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勇者の弟  作者: ドル猫
第1章『〜幕開け〜王都からの手紙編』
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第1章 30『勧誘』

「ふっ、はぁ!!」


「──っ!負けるかっ!!」


 木剣と木剣が弾かれる音が交えながら男と男の意地がぶつかり合う。例え、この試合が命を取り合うくらいの決闘ではないにしろ、観客達は、必死に勝利をもぎ取ろうと真剣に戦っている男達の姿を見て、熱狂的になっていた。それはさながら、古代ローマのコロッセオの決闘を彷彿とさせるようだった。


「う〜む、確かに皆、試合に必死に取り組んでいるのが分かるが、何か物足りんな!!」


 Bブロックの試合を特別席から見ている男性、王国騎士第十師団隊長のデネブが声を張り上げ、ハッキリと今行われている試合がつまらないと発言した。


「まぁ、Aブロックの試合が白熱しただけに何か物足りなさを感じるのは分かるんですが、そうハッキリと言わなくても……」


「いえ、デネブ隊長の言う通りつまらないっすね!」


 エマが真剣に試合をしている選手に対し、その言い方は良くないと思い、デネブに意見しようとしたが、その意見がデネブの耳に入る前に、背が低い深緑色の髪の女性、第十師団副隊長のティポンがエマの意見を遮るようにデネブの発言に賛同した。こう見えても、ティポンは王国騎士団入団前までは、かなり内気な性格だったのだ。


「デネブさん、ティポンさん、それは試合している彼らに失礼ではありませんか?」


 そんな二人に釘を刺すようにハーマルが鋭い視線でデネブの大きな声に負けないよう、物怖じせず低い声で二人の発言が失礼だと言った。


「しかし!つまらない事は確かっす!それはハーマルも分かっている筈っすよ!」


「ですが……」


 すると、特別席に異様な空気が漂った。それは、ハーマルでもデネブでもティポンからのでもない。


「御三方、あっしらの任務をお忘れですか?今、騎士に求められているのはなんでしょうかね?」


 ゲミニーだ。彼の細目からは想像もつきにくい程の異様な空気。全てこの男から放たれているものだ。


「ゲミニーさん……」


「あっしらの仕事は、奴の監視。ただされだけです。試合の賛否は、後で考えましょう」


 ゲミニーの言う通り今回、王国騎士団の隊長達がこの場に集められた理由は魔王軍幹部であるコルバルトの監視及び、他の幹部がコルバルトを取り返そうと練兵場を襲撃した際の対応を取るためだ。ゲミニーは、その事を第一に考え、試合の結果は二の次にしていた。


「確かにそうでした。猛省します」


 デネブは、ゲミニーに頭を下げ、謝罪をした。それに続いてハーマルとティポンも頭を下げた。


「……ところで、タウルスは何処にいるんですかね?」


 ゲミニーが突然、思い出したかのようにタウルスがこの場にいない事を指した。


「え?」


 ハーマルが自分の隣の席に視線を移すと、先程まで隣にいたタウルスの姿がなかった。


「と言うか、イオさんもいなくなってないすか?」


 更に、タウルスの上の席にいたイオの姿となくなっていた。


「あっ!ちょっと待ってください!レオもいなくなってます!」


「スコルプ隊長の姿も見当たりませんね」


 そして、レオとスコルプの姿もこの場から消えていた。


「わ、私探しに行って来ます!」


 ネメアが四人を探しに席を離れる。それに続くようにエマも席を立ち上がろうとするが、


「まあ待て。練兵場内から出た訳ではないだろうし、二人も行く必要はない」


「あっ、はい」


 隊長のグリーゼに止められ、ネメアの後を追うのをやめた。


「しかし、レオやタウルスは兎も角、スコルプさんは何処へ行ったのですか?……貴女は何か知りませんか?ミナルレフさん」


 サテラがこの場に残ったスコルプの部下であるレサトに何か知らないかと訪ねた。それもそうだろう。自由奔放なタウルスやレオとは違い、スコルプは計画を立てて行動する男だ。部下のレサトに何か伝えているに違いないとサテラは見立てていた。


「隊長はスカウトに行っていますよ」


「スカウト?」


「はい」


△▼△▼


 ジャ────


 水の魔石が青く光り、男用の小便器から少量の水が流れ、尿を地下の下水へ流す。


「ルーフで泊まった宿と同じで、ここも『スイセン式』って言うのを採用しているんだな」


 Bブロックの決勝戦の最中、尿意が催した為、練兵場の廊下にあるトイレを使い、蛇口からでる水で手を洗い流していた。


「しかし、本当に魔石は凄いな。こんな鉄から水を出せるなんて」


 アスタの故郷ボルスピではトイレから何やらここまで便利に発達していない。なんせ旅人も滅多に寄らないど田舎だ。技術の搬入が遅れ、今でもトイレは一昔前の物を使っているし、水も井戸から汲んでいる。


「ルーフでも水の魔石を応用した物を使っていたから、他の都市でもこれが普通なのかな?──はぁ、早くボルスピにも来ないかな」


 そんな淡い期待を願いながらトイレから出ると、アスタを待っていたかのように四人の男女がアスタを呼び止めた。


「君、待ちたまえ!」


「僕ですか?」


 アスタに声を掛けたのは若い青年。おそらく、最近成人になったばかりだろう。


「ああ。さっきの試合観てたよ」


「ええ、貴方の魔法凄かったわ」


「それはどうもありがとうございます。で、本題は何ですか?」


 彼らの目的に関しては何となく予想がついていた。だから、手っ取り早く話を聞いて、Bブロック決勝戦の続きを観戦したいのだ。


「話が早くて助かるよ」


 リーダーと思われる青年はアスタの察しの良さに引き気味で驚き、本題の話をし始めた。


「君さえよければ、僕らのパーティーに入ってくれないか?」


 勧誘だ。これまでの試合を観て、アスタがパーティーの即戦力になると考えたから誰よりも早くアスタの元に来たのだ。


「残念ですが、お断りします」


 しかし、アスタの答えは初めから決まっている。NOだ。アスタはこの大会で優勝して兄のパーティーに入ると自分の中で決めているので、入る訳にはいかないのだ。


「そうか。そりゃ、君は才能があるから他所のギルドやパーティーから声が掛かっていてもおかしくないよね」


 リーダーの男は結果が分かっていながら無謀な勧誘をしたのだ。


「でも、僕は諦めないからな。いつか名を上げた時、もう一度君を誘う!それまで待っていてくれよ!」


(いや、待つも何もそれまで待てる訳ないだろう。いつまで掛かる気だよ)


 男は一度気分を落としたが、直ぐに自分を奮い立たせ、大物になると宣言した。アスタは、その宣言を受け、面白い人だなと思いながらも、無期限の『待って』と言う発言には呆れた。


「じゃあ、皆んな!早速だがなを上げる為にもまずは『オンデカント』まで行こう!」


「おおっ!」


「そうこなくっちゃな!腕がなるぜ─」


「さぁ、行きましょう!」


 青年らは練兵場の階段を下り、何処かへ行ってしまった。


(あの人達、冒険者だったのか。勧誘に乗らなくて正解だったな)


 冒険者、名前の響きから子供達のなりたい職業ランキング上位の職業ではある。が、アスタには少し、冒険者に対しては不安要素を感じていた。この冒険者と言う職業は、各地を旅しながら、冒険者ギルドに来る依頼を受けて生計を立てる職業である。そのため、衛兵や騎士のように固定給を貰える訳ではなく、完全に歩合制である。そのため、毎月安定した給料を受け取れないのだ。しかも、大陸内が発展してからは殆どの場所が冒険済みとなってしまい、今は高難易度の依頼、もしくは子供でも出来るような依頼しか冒険者ギルドには来ないのだ。そのため、冒険し切れてない場所を必死こいて探す、もしくは、命を懸けて高難易度の依頼を受けるしか道がないのだ。

 そして、この大陸内で冒険し切れてない場所は三つしかない。一つは魔王領。ここは、名目通り、魔王が支配している土地であり、歴代の勇者達が散っていった場所でもある、危険な場所だ。それでも、時折りこの魔王領に行く冒険者がいるが、大体は死体すらも帰ってこない。

 二つ目は、先程の冒険者達の口から出てきたオンデカントと言う砂漠だ。この場所は、ワーボンから西へ進んだ所にあり、開発も進んでいない未知の領域なのである。そして、その砂漠の中央に建造されている地下神殿が存在する。別名、太古の城とも呼ばれていて、誰が何のために建造したのか未だに不明な謎多き神殿なのである。そのため、その謎を解き明かそうと数多の冒険者達が神殿の攻略に乗り出したが、神殿内には無数の魔獣が生息していて、調査が思うように進んでいないでいる。そこで、十五年程前に一度王国騎士団がこの地下神殿の調査の任務を受け、当時の第一師団が調査の為に現地へ赴いたが、長期間の任務の割りに当時の王国騎士団の信頼度だけでは充分な資金が出ず、水や食料等の物資が足りない事態となり、一週間余りで任務は中止となった。

 三つ目は、ガハリシュから東に位置する崖である。一見すると、特に何もない崖なのであるが、何故か人は入れないようになっているのだ。崖に入ろうとすれば魔力障壁のようなもので弾かれてしまう。そもそもそこがどのような場所なのか、文献がないので、一切分かっていないのである。


「おっと、試合が終わる前に戻らないと」


 時間を確認し、試合の続きを観る為に座席へ戻ろうと早歩きをし始めた時である。


「待って。坊や」


「ん?」


 腕を組んで壁に寄りかかっている長身の女性に声を掛けられた。


「貴女は、確か……」


 アスタは、この女性に見覚えがあった。


「マジカレット・F・ミラクルです」


「ああ、そうでした。王都の掲示板に貼ってあった絵の人ですね」


 名乗られた名前から、記憶の片隅にあった絵を思い出した。


「それで、ウィザードのギルド長さんがこんな僕になんの御用ですか?」


 ウィザードは、数ある魔法使い・魔導士ギルドの中でも有名なギルドである。そのギルド長であるミラクルは、五属性の星級の魔法を扱い、更に、無詠唱魔法も使用するばかりか、魔法の精度も王国一とも呼ばれている。つまり、魔法面だけを見れば、完全なるアスタの上位互換的な存在だ。


「……はっきり言いましょう。私は君が欲しい」


「ほう…」


 目的は先程の冒険者と同じアスタの勧誘。しかし、彼らと彼女との実力差は天と地の以上の差がある。


「君の魔法の応用には感心しました。あの感じだと、もう星級の魔法も使えますよね?それに、あの球体も興味深い……」


(ビットが見えていたのか!?)


 ミラクルは一瞬だけアスタが掌から出した直径十糎の小さな球体、ビットを見逃していなかった。その事にアスタは心の中で驚いた。


「更に言ってしまえば、君は無詠唱魔法も使える。……私の後継人としても相応しい。そこで、君がウィザードに入ってくれるなら、君が望む契約金を出しましょう。そして、私の側近となってもらいたい。どう?悪い条件ではないとは思うけど」


 ミラクルから告げられた勧誘には嘘一つない。事実、ウィザードは結成から二百年の月日が経過しても廃れる事がない大ギルドだ。ここに若くして入れば、間違いなくアスタの今後の人生は安泰であろう。


「素晴らしい御条件ですが、お断りします」


 丁寧に勧誘を断った。


「一応理由を聞いてもいい?」


 しかし、ミラクルにとっても喉から手が出るほど欲しい金の卵だ。そう簡単に引く訳がない。


(この人の目……凄いプレッシャーだ。多分、生半可な嘘は見破られる)


 ミラクルの目からは、今まで出会ってきた強者達と同じくらいの圧があった。


(正直、この人に関しては侮っていた。同じ無詠唱魔法を使う者同士、ビットと剣術があるこっちの方が実力が勝っていると、なんで思っていたんだ?さっき会ったマリーナさんよりも弱いと感じてしまったからか?それでも、この人は間違いなく全魔法使いの中でトップクラスの実力を持っている)


 だから、ここで逃げの選択肢を選んで下手にミラクルの気分を損ねるより、攻めの姿勢を崩さず、本当の理由を言うべきだと考えた。その方が相手の気分を害さないで済む。


「僕は、次期勇者のパーティーに入りたいんです」


「次期勇者パーティーに入りたいか……。──ん?そういえば、次期勇者と君は同じ家名……」


「はい。御察しの通り、二百代目勇者レイド・ホーフノーは僕の兄です」


「そうか。そうだったのですか。それは、勇者の弟ならあんな凄い魔法を使えてもおかしくはありませんね」


「……!兄と言う物差し基準で僕を計らないでください。僕は僕です」


 ミラクルの言い方では、まるでアスタの実力が兄のお陰で成り立っていると言うような言い方だ。アスタの場合は、祖父、父親、兄が王国内で名を馳せているのだ。なので、「あの父親の子供だから出来る」などと言われるのは心底嫌いだ。


「それはすみませんでした。先の発言は取り消します」


 以外にも素直に訂正した。


「──まだ私は人をこんな見方をするんだな。……これでは、君を勧誘する資格なんて私にはない」


 溜め息を吐き、自身の情けなさから出た心の内の言葉をそのまま一言呟くと、一枚の手紙をアスタに手渡した。


「今日の所は引かせてもらいます。けど、まだ君を諦めた訳じゃない。……気が向いたら、私のギルドに出向いてみてください。君なら、いつでも歓迎しますよ」


 ミラクルはそう最後に言い残し、アスタの前から去っていった。


 ──彼女の後ろ姿はどこか寂しさと遣る瀬なさに包まれているようだった。


「ウィザードか……。魔法使い・魔導士ギルドに興味がない訳じゃないけど……」


 ミラクルから貰った手紙をポケットにしまい、今度こそ自席へ戻ろうと選手席への入り口に差し掛かった時である。


「君、少し待ちたまえ」


(また勧誘か)


 本日三度目。二度ある事は三度あるとはよく言うものだ。


「はい、どなたです……か……?」


 渋めの声がする方向に身体を向け、声を掛けた人物に視線を移した。そこに立っていたのは、アスタも予想していない人物だった。


(蠍のエンブレムに、襟元の徽章……!?)


「まさかっ…!」


 一眼見るや否や、その者の格好と胸元に縫い付けられたエンブレム、そして、襟元に止めた隊長の証であるバッジ式の徽章を見て、自分に話し掛けた相手が誰なのか分かった。


「初めまして私の名前は、スコルプ・アンタレス。一応、王国騎士団の隊長を務めている者だ」


 アスタに声を掛けたのは、カージナルレッド色の短髪で身長百八十糎を超える長身に加え、屈強な雰囲気を纏わせる男性。そう、王国騎士第八師団隊長スコルプ・アンタレスだった。

【豆知識】

 王国騎士団の師団には一つの師団ごとにそれぞれのエンブレムが存在する。このエンブレムは、制服の胸ポケットと、任務で移動する際に羽織るローブ風のマントに縫い付けられている。因みに、第2話でのブリシュとエグゼは、まだ師団に入団していない見習い期間だった為、2人の制服にはエンブレムが縫い付けられていなかった。そのため、アスタは最初に2人を見た時、王国騎士だとは思っていなかった。


 王国騎士の隊長達は、襟元にバッジ式の徽章を付けている。付ける理由としては、身分を表す際に一目で分かるようにとのこと。

 他にも、王国騎士の団長と副団長は、王国騎士団結成時の時から受け継がれているスカーフを腕に身に付けている。


【王国騎士団のエンブレムの概要】

第1師団 眠る赤い羊

第2師団 角を突き上げる牛

第3師団 手を繋いでいる双子の兄妹

第4師団 蟹のハサミ

第5師団 吠える獅子

第6師団 ハーブを弾く長髪の女性

第7師団 片方の皿に心臓が乗った秤

第8師団 銀の蠍

第9師団 弓の弦と矢

第10師団 青い山羊

第11師団 水が溢れる瓶

第12師団 水面に跳ねる魚

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