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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
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第2章 70『激動の東②』

(──狼煙!)


 馬の馬力で平原を駆けていると、コードが進んでいる方向から空に向かって煙が上がっているのが見えた。


(やっぱり魔獣がいるんだ)


 コードは鞘から剣を抜くと、馬の腹を強く蹴り、更に走る速度を加速させた。


(……あれかっ!!)


 狼煙の元へと真っ直ぐに進むと、その近くに無数の魔獣がゾロゾロと王都へ向かっているのを見つけた。


(数は百から二百ってところ……。多分、私じゃ全部は倒せないわね。特に、正面か横に突っ込んでも無駄死にするだけね)


 コードは身体を右に傾け、馬の進行方向を調整した。馬が踏んだ地面に蹄の跡が斜めに付く。


(──だったら狙うのは、後ろ!!)


 円を描くように馬を走らせ、魔獣の群の背中を取った。


「──ふっ」


 そして、ある程度近付いたタイミングで馬から飛び降りると、地面を強く踏み込んで一回転バク宙し体勢を整える。


「はあぁ!!!」


 その勢いを利用し、コードは攻撃の体勢に移る。


 ──闘流・上斬(うわぎ)


 力み過ぎない程度に剣を握る拳に力を入れる。

 右脚でステップを踏み、勢いよく剣を振る。

 ビッグフロッグの体が背中から横に二つに分かれ、内臓や体液が飛び出る。

 この飛び散った体液に触れた魔獣から後ろを向き、次々とコードの存在に気付き始める。


(──くる!!)


 剣を振り抜いた体勢から、剣を振る前の体勢にまで数秒の間で戻すと、次にコードは剣を掴んでいない左手を前に出す。


「──ファイヤランス!!」


 短い詠唱の後、左手から正面三十糎程離れた場所から炎の槍が形成された。

 そして、作り出した炎の槍を、コードに向かって走る一匹の双頭トカゲに放つ。真っ直ぐと飛んだ炎の槍は大して速くもない速度で双頭トカゲの身体を貫く。


「ギエェェェェェ!!?」


 二つの頭が絶叫を上げ、悶え苦しむ。頭は二つでも共有している体は一つ。当然だ。

 だが、そんなのお構いなしに後続の魔獣は屍を乗り越え、コードに迫る。


 ──護流・山刃(ざんじん)


 向かってくる魔獣に対し、コードは脚を止め、護流の剣術でカウンターを喰らわせた。

 美しく振られた剣は先頭の魔獣、翼牛の首を切り落とされる。しかし、倒せたのはたったの一体。翼牛の直ぐ後ろにいたキラーウルフの爪に肩の肉を抉られる。


「……ぐっ!」


 多勢に無勢とはこの事だ。

 どれだけコードが奮闘しようとも戦いは数。最終的には戦局は戦力の数で左右される。


「ガルァァァァァァァァ!!!」


 ──静流・渦流し


 今度は牙でコードの頭を噛み砕こうとしたのか、キラーウルフは跳び上がって、上空から攻撃を仕掛けた。しかし、今度は攻撃を受け流す事に特化した剣術、静流の剣術で攻撃を受け流した上でキラーウルフの尻尾の付け根を切った。


「キャイン!!」


 キラーウルフは今の斬撃による痛みに驚き、子犬のような悲鳴を上げると、怪我した尻尾を気にしながら後ろへ下がった。


「………ふぅぅ〜」


 コードは一度呼吸を整える為に息を強く吐いた。


(………やっぱり、実戦は授業や訓練とは全然違う。相手は人間じゃないのに……命の危機を感じる

 甘く見てた。私なら、魔獣程度、百や二百簡単に倒せると思ってたけど……もう、万全でも無理ね)


 コードは左腕から垂れる血を気にしながら、もう逃げる事を考え始めた。幸いな事にまだ囲まれてはいない為、馬さえ戻ってくれば、此処から脱出する事は可能だ。


「グルララァァァァァ!!!」


 だが、そんな事は仲間をやられたキラーウルフが許さない。


「──ッッ!!」


 魔獣の中でも特に仲間意識の強いキラーウルフは一匹がやられたら、報復は十倍の数で行う習性がある。

 この習性は、魔獣の持っている習性の中でも特に危険で、王国騎士ですら、キラーウルフと戦う時は少なくとも三人で対処する。


(囲まれた)


 一瞬の内にコードを囲んだ十数体のキラーウルフは、右から、左から、上からと多方から攻撃を仕掛ける。

 この攻撃に対し、コードは護流と静流の剣術を駆使して身を守るのがやっとだ。キラーウルフの攻撃が激しすぎて反撃に転じられないのだ。


(こんな傷……!!)


 更に、コードが劣勢となっているのは敵の数が多い所為もあるが、それ以上に最初のキラーウルフに付けられた肩の怪我の痛みでいつもの動きが出来なくなっていた。


「ガァァァァァ!!!」


 ──闘流・上斬り


 もうこれ以上は静流と護流では対処し切れないと感じ、コードは攻撃主体の闘流の構えから上斬りで一匹のキラーウルフの首を切断した。


「──アアッ!!」


 しかし、闘流は攻撃特化の剣術故に、技を放った直後の反動も大きい。その隙を突かれ、コードは右脚の脹脛を爪で引っ掻かれた。


「……コイツら…脚を狙って……!!」


 引っ掻かれた箇所から夥しい量の血が出血する。もうこれでは逃げる事も出来ないだろう。


(もう…駄目ね…。けど……)


 コードは自分勝手な行動をした事でこのような結果になった事に少し後悔していた。元々、目的があってこの単独行動へ移ってはいた。それでも、得られたのは少しの時間と自身の実力のなさだけである。

 そして、死を悟り、コードは運命に身を任せるように瞼を閉じる。



「……………え?」


 いつまで経ってもその時がやってこない。その事を不思議に思い、コードはゆっくりと瞼を開けた。


「……は?」


 コードを目を開けると、その視界に入ってきたのは、先ず胸に氷の槍が突き刺さり、氷像になっているキラーウルフの姿だった。


(なに…これ…?)


 何が起こったのか、何故自分が助かったのかコードはさっぱり分からなかった。


 魔獣達は目を開けていたから何が起こったのか知っているのだろう。それもあり、コードに近寄ろうとする魔獣は一匹もいない。


「………何あれ?」


 肌に触れる空気が冷たくなっている事に気付き、コードは空を見上げた。そこには、フワフワと浮遊している浅葱色(あさぎいろ)に光る球体があった。


(あんなの、さっきまではいなかった……!まさか、アレが私を助けたの!?)


 コードが知る筈もない球体──ビットだ。


「……プハァァ!!ハァ…ハァ……間に合ったか!!」


 魔獣から約二百米程離れた地点、アスタが馬に乗って地面を駆けている。

 アスタはビットと自分の感覚を繋げるバイオロジックモードでビットを動かし、魔法を撃つ事でなんとかコードの危機を救えた。

 バイオロジックモードは普段は絶対に使わないアスタの切り札だ。ビットと五感を繋げる事で連携をより鋭く、そして、より自由に動かせる事が出来る。

 しかし、このバイオロジックモード、切り札と言うだけあって、代償もある。それは感覚を共有した事で起こる吐き気、目眩、そして、精神への大きな負荷である。今回、アスタがバイオロジックモードを使ったのはたったの一分未満だ。それなのにも関わらず、今のアスタの左目はボヤけ、殆ど見えなくなっている。


(目は直ぐに戻るけど、この状態のまま戦闘出来るか?──いや、出来るかじゃないだろ!やるんだ!!)


 左の視界はまだ戻らない。それでも、戻るまでの数十秒、アスタはコードを守る為に戦わなくてはいけない。


(今はアイに警戒して魔獣はまだ襲わないかもしれない。だけど、そうも言ってられる時間はない。バイオロジックモードを使った後だから、もう直ぐ、()()()が消える)


 アスタは護身用の剣を抜かず、無詠唱で脚に強化魔法を掛けた。


「行け!」


 そして、馬から飛び降り、馬の尻を強く叩いた。すると、馬はアスタの意図を理解したのか、魔獣のいる方向とは逆の方向へと逃げ出した。

 馬を見送ると、アスタはコードの元まで急いで駆けつけた。

 魔獣達はまだ動かない。


「コード、大丈夫か!?──ッ!今治癒魔法を…」


「大きなお世話よ。あんたの助けなんて……イタッ!」


「馬鹿言え!死ぬぞ!」


 コードの怪我を見て、アスタは直ぐにでも治癒魔法を掛けようとしたが、コードは助けられるのを嫌ってか、アスタが治癒魔法を使う為に伸ばした右手を払い除けてしまった。

 しかし、そんな強情を張っても、コードだって十三歳の少女である。肩の痛みに、つい反応をしてしまう。


(肩の傷が深い!こっちだけでも直ぐに治さないと)


 コードの肩の傷口が黒ずみ、悪い方向へと化膿しているのは素人目でも分かる。


「ホーフノー!!後ろ!!」


 もう一度、コードに治癒魔法を掛けようとした時、次にアスタの手を止めたのは、拒絶ではなく、第三者からの妨害。──魔獣だ。

 コードが叫んだ次の瞬間には、アスタは後ろを振り向いていた。

 振り向いた先には魔獣の中でも凶暴で、氷属性の魔法も使う、アイスタイガーがアスタに襲い掛かろうとしていた。


 しかし、アイスタイガーの牙が届くより先にアスタの魔法の方が早かった。


 アスタはアイスタイガーを見るや否や、即魔法を発動。使ったのは氷属性の上級魔法『フローズン・シールド』だ。

 無詠唱、モーションは左手を地面に置くだけ。たったそれだけの行動の後、アイスタイガーは氷像に変わっていた。


「…………え?」


「ポシ!!」


 コードが、寒さに耐性のあるアイスタイガーが簡単に氷漬けになって驚いている間にアスタは治癒魔法に特化したビット、ポシを出した後、戦闘体勢を取った。


「コードは動くな!そこでポシの治療を受けろ!」


「う…うん」


 大量の魔獣を前にして、アスタの雰囲気が変わる。

 その雰囲気の変わりようをコードも肌で感じた。


「グ……グラロオオォォォォォ!!!」


 空気が変わり、魔獣達もアスタが危険だと、ここで潰さなくてはいけないと言う本能に駆られた。

 一斉に飛び上がった魔獣達は後ろのコードは無視。アスタ一人目掛けて十数匹でリンチにしてしまおうとアスタとの距離が一米を切る。


 だが、次の瞬間、先に襲いかかった十数匹の魔獣達に訪れた運命はアスタをその手に掛ける手応えではなかった。

 魔獣達を襲ったのは、地面から無数に生えた鋭い氷柱だった。


「ゴッ…ゴアッ……」


 氷柱は魔獣の体を内臓ごと貫き、あっという間にその命を奪った。


(……流石、魔法が得意と言うだけあって、多対一には強いわね。……それにしても、この魔法は一体?氷柱を出したから、『アイシクルランス』なんだろうけど、こんな使い方をするなんて……。中級の魔法にしても、威力だって高いし。

 それに、魔法使いや魔導士って、基本、後方からの援護をメインに戦うんじゃなかったけ?…それをせずに前に出て戦ってると言う事は、彼奴、まさか魔法のコントロールがまだ上手くない……もしくは、一人でもこの数を殲滅出来るから私の回復を待たずに前に出たの!?)


 コードがポシの治療を受けている間、アスタは最初に魔法を出した場所から大きくは動かず、中級の魔法を交互に出して魔獣達と戦っている。


(……悔しいけど、凄い。一度に六体は同時に相手にしてる。でも、どうして?どうしてあんなに戦えるのよ。私と歳の差もないのに…どうして?────!!!)


 アスタの戦い方はどう見ても、素人とは思えない、考えられた戦い方だった。それもその筈。魔獣との戦闘は故郷(ボルスピ)で嫌と言う程行ってきた。今更、たかが魔獣に負けたりはしない。なのだが、アスタの左、拳を振り上げ、今にもアスタを潰そうとする一匹のサイクロプスがいた。しかし、何故かアスタはそれに気付いていない。


「危ないッッ!!」


「──おっ!」


 サイクロプスの渾身のストレートが空を切る。アスタはコードに押し倒される形で間一髪助けられた。


「……サイクロプス。気付かなかった」


「バカ!!何が動くなよ!!私が助けなかったら死んでたじゃ………あんた、左目……」


「……え?ああ、まだ戻ってないのか」


 まだアスタの左目の視界はボヤけている。戦闘開始直後よりかは見えてはきているが、このままだと、今のように戦闘に支障をきたすだろう。


「……しょうがないわね。私があんたの左目になってやるわ」


「怪我は大丈夫なのか?」


「後ろは任せたわよ!!」


 コードはアスタの質問に答える事なく、戦闘の構えへと移った。


「ブルルァァ!!」


 そんな中、先程攻撃をスカしたサイクロプスは怒り狂い、コードに拳を向ける。


 ──静流・渦流し


 コードは静流の剣術でサイクロプスのパンチを鰻の滑りのように受け流した。このような重い攻撃に対しては護流の剣術で受け止めるより、一度受け流してしまう方がいい。

 攻撃を受け流された事により、サイクロプスは巨体のバランスを崩し、地面に膝をつく。

 そして、隙だらけになったサイクロプスの体にアスタが土属性の魔法『ストーンキャノン』で止めを刺す。

 三発の鋭い岩がサイクロプスの体に突き刺さると、サイクロプスは白目を向いて倒れた。


「中々やるじゃない。サイクロプスをこんな簡単に倒すなんて」


「そっちこそ。あの重い攻撃を難なく受け流すなんて……やっぱり剣では敵わないな」


「お世辞はいらないわ」


 心なしか、アスタもコードも一人で戦っていた時より楽に戦っているように見える。


(なに…?この感じ?)


(コードと一緒に戦っていると安心感がある。これは……兄さんと一緒に戦った時と同じ……)


 アスタは魔法で、コードは剣術でお互いの弱点をカバーし合いながら、二人三脚での戦い。この場合、普通なら一人一人の負担が増え、戦いが不利に進む事すらある。だが、今二人が感じているのは不安ではなく安心だ。


「囲まれたか…コード、まだいけるか!?」


「当たり前よ!」


 押しているのはアスタとコードの筈だが、やはり、数の暴力には防戦一方となるしかなく、気付いた時には二人は背中合わせになっていた。


「……でも、これはちょっとキツいわね」


「ああ」


 複数の魔獣に三百六十度囲まれてしまったこの状況、普段のアスタなら、星級の魔法でこの大群を一掃出来るが、今は隣にコードがいる。高威力且つ、広範囲を攻撃する星級の魔法を此処で使ってしまうと、間違いなくコードも巻き込まれる。


「どうする?」


「……………」


 二人を囲んでいる魔獣達は一定の距離を離し、いつ一斉に襲い掛かろうか機会を伺っている。

 アスタはこの魔獣達が間違いなく次の攻防の間に本気で命を取りにくると肌で感じていた。なので、ビットのウイとサラを出し、いつ何があってもいいように警戒を強めている。


「一応、打開策はある。……けどそれはお前も巻き込む事になるから、あんまり使いたくはない」


「……そう」


 コードの頭の中にも、最終手段としてアスタの星級魔法があった。


「………私にも、博打だけど、考えがあるって言ったら?」


「あるなら教えてくれ」


「ええ。………!!」


 コードがアスタにその考えを喋るより先に魔獣が動いたのが速かった。

 先程より激しさを増す攻撃の数々を前にコードは考えを喋れずにいた。一応、アスタのビットの援護もあり、最初よりかは楽に戦えているが、これ以上の数に襲われれば、最早命はない。それはコードだって分かっている。だから──


「ホーフノー!!正面に魔法を撃ちなさい!!」


「なんでだっ!?」


「説明している暇はない。私が合わせるから、あんたは全力で魔法を撃つ事だけ考えて!」


「分かった!」


 アスタは両手を前に出し、掌に魔力を溜め始める。

 魔力を溜め始めると、アスタは腕を胸の前でクロスさせる。それと同時に周囲の空気も震え出す。


「『バーニングスクリュー!!』」


 そして、短い詠唱の後、アスタが放ったのは、火属性の上級魔法、バーニングスクリューだ。


 風を切るように両腕を広げて発生させたこの炎の渦は、一度遥か上空まで上がると、先端を突撃槍のように変化させ、一気に地上へと降下して、敵に攻撃を行う。その威力は中級魔法のサラマンダーやファイヤランスの比ではない。


 アスタは、授業でもコードが火属性の魔法を使っていた事から、火属性の魔法ならコードもタイミングが合うだろうと思い、コードを巻き込まず、それでいて高威力、そして、発動までの長いラグで感覚を空けられるバーニングスクリューを、合わせやすいよう敢えて詠唱ありで放ったのだ。


(…………ん?なんでだ?)


 バーニングスクリューが地上の敵を攻撃するまで、詠唱を発動させてから、約五秒間の猶予がある。


「きた」


 コードは、その間に炎の渦が落ちてくる場所を予測し、そこで静流の構えを取る。


「ハアァァァァァ!!!」


 ──静流・渦流し


 そして、炎の渦が落ちてくると同時に、コードは渦流しでバーニングスクリューに逆回転の回転を加えた。

 そうする事で二つの回転の力が反発。強い衝撃を生む事になる。


「──ッ!!キャアアアァァァァァァ!!!」


「コード!!」


 その為、渦から一番近かったコードは、モロにその衝撃を受けてしまった。

 結果として、コードは周囲にいた二十匹程の魔獣と共に弾き飛ばされてしまった。


「ウイ!!」


 ところが、間一髪のところでアスタは風属性のビット、ウイをコードの真下まで飛ばし、ウイが放った風で、どうにか落下の衝撃を弱める事が出来た。


「う………」


「コード!!」


 バーニングスクリューが消え、後に残ったのは四十匹前後の数の魔獣だ。包囲網ももう崩れている。アスタは、急いでコードの元まで駆け寄った。


「おい、大丈夫か?………はっ!お前、血が……」


 コードの肩からまた、血が流れている。それも、切り傷。今付いたものではない。


「まさか、治療の途中で………」


 この傷はアスタが駆けつける前にキラーウルフに付けられたものだ。アスタは、コードがアスタを守る為にポシの治癒魔法を中断してまで、無理して守りに来てくれたのだと、そして、その無理した状態のまま、バーニングスクリューに剣を合わせてしまい、その反動にコードの身体が耐えきれなかったと言う事。この全てが重なった結果、完治していない傷が開き、出血を起こしたと言う事に気が付いた。


「バカやろう……。なんでそんな事を……『ヒーリング』」


「グオオオオオオオ!!!」


 アスタが初級の治癒魔法でコードの傷を治そうとした時、背後から鳴き声と共に魔獣がアスタに襲い掛かろうとしている。


(しまった!!)


 コードの治療に専念している今、他の攻撃する為の魔法は出せない。いや、正しくは出せない事はない。ここで他のビットに自身を守るよう命じれば、治療が終わるまではビットがアスタとコードを守ってくれるだろう。しかし、今、アスタがビットに命じているのはコードの援護だ。この一瞬の内に命令の書き換えは出来ない。


(──────死)


 死を覚悟した。

 普段なら何のピンチでもないこの状況、もっと冷静に考えれば、ここを切り抜く方法など幾らでもある。それなのに、アスタはコードに覆い被さるように態勢を変えた。男として、女を守る為に。


「……よく持ち堪えたっすね」


 その時、三つの影が現れると同時に魔獣の存在が消滅した。


「……あ」


「後は、任せてほしいっす」

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