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勇者の弟  作者: ドル猫
第1章『〜幕開け〜王都からの手紙編』
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第1章 29『マリーナの目』

 緊急の審判達の会議が終わり、大会を再開する為に各々が準備を始めようと動き始めた時、ヘリオスが思い出したよう、全員に聞こえるよう話し始めた。


「分かっているとは思いますが、マリーナさんが賢者マーリンの子孫と言う事は内密でお願いします。できれば、アスタくんのビットの事も他の人に伝えないで頂きたいのですが…」


「どうしてだね?」


「はい。マリーナさんはどうしても自分を国民から認知されたくないようなのです。……どうか彼女の気持ちを汲み取ってほしいのですが…」


「此方にも事情があるんですよ」


 マリーナは照れるように首裏を爪で軽く掻き、不器用な笑顔でそう言った。


「寵愛かどうかも怪しいアスタくんのビットについては、不確定な要素が多いので、今は広めてほしくないのです。この情報は騎士団にも共有しない気でいます」


「なるほど、分かりました。でしたら、我々は協力しますよ」


「はい、すいません。お手数をおかけします」


 審判の一人が心良くその事を承諾し、内密にすると約束してくれた。他の審判も言うことはないだろう。


 ──一人を除いては。


「あの……」


「言われんでも分かってるわい!」


 アスタの大会失格を主張していた審判が不安要素ではあるが、これ以上の恥はかきたくないようだ。


「じゃあ、僕はそろそろ会場に戻りますね」


「あ、私も行く」


 中断中の会場とイーラの様子が気になり、踵を返し、足早に部屋を退出し、早歩きで練兵場の医務室へ行こうと階段を下りかけた時、


「待ってよ〜!」


「うん?」


 後ろからマリーナに声を掛けられる。


「ついて来たんですか?」


「ぜぇ、ぜぇ……うん、ちょっと…聞きたいことがあって」


「──水、飲みますか?」


 マリーナは数回咳き込んだ後、アスタから水の入った竹筒を受け取り、中にあった水を一気に飲み干した。


「ありがとね。普段から研究に勤しんでいたから体力無くなっちゃってて」


「はぁ」


 笑いながら自分の身の内のことを話すマリーナにアスタはただ頷くだけだった。


「まあ私の事はいいんだよ。私が気になったのはアスタくんの魔法の技術の事だよ。あれどうやったの?空飛んだやつ!あれもビットの力?」


 マリーナは自分に矢面が立たないように話題を魔法の話へと逸らす。


「あれはビットの力じゃありません」


「へぇ〜、じゃあどうやったの?私気になるなぁ」


 マリーナは口早にアスタが試合の時に遥か上空まで飛んだ仕掛けを好奇心旺盛な幼子のように聞く。


「あれは、飛ばす寸前に氷柱にしがみついたんですよ。あの魔法がイーラさんに当たらない事は予想出来ていましたし、それに、空中にいる相手に魔法を当てるのも至難の技と思い、魔法ごと自分を遥か上空に飛ばしたんです。そして、相手よりも上空まで飛んだタイミングで魔法を解除して、一気に降下。なので、上から奇襲が出来たんです。まぁ、氷柱から落下しないように若干、速度を落としていた事に気付かれないかどうかが賭けでしたが、上手くいきました」


 アスタの説明にマリーナは納得したように相槌を打った。


「なるほど。結構簡単な仕掛けだね。私も出来そうだけど、握力弱いから無理かな」


 二人は階段に座り、小さな声で談笑をする。


「じゃあ、もう一つ聞きたい事があるんだけど」


「なんですか?」


「アスタくんは、本当にビットの正体を知らないの?」


 マリーナの声に重圧が掛かる。その瞬間、壁の埃がゆっくりと落ち、場の雰囲気が一変する。

 マリーナと目があったアスタは、今までの物腰の軽い女性が突如として消え去った事に恐怖した。


「し、知りませんよ。彼らが何なのかは僕が知りたいくらいですよ……」


 本当にビットについて知っている事はない。アスタ自身ですら、何故このビットが自分にここまで懐いているのか、そして、如何にしてこのビットが()()()の中にいたのかそれは、此処にいる誰にも分からない。


「──嘘じゃないみたい」


 ミーナは、アスタの目を見て、羽織っていた白衣の中から一冊の手帳を出す。


「私ね、実はさっき嘘吐いてたの」


「え?」


「さっきの会議でアスタくんのビットについては分からないって言ったけど、半分嘘なんだ」


「それは、一体?」


 どうして嘘を吐いたのか質問をする前にマリーナの口から嘘を吐いた理由が語られた。


「確かに、私はアスタくんのビットについては分からない。けど、それが魔法でも寵愛でもないことは分かる」


「!?」


 マリーナは、手帳をページを捲りながら何かを探しているようだ。


「どれだったけな〜?」


(どう言うことだ?あれが、魔法でも寵愛でもない?じゃあ、一体何なんだ?)


 アスタは、これがマリーナの冗談である可能性も考え、脳を回すが、どうやっても、彼女の落ち着きようからは嘘を吐いているとは考えられなかった。嘘を吐いている人間は、大体目線がそれたり、親指を僅かに動かしたり等、人によって様々だが、何かしらの仕草がある。だが、マリーナにはそれが一切無い。表情は、変わらず頬を少し上げているだけ。逆にそれが不気味でもあった。


「あ〜。あった、あった」


 マリーナがアスタに手帳を見せる。そこには、下手な絵と一緒に簡略化されて書かれた数文の文章が載っていた。


(これは、人の絵?それと、なんだこれは?ビットに似ているようだが…)


 アスタは、おそらくマリーナが書いたであろう文と絵を見て不思議に思う。マリーナの絵が下手なのは十も承知だが、アスタには一眼でなぜかビットらしき物が描かれているのが分かった。


「私、物忘れが多いからこうやって本に書いてあったことをメモしているんだ。んで、さっきアスタくんのビットを見た時に思い出したんだよ。あれが魔法でも寵愛でもない事と、ビットに似たようなものを使っていた人物をね」


「ビットを使っていた人物!?」


 驚いて思わず声を出した。自分以外にもビットを使える人物に仲間意識を感じ、自分と同じような人が他にもいると安心感が出たからだ。アスタ自身、ビットを不気味に思っている節がある。なので、自分と同じような人がいるのであれば、その人と気持ちを共有出来ると思ったのだ。


「それは一体誰なんですか!?」


「……それはね、私のご先祖様だよ」


「え?」


 あっさりと期待は打ち砕かれた。


「私のご先祖様、大賢者マーリンがアスタくんと似たようなやつを使っていたんだ。勿論、手記に記されていたやつだから本当かどうか分からないけど……。でも、アスタくんが使えるなら、多分使っていたんだと思うよ」


「そうですか……。では、僕はイーラさんが心配なので医務室に行って来ますね。貴重なお話、ありがとうございました」


 アスタは、立ち上がり、マリーナに一礼した後、階段を一段ずつ下りていった。


「何か分かったら、また教えるから」


 去り際にマリーナからそう伝えられたが、アスタの耳にその言葉は入らなかった。


 それから、アスタは医務室でイーラの無事を確認。

 王国騎士団の隊長達が中断の合間にアスタの使った中級の氷属性の魔法の応用である巨大な氷柱とイーラの風属性の魔法の応用で見せた飛行には反則が無かった事の説明を選手席から聞いていた。


 そこから三十分が経ち、エグゼが司会席に座った。


「皆様、大変申し訳ございません!大会は間もなく再開いたしますので、もう少々お待ちください」


 どうやら、大会の再開はかなり難航しているようだ。Bブロック出場の選手達もストレッチをしたり、イメージトレーニングで試合への最終調整をしたりして、試合へ臨む姿勢を此方にアピールしていた。


「ミッシェルさんもいる。Bブロックだったのか」


 ミッシェルが左腕を伸ばし、右腕で抱えるように腕全体の筋肉をほぐしている。試合前の準備運動なのだろう。


「さて、いきますか」


 指を軽く曲げ、怪我への最新の注意を払った後、その場で軽くニ回ジャンプした。

 そして、午後ニ時を告げる鐘の音と共にBブロックの試合が今、始まろうとしていた。

【豆知識】

 作中に出てくる東暦と言う暦の数字は、この大陸にある人物がやって来た年から数えられています。

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