第1章 21『騎士たちの目論見』
空気が重くなる団長室、集まった隊長達は片膝を立ててしゃがみ、実務用の椅子に座る団長ヘリオスの前に立っている最強の騎士、ヘルドに発言を優先させる。
「これは、私の対魔石ですね」
ヘルドの掌の中にある紫色の鉱石、ルナはこの対魔石に見覚えがあると思い、ポケットの中に手を突っ込む。
すると、常に持っていた筈の対魔石が無くなっていた。そして、ヘルドの掌の中にあった対魔石の欠け方やヒビを見て、自分の物だと確信する。
「はい。ルナ副団長の持ち物を少し拝借させていただきました」
「貴様ッッ!!」
あっさりとルナの持ち物を燻んだと認め、ハーマルの怒りを買う。
鋼が擦れる音と共に再び抜刀し、今度は躊躇なくヘルドを斬ろうとした時だった。
キィィィン
鋼と鋼がぶつかる音と共にハーマルの剣撃が止まる。
「ゲミニーさん……」
ハーマルの剣撃を止めたのは、細目で背が他よりも少し低く、穏やかな表情を見せる三十代半ばの男、第三師団隊長のゲミニー・A・カストルだった。
「ハーマルくん、先程も言われたでしょ?落ち着けと。ねぇ、団長」
「ああ、俺はハーマルにヘルドを斬れと命じた覚えはない」
雲が夕日を遮り、日差しの入らない室内で一瞬の攻防を交わした両者は、剣を収め、背筋を正す。
「ハーマル、退出だ」
そんな彼に言い渡された処分は、退出。普通なら仲間に模擬戦以外で斬りかかった者には、牢獄に半年くらいは入れるくらいの罪であるが、今の国の現状を考えると、戦力を削ぐ時間と余裕は無い。
「──っ!!た、確かに今の私の行動は王国騎士にとってあるまじき振舞いでした。ですが、私は──」
「退出です。騎士ハーマル」
必死の言い訳を並べるハーマルにルナから冷徹な言葉が述べられる。室内の開光石が差し掛かった雲の影に反応して、薄く光る。
「貴方の行いは、騎士の名誉を軽んじ、貶めるものと同義です。これは先程抜刀をした皆様もですよ」
ルナは深々と吐息をこぼす。
「いつまで此処にいるんですか?まだ若いからといってもこれ以上の譴責は見過ごせません。──退出を」
ルナの無情な言葉がハーマルに刺さる。
ハーマルは歯を食いしばり、無言で団長室を退出する。
「団長、多目に見てやってはくれないか?仲間に斬りかかったのは良くないけど、彼にも色々と考えがあったんだと思うよぉ」
タウルスがハーマルを擁護するように発言し、追うように団長室を退出する。
「どいつもこいつも勝手な行動をして……、此方の気持ちも考えてほしいものだ。それで、なんでお前はルナの私物を盗ったんだ?」
「はい。このままですと、誰が魔王軍の内通者なのかという疑いが王国騎士団内での争いの火種になると感じ、早期に一手を打とうと思ったので、ルナ副団長の私物を、勝手ながら拝借させていただきました」
「で、対魔石を使い、王国騎士と近衛騎士一人一人を調べたと」
「はい。その結果、対魔石は全員に反応がなく、特に問題はございませんでした」
ルナもヘリオスも連日の業務で疲れが出て、対魔石で王国騎士一人一人を調べるというところまで思考が回っていなかった。ヘルドはそんな疲れている二人を見て、無断で対魔石をくすねて、自分から重労働をしたのである。
「勝手にルナの私物を盗ったのは、個人として見過ごしたくはないが……」
ヘリオスは感謝の言葉を出そうとしたが、ルナの私物を盗んだこと、そして、王国騎士同士の争いの火種を消したが、逆に自分が隊長たちからの疑いの目を引き寄せるきっかけになった事も事実ではあったため、言葉を上手く出せずにいた。
「──よくやった。ひとまずはこれで、王国に蔓延る脅威は退けられたと言っていいだろう」
「僕の身に余るくらいの有難きお言葉です」
会議が終わり、ヘリオスとヘルドは団長室を退出する。雲が避け、再び薄暗い室内に西陽の陽光が当たり、中に残った十人の隊長たちとルナが黄昏色に髪が染められる。
「御二方は退出されましたが、ルナ副団長はなぜ退出しないのですか?」
第八師団隊長のスコルプがこの場に残るルナに質問をする。
騎士の習わしで、会議などが終わり、部屋を退出する際は必ず身分の高い者から退出をしなければならないというものがある。ヘリオスとヘルドもそれに習って、この場で一番身分の高い二人が先に退出したのだが、その次に身分の高いルナが退出しないのだ。一度は扉まで近づいたが、耳を扉の奥に傾けた後、戻って執務室の椅子に腰を掛ける。
「すみませんね。タウルス隊長とハーマル隊長にも後で伝えますが、今、貴方方に伝えなくてはならない事があったのを思い出したんです」
「伝えなくてはいけない事とは?」
「──蜂よ」
ヘリオスが騎士団本部の通路を一人で歩いていると、窓辺で一人黄昏れるタウルスの姿を見つけた。
「会議を勝手に抜け出して何をやっているんだ?」
「いや〜、ハーマルの心のケアのためにヘルドみたいにカウンセリングしようと思ったんだけどね〜、見事に断られちゃったんだよ」
いつもと変わらない態度にヘリオスは唇を尖らせる。
「それで、彼奴はどうするんだい?彼から聞けそうなことはもう無いと思うけど」
「そうだな……これ以上の情報が得られそうになければ早めに処分するのが理に適っているな」
ヘリオスは瞑目し、数秒考え込む。
「ならさ、私にいい考えがあるんだ」
タウルスが何かを思いついたように人差し指を上に向ける。
「いい考えだと?何があるんだ?」
「ふっふっふっ……それはね──」
夕焼けが二人を照らす。狂人のタウルスが何を目論んでいるのか、その歯痒さにヘリオスの表情はこわばっていた。
2021年 1月2日
此方の都合で魔王軍幹部『コルバルト』の名前を『プロキオン』に変える事にしました。もし、直ってない箇所があれば、TwitterのDMでお伝えして頂くと助かります。
【 Twitter】https://twitter.com/@ManyCatsunarry




