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勇者の弟  作者: ドル猫
第1章『〜幕開け〜王都からの手紙編』
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第1章 32『騎士の実力』

「さあ、遂にここからが本番だね。皆は、この中の誰が優勝すると思う?」


 タウルスが入場した王国騎士の面々を見て、ウキウキしながら優勝予想を投げかけた。


「誰が優勝しても同じだろ!こいつらは俺らより強くはねえんだ!何も期待する事はねぇ!!」


 レオは苛つきを見せながらタウルスに噛みつく勢いで怒鳴った。


「落ち着いてくださいレオさん。我々の今回の任務は、奴の監視と同時に次代の騎士団を纏められる者を探すことも目的です。お忘れなく」


「分かってるよエセジジイ!!」


 ヴァルゴがレオにそう注意したが、当の本人はアスタに喧嘩を売られた事をまだ気にしており、それどころではないらしい。


「まあ、俺はあいつが完膚無きまでに叩きのめされるのを期待してんだ。それが見られりゃ、後はどうでもいい」


「口が悪いぞレオ!」


「テメェにだけは言われたくねぇなァ!」


 レオがデネブに怒り狂った獣のような敵意を向ける。どうやら、この2人は、性格的な相性が良くないらしい。それでも、ここまでレオが荒げるのもまた珍しく、ネメアは不思議そうにレオの方を見ていた。


「それよりも、さっきから聞きたかったのですが、何で私達があの魔人の見張りをしなくちゃいけないんですか?正直、幹部の実力がエマのおかげで分かったのなら、こんなに人数を集めなくても、私達の内、1人か2人いれば見張りなんて済む話じゃないですか」


 アリエスがそう頭に浮かんだ疑問を周りの仲間達に意見を求める。アリエス個人としては年長者のゲミニーかアセルスの意見を聞きたかったが、返答したのはサテラだった。


「過去数回、魔王軍幹部に隊長や副隊長が殺された事があるからですよ」


「でも、それは当時の事ですよね?その魔王幹部だって、もう死んでるかもしれないし、私達だって奴らに負けない為に必死に訓練を積んだんですよ」


「それでも、奴らは私達の想像を上回る」


 2人の会話にハーマルが割り込む。


「ハーマルさん……」


「団長もきっと、最悪の事態を想定して、我らに見張りを任せている」


「最悪の事態……」


 最悪の事態と言う言葉にアリエスは深く考える。その事態とは何なのかと。


「今回の場合だと、四天王の強襲だね」


「四天王…ですか?」


「ああ。幹部よりも圧倒的な力を持った四天王……もしも、奴らが仲間を助けに1人でもやって来たら?」


 ハーマルは可能性の一つとしての例を挙げる。その例が起こる可能性は微々たるものだが、起こらないという保証もない。


 その可能性にアリエスは即座に起こりうる事態を想定する。


「……もしも、四天王がやって来たら、きっと、この会場に来ている者達の殆どが死ぬ。そして、私達の中でも対抗出来る人も限られてくる」


「その通りだね。多分、四天王に対抗出来るのは、私達王国騎士団の中だと、ヘルド、ヴァルゴさん、レオさん、ゲミニーさん、私、そして、ルナさん。王国騎士団以外だと、ウィザードのミラクルさんとかなら1()()()()対抗出来ると思う」


 それでも、四天王に勝てそうな人材は10人も挙げられない。


「だから団長は、私達全員に見張りを頼んだのですね」


 その通りである。ヘリオスは最悪の事態を想定したので、この練兵場にわざわざ王国騎士団の隊長と副隊長全員に見張りとしての任務を与えたのである。


「ハーマル殿、()()2()()でも四天王とは互角に渡りあえるのでは?」


 ヴァルゴがあの2人という人物も四天王に対抗出来るのではないかと思い、ハーマルにその2人の可能性を提示させたが、


「あの2人には期待できませんよ」


 その2人が王国の為に動いてくれるか考えた結果、ハーマルの答えは、溜め息を吐いて、呆れたような物言いで期待できないという答えだった。


* * * * *


 王国騎士団団長のヘリオスが右手を上げると同時に入場してきた騎士達が一斉に姿勢を正し、一糸乱れぬ動きで地面を踏み鳴らし、鞘に収まった剣を掲げてこの場にいる全員に敬礼を捧げる。


「凄い動き…」


「うん、一朝一夕で出来るものじゃない。きっと、こういう時のために身に染み付くほど見えない所で練習していたんだろうね」


 アスタとミッシェルは、その圧巻な迫力に呑まれかけていた。

 今更ながらだが、この2人はその迫力を放つ者達と剣を交えるのだ。


(やばいな。緊張で試合どころじゃないかもしれない)



 それから20分後に、アスタとミッシェル、そしてもう1人の本戦出場者の元に大会運営スタッフがやって来て、それぞれの控え室まで案内された。どうやら、本戦出場者1人1人に個別の部屋が用意されているらしい。


(地下なのかな?ジメジメするけど悪くはないな。1人だし魔法の確認も出来る)


 アスタが魔法の最終調整のために土魔法と氷魔法を出し入れしていると、部屋のドアを3回軽く叩く音が聞こえた。


「どうぞ」


「失礼するよ」


 部屋の中に入って来たのはヘリオスだった。

 一枚の紙を片手に何か剣呑な表情を浮かべていた。


「これが対戦表だ」


 手渡された紙には計24人の選手たちの名があり、その中には知り合いの騎士であるブリシュの名があった。


「ブリシュさんも出場するんですね」


「ん?なんだ、もう知り合いがいたのか」


「はい。彼とエグゼさんが兄に勇者の手紙を届けに来たんですよ。──ん?ちょっと待ってください。この2人に手紙を届けさせたのはヘリオスさんですよね?」


 あの日の2人の言い方から、おそらく、この男が2人に手紙を届ける命令をだした。

 しかし、手紙を届けるよう命じた超本人が届ける者とそれを受け取る者の弟が知り合っていたのを知らない事に少し疑問を感じた。


「確かに、あの手紙を届けるよう2人に命令をしたのは私自身だが、あの手紙の中身が勇者の推薦状と知ったのはあの2人が戻って来てからだったんだ。私も、あの手紙を上の者から受けっとっただけだからな、宛先は知っていたが、中身の事は知らなかったんだ」


「そうなんですか。それは失礼を致しました」


 無礼をしたと思い、丁寧に謝った。この人からは隊長達のような自分よりも格上と思えるような雰囲気こそ出ていないものの、あの変人を含めて、個性豊かな人間達を纏めているのだ。

 なので、ここは丁寧に謝るべきと判断した。


「…実は、もう一つ言うことがあるんだ」


 謝罪の後、ヘリオスはアスタの目を見て、本戦のルールを語った。


「基本的な所は変わらないが、君にとっては良い報告だ。本戦は、上級までの魔法の使用が解禁された」


「それはありがたいです」


 この報告には心底喜んだ。上級の魔法が使えるなら、騎士相手でも互角に戦えるかもしれないと思ったからだ。


「悪い報告もしておくと、ビットの使用は原則禁止だ」


「はい」


「あれはまだ未知数な所が多いからな、審判の皆様方もこれには頭を抱えてたんだ。だから、とりあえずは使用を制限させてもらう。もし、使ってしまった場合は即失格。君には悪いと思うが、これでいいかな?」


「はい。大丈夫です」


「では、健闘を祈ってるよ」


 ヘリオスが部屋から退出した後、アスタは1回戦の相手の確認のために対戦表に目を通した。


「初戦の相手はディオス・クローイさん…か。確か、第3師団の人だったような」


 アスタの一回戦の相手は、過去に見た王国騎士団所属騎士の一覧表の中に載っていた人物だった。これを見たのが、今から5年は前の事なので、1年前に見た新人の頃のエグゼやブリシュと比べると、遥かに実力は上なのだろう。


「しかも第一試合だし、気を引き締めなくちゃな」


 頬を叩き、己を奮い立たせる。試合への気合い溜めだ。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「アスタ・ホーフノーさん、時間です」


「はい!」


 スタッフの人がノックの後に部屋のドアを開け、アスタを入り口へと案内する。

 入り口に着くと、既に観客席から声援が聴こえてくる。それほど、騎士の試合を楽しみにしているのだろう。


「お前が対戦相手か。よろしくな」


 隣にいた対戦相手のディオスが話しかけてきた。

 ディオスの体格はアスタより大きく、年齢は40代半ばと言ったところだろうか。


「はい。よろしくお願いします」


「さあ、本戦1回戦第一試合アスタ・ホーフノー対ディオス・クローイの試合を開始します!両者、入場!!」


 2人は壁に掛けてあった木剣を取り、審判のいる中央の試合場まで歩き、立ち止まる。


 お互いに準備は出来ている。アスタとディオスはお互いに10歩後ろに下がり、木剣を構える。


 ドッドッドッ


(うるさい!止まれ!)


 心臓の鼓動が止まらない。予選の時よりも心音が身体に鳴り響いている気がした。吐き気がする。

 それでも、時間は待ってはくれない。


「──開始!」


 審判が試合開始の合図をする。


「──はっ!」


 緊張で足が動かなかった。まずいと思っても、身体が思うように動かない。


 ──負ける


「────?」


 しかし、ディオスは動かない。今のテンパリ様を見れば、アスタが本調子でない事は素人目にも分かったはずだ。

 それでも、ディオスは動かなかった。腕を組み、仁王立ちで此方を睨んだまま。


「どうした?早くきてみろ」


(攻撃を誘っているのか?)


 ──運が良い


「ふぅー」


 一度心を落ち着かせて、相手の様子を伺う。ディオスは、その場からは全く動かない。それどころか、武器である木剣も足元に置いている。


(向こうは何を狙ってるんだ?やっぱり、焦って攻撃してきた所にカウンターを合わせるのか?いや、もしくはもっと別の狙いがあるのか?)


「どうした?掛かってこないのか?」


 挑発だ。ディオスはアスタに攻撃するよう仕向けようとしている。


「──っ…」


 しかし、一度冷静になったアスタはそう簡単には動かない。

 欠伸でもくしゃみでもいい。時間を掛けて、相手が隙を見せるのを待つ。


 この状況に観客達からはブーイングの嵐だ。怒声や罵声が飛び交い、2人をぶつけようと騒ぐ。

 だが、アスタにそんなものは聞こえていない。集中し過ぎているのだ。


 ただ、心音だけが小うるさい。


(成程……、待ちか。確かに長期戦には持ってこいの策だが、生憎、此方はそれに乗ってやる義理もないな。なら……)


「──!!」


「どうした?俺はここから動かないぞ」


 ディオスは腰を落として膝をたたみ、胡座をかいた。

 アスタは訳が分からなくなった。


 ──なぜ?どうして?胡座をかいている?


「分からないか?なら、教えてやろう。……ハンデをやってるんだよ」


 ディオスは胡座のまま態勢を崩さず、視線をアスタに向ける。


「俺は、今から1分間ここを動かねえ。その間、魔法も使わないし、武器も取らねぇ。待つにせよ、動くにせよ、お前の自由だ。さぁ、やってみろ」


 ──罠だ


 そう思わざるを得ない。しかし、ディオスは、動かないと声高らかに宣言した。もしも、それを破れば、ディオスは卑怯者のレッテルを貼られ、王国騎士団にも泥が付く。それは、彼も本望じゃないだろう。


 ──なら


 アスタは足を深く踏み込み、姿勢を低くする。目線をディオスに合わせ、木剣を腰に回す。


「漸く来るのか」


 ディオスは薄っすらと笑った。


「いきます」


 地面を力一杯蹴り、ディオスへと迫る。


「さあ来い!お前の攻撃、全て受け止めてやろう!」


 正面突破。そう、誰もがディオス目掛けてアスタが木剣を振るうと思った。


 しかし、アスタは急に左へと軽く跳躍する。

 その先には氷の結晶が作られている。アスタはその氷の結晶を蹴り、ディオスの背後まで移動する。そして、後ろからディオスの背中に突きを入れる。

 あくまで、広い面積を攻撃できる『斬り』ではなく、敢えて、一点集中の『突き』。突きは、攻撃面積が狭く、使った後に前に偏った姿勢を戻す動作が必要になるため隙も出来る。だから、わざわざ使う者はそう多くないが、力の入れようによっては、木剣でも岩を砕く事が可能であり、突きを完全に扱える者は、


 ──相手がどれだけ自分より格上でも僅かながらに勝機を見出せるのだ


 これはアスタの祖父、フライデンからの言葉だ。


(だけど──)


 しかし、この程度で騎士が音を上げるとは思えない。アスタはすかさず解禁された上級の火属性の魔法と土属性の魔法を交互に打ち込む。


 無詠唱だ。防御する暇も与えなかったのだ。もし、これでも相手が戦闘の継続が可能だと言うなら、正直、かなり落ち込む。もう一度、魔法の基礎を学び直して、威力向上に努めなくてはいけない。


「……嘘だろ」


 しかし、ディオスは本当に動かなかった。特に慌てる様子もなく、ただ攻撃を受け、そして、耐え切ったのだ。


「いい攻撃だ。俺じゃなければ多分今ので勝ってるぞ」


「────っ」


 ディオスはゆっくりと立ち上がり、木剣を拾い上げる。1分経ったようだ。


「なら、これでどうだ!」


 アスタは、ディオスが動く前に足下から2本の巨大なツルを出し、ディオスをあっという間に拘束する。然魔法の一種だ。


 しかし、次の瞬間にはブチブチと植物特有の千切れる音と共にディオスは力付くで拘束解いた。


「これで終わりか?」


「まだだ!」


 次の手だ。まずは土魔法で地面を泥濘ませる。初級の魔法だが、足を反撃を受けないようにするための最善の策としてはこれが効く。


「ん?なるほど。こりゃ厄介だな」


 ディオスも今までのこの魔法を使い、足を取らせた相手と同じように例外なく動けなくなっていた。


 そして、右腕を上に上げ、1本の巨大な氷柱を形成する。これは、予選でも見せた中級の魔法に魔力を最大限溜め、一気に放出する魔法の上級版だ。


(さっきの攻撃で上級の魔法があの人に通用しないのは分かった。──なら、それ以上の最大火力をぶつけるまでだ!)


 右腕を前に振り、魔力の渦が周囲に発生した直後に氷柱は猛スピードでディオスへと迫り、直撃した。


 避けられなかった筈だ。アスタも氷柱が当たる瞬間までディオスから目を離さなかった。本戦まで残した氷結魔法を応用した移動も使った。これで駄目なら、もう打つ手は限られてくる。




「しっかし、彼奴(あいつ)もついてねぇなぁ」


 特別席でレオが座席で身体を逸らしながら牙を鳴らす。


「レオさん、それはどう言うことですか?」


 さっきまで悪態をついていたレオが急に大人しくなった。ハーマルはそれを不思議に思い、どう言う意味か聞き出そうとする。


「そっか、ハーマルはまだディオスさんと手合わせたことなかったね」


「はい」


 その疑問に反応したのは、レオではなくタウルスだった。

 ハーマルは今年で19である。まだ王国騎士団に入団してからは4年と少ししか経っていない。なので、40を過ぎたベテラン騎士のディオスのことをあまり知らなかったのだ。


「あの人は強えし、対人戦に限って言やあ、絡繰さえ見破られなければ、負けることがねえんだ。絶対にな」


「そうだね。レオも一度コテンパンにやられたしね」


「テメッ、それは言うなって!」


 レオがディオスのことを高く評価している最中に、ネメアがレオがディオスに負けたことがあることを暴露した。


「む……それは知りませんでしたな。ネメア殿、是非、その話をお聞かせください」


「ジジイ!!聞くんじゃねえ!!」


 レオが慌ててネメアとヴァルゴの口を封じようとする。


 この光景に、隊長、副隊長の中でも入団してから年数が余り経っていない、ハーマル、エマ、アリエスはレオの慌てように少し驚いていた。


(レオさんもこんな表情するのか…)


* * * * *


 氷柱がディオスに直撃した。間違いなく当たった。刺さらないように先端を丸く形成したから、普通なら当たった直後に相手の身体は場外まで押し出される筈だ。


「なんで……」


 しかし、ディオスはその場から動くことなく立っている。無傷だった。




「──と言う訳だ」


「じゃあ、弟はあの人に勝てないんですね」


「ああ。このままだと、魔力切れまで粘られるだろうね」


 ヘルドがレイドにディオスの絡繰の説明をした。説明を聞いて、単純な仕掛けだと言うことにレイドは理解したが、説明されなければ、絶対に分からなかった。


「ヘルドさんがあの人と戦ったら勝てますか?」


「勿論勝てるよ」


 ヘルドに純粋な疑問を聞くと、返答はすぐに返って来た。自信満々で勝てると。


 これが最強の騎士としての余裕なのか、はたまた、強がりなのか、それは本人にしか分からなかった。

【豆知識】

 ハーマルとヘルドは同期であり、年齢も同じ。

 アインリッヒ大学で共に勉学などに励んでいた時は、仲が良かったものの、お互いに騎士となり、ヘルドがメイヴィウス家を継いだ時から意見が合わなくなった。そして、とある事をきっかけに仲違いした。それ以降、ハーマルはヘルドを憎み、怨んでいるが、逆にヘルドは、ハーマルのことを心配し、結構気にかけている。

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