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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
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第2章 76『釈放の日』

「アスタ・ホーフノー、釈放だ」


 地下牢に入れられてから五日の時間が経ち、アスタは解放された。

 久々に浴びる陽光を少し鬱陶しくも思ったが、その中の占める心地良さ身体の大半を支配し、今、自分が生きているのだと実感する。


「さてと……」


 この五日間で様々な事を考えた。サムの言っていた正解とは何か、あの魔獣侵攻の時、まだ自分に出来る事があったのか、そして──


「う〜ん……なんか可笑しいんだよな〜」


 ミカエル、ヨハネとの面会が終わった後、何故急に寝てしまったのか、同じようにほぼ同時刻でコードと見張りの騎士、同じ階下の囚人までもが意識を失ってしまっていたのか、この地下牢生活の中でこのような不可解な出来事があったのだ。だが、何故そのような事が起こったのか、地下牢にいた誰もが分からないのである。


「まあいっか。取り敢えず、一旦寮に帰るか」


 地下牢のある施設から大学の寮までは大した距離はなかった。精々、徒歩十分といった距離しかない。なので、数刻前の冷たく、暗い地下の景色から陽光が入る温かな部屋へと移るまでは一瞬の出来事のように感じられた。


「わふー」


 寮の部屋に帰って早々にベッドに倒れたアスタは毛布の中に顔を突っ込み、まるで産まれたての子鹿のようにその場から動けなくなった。


「久しぶりのわが家だー」


「おかえり。お勤めご苦労様」


「お──う」


 そんなアスタを気に掛けてか、台所にいたヨハネがホットミルクが入ったマグカップを二つ持って、それを部屋の中央にあるアスタには見覚えのないテーブルの上に置いた。


「疲れてるでしょ?ミルク淹れたから飲みなよ」


「ありがとう。……このテーブルどうしたんだ?」


「今回の魔獣騒動で僕ら学生にも賃金が出たんだ。銀貨十五枚ね。大学も暫く休みだし、アスタがいない間に、このお金使って、色々と新調してみたんだ」


「へえ〜」


 よく見ると、台所には備え付けのヤカンの他にもう一つ、新品のヤカンが増えていたり、ヨハネの掛け布団も新しくなっている。


「………さてと。そろそろ行くか」


 アスタはホットミルクを飲み干すと、マグカップを台所の流し場に置き、外出の準備を始めた。


「何処行くの?」


「サム講師の所。ちょっと課題を出されてたから、提出しにね」


「課題?あったけ?」


「俺とコードだけ。直ぐに戻ってくる」


 制服に着替えたアスタは早速(そそく)さと玄関まで歩き、靴を履いた。


「…行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 この一言ずつの挨拶を交わし、アスタは寮の部屋を出た。


* * * * *


「で?答えは出たのか?」


 場所は変わり、大学の進路指導室でアスタとサムはテーブルを一つ挟み対面している。


「はい。ミカエルから貰ったヒント……お前は間違ってはいなかったで……」


「ほう」


 静かだが、アスタの心の内から沸々と湧き上がる自信があった。


「サム講師の言いたかった事は、本当の意味であの時、あの場所での正解は存在しない。どんな状況でも答えは幾つもあって、その中の一つを後悔のないように選択しろ。と言う意味ですよね?」


 アスタは口角を広げ、これで正解だろと言わんばかりの笑みで答えた。


「……違う」


「──え?」


 しかし、サムからの返答はアスタの思っていた返答とは違った。


「半分は合っているが、お前は問題の根本的な解決法、そして、その大元を見失っている」


「それは、どう言う……」


 言葉が詰まった。喉に痰が絡み付く不快な感じが口一杯に広がる。


「ホーフノー、この課題は再提出。期限は今年いっぱい、進級するまでだ。そして、もしも期限までに答えを出せなかったら……」


 両肩に空気が重くのし掛かる。

 心臓の動きが少し、速くなった気がした。


「此処を退学してもらう」


「退…学…?」


 予想もしなかった発言にアスタは後に出てくる言葉を見失った。


「そうだ。……本当なら、直ぐにでも出てもらっても構わない。期限を延ばしたのは、温情と思え」


「……はい」


 アスタは肩を落とし、誰の目にも分かるように明らかに表情が沈んでいた。


「…そう気を落とすな。ゆっくり考えて答えを見つければいい」


「はい」


 「はい」とは答えても、アスタはサムの言葉を百とは呑み込んではいなかった。


「では、失礼しました」


 そのままアスタは進路指導室を出た。休講中だからか、廊下の灯りは点々としている。特別暗い訳ではないが、心の奥を刺すような感じをこの暗さから、今のアスタには感じられていた。


「……答えって…なんだろう?」


 ──ガラガラガラ


「──!?うおっと…!」


 突然勢いよく、背後の扉が開き、アスタは体勢を崩した。


「ああ、いたのか」


 扉を開けたのは勿論サムである。


「……てて」


「すまん。それと、これを渡しそびれていた」


 サムの手を借り、腰から立ち上がる。その直ぐ後、サムから一枚の封筒を手渡された。


「これは?」


「中を見てみろ」


「……これって……!!」


 封筒の中を除くと、そこには金貨三枚と銀貨が五枚入っていた。


「今回の賃金だ。大事に使えよ」


「はっ、はい!ですが、こんなに…いいんですか?ヨハネが貰ったって言う金額より多い」


「命令違反をしたとは言え、お前は結果を出したんだ。……結果が全てと言う訳ではないが、今回のお前の働きはちゃんと評価はする。それがこの金額だ」


「はい!ありがとうございます!」


 お金と言う物は凄い物だ。明らかに沈んでいたアスタの気分をあっという間に立ち直らせてしまった。


 後日、アスタはこのお金でヨハネと同じように自分好みの毛布やコップの新調、欲しかった本を購入し、久しぶりに心からの喜びを得た。


 ──そして、一時の休みは明ける。

 お疲れ様です。ドル猫です。最新話更新が遅れた上、2ヶ月執筆活動をお休みしました。大変申し訳ございません。これには、色々と理由があります。少し、リアルが忙しくなり、小説を書く時間が殆ど取れなかった事が理由です。3月〜4月も暫くは投稿する期間が空くと思われます。

 最後に、勇者の弟を楽しみに読んでくださっている読者様、これからは最新話の投稿が著しく落ちると思います。ですが、この物語は続きます。どれだけの年月が経とうと、必ず完結させます。なので、これからも応援よろしくお願いします!次話は4月の中旬には投稿します!

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