋上へ赴いた。


「しっかし、随分と大きく出たな」


「何の事ですか?」


「とぼけんじゃねえよ。さっき自分で言ってたじゃねえか。ヘルドを殺すって」


 聞かれていた。仲間内での殺し合いは御法度。ハーマルは勝てないと分かっていても口封じの為にレオと戦わなくてはいけないと思い、騎士剣の柄を握る。


「おいおい、そうビビるな。俺ぁ、報告する気はない。むしろ、協力してやろうってんだ」


 レオはズボンのポケットから両手を出し、上に上げる。己には戦う意志がないと言う意思表示だ。


「協力…?」


「そうだ。だって面白そうじゃねえか。最強の騎士vs(たい)元最弱の騎士。俺ァ強え奴が好きだが、ヘルドの野郎は別だ。あのいけ好かねぇ顔面を潰せるってんなら、俺ァお前に協力する」


「私と協力するより、ご自分で戦った方が良いのでは?」


「それも悪くはねえが、どうも俺一人じゃ彼奴にゃ勝てねえ」


「そうですね。彼奴が今日みたいに隙を見せなければ、私1人でも勝てません」


「そうだろう?お前もそれ分かってんなら、ここで同盟を結んでもデメリットはない筈だ」


「ですが」


 ハーマルの目付きが変わり、眼光が鋭くなる。


「これは私自身の問題です。レオさんとは協力出来ません」


「そうかよ」


 レオは残念そうに肩をすくめ、首をポリポリとかく。


「じゃあ、この話は無かった事にしてやらぁ」


「ありがとうございます」


「その代わり、後で付き合え」


「はい」


 その後、ハーマルはレオと共に練兵場に行き、十回模擬戦をした。結果は、零勝十敗。ハーマルの大敗北だった。


「あんなに大口叩いてたのに、こんなもんか」


「いやいや、レオさんには勝てませんよ」


 二人は、模擬戦が終わった後、王都にある銭湯に行き、身体についた汗と土を流していた。

 ゆっくりと出来る時間が出来たからか、湯船の中でお互いにリラックスして、最近のストレスをぶつけている。


「──でよぉ、ネメアがさあ」


「それは笑えますね。他の皆にも教えてあげればどうですか?」


「そりゃいい提案だが、ネメアには申し訳がねえからやめてくれれば助かる」


「はいはい」


「隊長になって一年が経ちましたが、中々慣れないものですよね」


「ああ〜、その気持ち分かるわぁ〜。上手くしねえとってプレッシャーがあるよな」


「はい。特に、成り立ての頃は右も左も分からないし、期待もされますからね」


 お互いに悩みを打ち明けたり、男同士の他愛の話をしたりと、楽しい時間を過ごしていた。


「そういやよぉ、あの小僧……え〜と、アスタ・ホーフノーっつったけなあ。そいつはどうなんだ?一応スカウトされていたから来月辺りから入団すんのか?」


「アスタくんですか。ルナさんが言ってたんですけど、彼、スカウト断ったっぽいですよ」


「ほお、そりゃなんでだ?」


「まだ全然実力が足りないから、三年間、アインリッヒ大学で剣術や魔法を学びたいそうです」


「それは良いな。あそこなら、普段見えないものも見えてくる筈だしな」


 レオは爪先を伸ばし、脹脛の裏の筋肉を引っ張る。風呂の中に入っている為、身体が気持ち良さように声を上げているように感じた。


「ん?でもよ、彼奴勉強は出来るのか?アインリッヒ大学の入試は筆記と実技の両方があるだろ。実技は兎も角、筆記は出来んのか?」


 レオが純粋な疑問をハーマルに聞く。


「多分大丈夫ですよ。彼が帰る日にエグゼが過去問を渡してましたし」


「それ反則じゃねえのか?」


「答えをカンニングする訳ではないので、反則ではないと思います」


「まぁ、どっちでもいいわ」


 二人はのぼせるまで湯に浸かっていた。

 次回より、第2章スタートです!


【豆知識】

 名剣スザクの素材の一部にはプレージ湖に住む心優しき青竜の鱗が使われている。

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