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勇者の弟  作者: ドル猫
第2章『アインリッヒ大学編』
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第2章 69『激動の東』

 王都の南南東、ゼーヒャ街道から約一粁離れた位置で王国騎士第十師団とアインリッヒ大学の一年生達は待機していた。


「静かだな」


「──っすね。偵察兵の話だと、西でも一万の魔獣が出たのに……私が敵の立場なら、物流を断つ為に此処かルーフを狙うのに。敵は短期決戦を望んでるんすかね?」


「分からない。東にいる筈のヘルドからも連絡が来ないし、団長からもまだ何の指示もない。まだ敵は動いてないのか?」


 隊長のデネブと副隊長のティポンは激化しているであろう戦場を気にしつつ、生徒を任された身として、強く責任感を持ち、生徒を守れる陣形を組んでいる。


 今回の第十師団の役割は予備兵。人数が足りない戦場に赴き、戦況を変える大事な役割を任されている。だが、その役割とは裏腹に生徒のお()りを任され、あわよくば戦闘を経験させろと命令された。


(騎士科とは言え、一年生だぞ。ある程度は戦えるだろうが、もしもの時は守ってはやれない)


 この時、北門前の戦場では、ルケラ大隊が壊滅的被害を受け、前線の一部が崩壊。その報告をイオから聞いていたヘリオスは第十師団に援軍を至急要請しようとしていた。

 だが、繋がらない。ダイアミラーの故障と言う線もあったが、ルナが調べた所、故障はしていないとの事。

 すると、この時、第十師団が援軍に行けなかった理由は一つ。時を同じくして、第十師団も人数を減らさなければならない状況に陥ったと考えられる。


「デネブ隊長!!」


 南から早馬で一人の男が駆けてくる。偵察兵だ。


「どうした?」


「南西より、魔獣多数襲来!その数二百!!」


「対応に当たっているのは?」


「……誰も…」


 偵察兵が顔を顰めた事で誰も二百体の魔獣と戦っているのはいない、もしくは全滅したと捉えられる。


「よく知らせてくれたっす。ニーナ、ギリアス、ゴッグ!私と一緒に……」


「駄目だッ!!」


 ティポンは偵察兵に労いの言葉を送ると、三人の騎士と共に直様戦場へ向かおうとしたが、既に馬に乗ったデネブに止められる。


「隊長…」


「今ここで人数を減らす訳にはいかない。俺一人で行く!隊の指揮はティポンに任せる!」


 デネブはそう言うと、ティポンの返事を聞かず、馬で草原の中を駆けて行った。


「りょ…了解っす」


「隊長一人で行ったの!?」


「一人じゃ無茶だ!俺もッ!」


「今はこっちも人数が必要っす!!……隊長を信じるしかないっす。あの人は、王国騎士団の中でも指折りの実力者……。私には、あの人が負ける姿が想像できないっす」


△▼△▼


「ハァ…ハァ………今ので全部か」


 ゼーヒャ街道から遠く離れたアークトゥルス山脈の山中、報告にあった二百体の魔獣を全て倒し、デネブは魔獣の体液で濡れた剣を吹く。


(……すまない。もう少し早く来てれば)


 デネブは剣を鞘の中にしまうと、道中、デネブより先に魔獣と戦って殉職してしまったであろう、片腕がない屍を前に手を合わせた。


「安らかに眠れ。──ファイヤボール」


 炎が死体を包み、肉を焼く匂いが辺りに漂う。

 後に残ったのは骨だけだ。


「さて、俺も戻るか………ん?」


 仲間の元に戻る為に馬を呼ぼうとした瞬間、山の木々が生い茂る隙間から微弱ながら魔力の動きを肌で感知した。


(まだいたか)


 仕留め切れていない魔獣がまだいるのかと思い、デネブは姿勢を低くした。


「『ディスフェアッシュ』」


 そして、影属性の中級魔法を使い、木陰に姿を隠した。


(これ以上進めば、陽光に当たるか)


 影属性の魔法は影になっている所、もしくは夜でしか使えない。デネブが魔力を感知した場所は木と木の合間に陽光が漏れていた為、今いる場所からは動けない。だが、相手の姿は観察出来る距離だ。


(あれはッ……!!)


 デネブの視線の先、目を疑いたくなるような光景がそこにはあった。

 二足歩行の灰色の身体に、肩に彫られている紫色の三日月の紋様、そして、蝙蝠のような翼。こんな特徴を持つ生き物は一種類しかない。


(間違いない。──魔人だ)


 しかも、運が悪い事に魔人の正面には年端もいかない人間の少女が立っている。


「────ッッ!!!」


 目の前に助けられる命がある。そう思った時にはデネブの脚は考えるより先に動き始めていた。


「──え?んなっ!!」


「!?」


「──ハァァ!!!」


 接近。そして、少女に当たらないよう放たれた魔人に向けた斜めの薙ぎが魔人な左翼を切断する。肩から腹部に掛けて狙った斬撃だったが、間一髪で避けられてしまった。しかし、魔人を少女から離す事は出来た。


「なっ!?……くっ、どうして騎士がこんな所に!?」


「君、大丈夫か?ここは危ないから、後ろに下がってるんだ!」


「う…うん」


 少女は何やら困惑している表情だ。助かったと安堵している顔でも、恐怖からの泣き顔でもない。だが、その事にデネブは気付いていない。


「魔人よ、覚悟しろ!いたいけな少女を誘拐し、弄ぼうとした罪をその命で償ってもらう!!」


「ひっ──、駄目だ!飛べない!」


「喰らえぇぇぇぇ!!」


 飛んで逃げようとする魔人に炎を纏った剣が迫る。


「『イグナイト・ブレイド!!』」


「ギャアァァァァァァ!!!」


 魔人の断末魔が木霊した。

 炎を纏った斬撃は今度こそ、魔人の身体を捉えた。横一文字に振られた剣を前に魔人は反撃する暇すら与えられず、胴を両断された。


「ふ〜」


 剣先から炎が消えると、デネブは鞘の中に剣をしまった。


「……怪我はないかい?」


「えっ……うん……」


 デネブは少女を怖がらせないよう笑顔で近付くと、同じ目線にする為にしゃがんだ。


「……近くの村の子かい?」


「えっと……、私は、山に住んでて……」


「そうか。それで……。此処は危険だ。おじさんと一緒にちょっとの間だけ、山を下りようか」


「うん」


 デネブは右手を出し、それに少女が掌を重ねると、優しい力で握った。


(よかった。助けられて)


「……………」


「そういえば…パパとママはどうしたんだい?」


「……パパもママもいない」


「……!!そうか」


「でも、お姉ちゃんいるよ!」


「お姉ちゃん?」


「うん!……今は遠くでお仕事してるけど、一緒に遊んでくれる優しいお姉ちゃんだよ!この髪飾りもね、お姉ちゃんがくれたの!」


 少女は自慢げに髪を止めてる紫色の花が装飾された髪留めを指差した。


「そうか。いいお姉ちゃんなんだね」


「うん!」


 そんな会話をしている内に山の斜面を下り終え、デネブは乗ってきた馬の前で立ち止まった。


(この子を此処まで連れて来たはいいけど、どうするか……。俺と一緒にいた方が安全か?いや、それとも一度本部に戻って団長に保護してもらうか……)


「……?」


「………ん?」


 馬の足音が聞こえ、その方向に視線を移すと、そこには馬に乗り、偵察の任に当たっている二人の衛兵が此方へと近付いて来るのが見えた。


「…お──い!!」


「……おっ」


 デネブの呼び声が聞こえると、衛兵は手綱を強く引き、ゆっくりとした速度まで落とした。


「デネブ隊長。どうしました?」


「すまないが、この子を保護してくれないか」


「分かりました。此処から西に行った所に避難場所となってる村がありますので、そこに連れていきます」


「うむ。頼んだぞ」


「任せてください。……さっ、君、こっちにおいで」


「うん……」


「お馬さんから落とされないよう、僕の身体をしっかり掴んでるんだよ」


 衛兵は、少女をもう一人の衛兵が乗っている馬に乗せた。


「グルルオオオオオオオオ!!!」


「──!!」


 その直後であった。山の中から獣の雄叫びが響き渡ったのは。


「今のは……」


「道中は気を付けろ。魔人がいるかもしれん」


「魔人!?」


「さっき、その子が魔人に襲われていた。間一髪、助けられたがな」


「……分かりました。遠回りになるが、迂回して村に行こう」


「ああ」


 魔人がこの付近にもいるかもしれないと言う事を頭に入れ、衛兵二人はこの場を去った。


「さてと、もう一仕事だ」


 デネブは少女に手を振って見送ると、再び表情を険しくし、山へと身体を向けた。


△▼△▼


「ねえ、一体何が起きてるの?私達は戦う必要、ないんだよね?」


「分からない。どうやら、隊長さんも抜けちゃったみたいだし、もう予定通りとはいかないよ」


 第十師団に囲まれて待機しているアスタ達一年生、彼らに与えられた仕事は戦いの見学。騎士がこのような緊急事態でどのように動くのかを見ておけと、サムからの課題だ。

 しかし、幾ら貴重な経験が出来るからと言っても、此処はいつ魔獣が襲ってきても可笑しくない場所だ。不安で心臓の動きが早くなっている生徒も一定数いる。


 そんな中、馬の管理を任され、牽引しているアスタ、コード、ミカエルは他の生徒達よりも前の位置で待機していた。


「ねえ」


「──ん?」


「他の奴より戦闘経験がありそうなあんただから聞くけど、もしあんたが敵──、魔獣側の立場だと考えるなら、今回の敵の目的はなんだと思う?」


 ふと、コードが突拍子もなく突然話題を振った。


「………敵?」


「そう。だって、百や二百じゃ済まない数の魔獣が一斉に王都に攻め込もうとしてるのよ。普通じゃありえないわ」


「つまり、コードさんはこの戦いは何者かが裏で操ってるって言いたいの?」


「ええ、そうよ。……それと、コードさんって言うのはいい加減辞めて。コードでいいわ」


 入学当初から、アスタは講師、先輩、女子にはさん付けで呼んでいる。それをコードは気に入らなかったのか、呼び捨てにするよう促した。


「………ごめん。じゃあ、コード」


「なに?」


「結論から言うと、俺も敵の目的は分からない。もしかすれば、魔獣だって突然徒党を組んで戦う事もあるかもしれないし、コードが言ったように、何者かが裏でこの戦いを操っているのかもしれない。考えれば考える程、凡ゆる可能性が出てくるんだ」


「別にそれでいいわよ。私は、あんたがもしも敵の立場ならどう動くのかって、意見を求めているの。大体、敵の目的なんて、私達に分かる訳ないじゃない」


「そうか……。じゃあ言うけど、もしも俺が敵なら、王都を直接は狙わないかな」


「それは…なんで?」


「だって、王都だよ。人間にとっては失ってはいけない象徴的な場所だ。例え戦力が少ない日に敵の襲撃があっても、援軍は船でも馬でも使って、幾らでも持ってこれる。王都が襲われたとなれば、皆、死に物狂いでやって来るだろうからね」


「じゃあ、それを踏まえて、何を狙う?」


「………そうなると、北門への群勢は囮。真に狙うのは……その真逆、防御が一番手薄になるルーフ……」


「そうよね。やっぱり、あんたもそう考えるわよね」


「どう言う意味?」


「考えが私と同じだったって事。私だって、敵ならルーフ……もしくは最南の都市ワームを狙うわ」


「でも、今回の敵の目的はそれじゃない」


「ええ、ワームにも王国騎士は在中してるだろうし、もしかしたら、向こうも何か予定が狂ったのかも」


「……狂った…か…」


「ねえ、二人共何の話をしてるんだ?」


 近くにいながら会話に入れなかったミカエルが、アスタとコードの真剣な表情を見て、自分も会話に入るべきか迷っていたが、盗み聞きするよりかはマシかと思い、声を掛けたのだ。


「ああ……」


「自分達が敵なら何処を攻撃するか話してたのよ」


 この会話の内容だ。アスタは、これを正直に話すべきか迷っていた。しかし、アスタが開けた一瞬の間にコードが会話の内容を伝えた。


「そう…なんだ」


 思っていた会話の内容と違かったのか、ミカエルは無理矢理苦笑いを作る。


「それで、何の用よ」


「ああ、そうだ。忘れる所だった?」


「──え?」


 ミカエルは話があるとは一言も言っていない。それなのに、コードはミカエルが近付いただけで何か話があるのだと気付いている。


(凄い観察眼だな……)


「実は、遠くから足音が聞こえるんだ」


「足音?」


「うん」


「どんなのよ」


「……色々。大きい音、小さい音が不規則に鳴っているんだ」


 試しに、アスタもコードも耳を澄まして、その音を聞き分けようとするが、そんな音は全くと言っていい程聞こえない。それは二人だけでなく、騎士達も同じのようだ。


「…………そんな音聞こえないが…」


「待って。…ねえ、確かあんたって狩人なのよね?」


「うん?…ああ、父親がそうだったから、俺も狩りをしていたけど…それが何?」


「他の人よりも物音に敏感?」


「──え?何の話だ?」


「あんたは黙ってて!」


 いきなり話題が変わり、アスタが何の話かと質問するが、コードは一喝でアスタの質問を突き放した。


「………まあ、ずっと森で魔獣狩ってたし、生き物の足音には敏感…かな」


「拙いわね」


 コードは奥歯を強く噛み締めると、持っていた馬の手綱を強く引いて、馬に飛び乗った。


「えっ!?」


 突然の行動に、アスタとミカエルは唖然とするしかなかった。

 そして、そんなアスタ達を気にする様子もなく、コードは騎士達の横を馬で突っ切って行った。

 その一人の脱走に騎士達が気付いたのは、馬が通り過ぎて、一秒後だった。


「……は?おい!!何処に行くんだ!?」


「………ん?」


 騒ぎを聞きつけ、仲間と共に地図の確認をしていたティポンがアスタ達のいる方向を向いた。


「何があったんすか?」


「脱走だ!生徒の一人が馬に乗って脱走した!!」


「はああ!?」


 予想外過ぎる出来事にティポンは高音の声をつい出してしまった。

 コードが脱走した理由など、一人を除いて、誰も知る筈がない。


「……なあ、ミカエル、さっきの足音ってなんだ?」


「分からない。気のせいかもしれないけど、遠くで不規則な足音が聞こえたんだ。大きいのもあれば、小さいのも……」


「………?」


「多分、あの足音は……魔獣」


「──!!」


「確定とは言えない!けど、あの足音は森の中で何度も聞いているんだ」


 ミカエルからの返事を聞いて漸く、アスタはコードが何で脱走と言う行動に出たのか、察しが付いた。


「──ッッ!!」


 もし、ミカエルの予想が当たっているのなら、コードを一人には出来ない。そう思ったアスタは、気付けば馬の上にいた。


「ちょっ、アスタまで!」


「連れ戻して来る!!」


 馬の手綱を強く引く。

 馬の鳴き声が一つ響くと同時に、コードと同じ方向へ駆け出す。


「──おい!待て!」


「彼女を連れ戻して来ます!直ぐに戻りますので!」


「単独行動は危険だ!!今直ぐ戻れ!!」


 アスタに騎士の忠告は聞こえていたが、そんなのお構い無しにコードが進んだ道なき道を追う。


「──アアッ!ティポン!!もう一人脱走したぞ!!」


「はああぁぁ!?なんすか?そんなに私嫌われてるんすか!?」


「………?おい、ティポン」


「今度は何すか!?今それどころじゃ……」


 顔を真っ赤にして怒るティポンに騎士のギリアスが肩を叩いた。


「あれ見ろ」


「……うん?」


 ギリアスとティポン、それだけじゃない。第十師団の半分も同じ方向を見て、言葉に詰まった。


「……狼煙?あれって……」


 その狼煙の意味が分かっていなかったのは生徒達だけだった。


「あの方向……脱走した二人が向かった方向と一緒っすね。……はあ、ギリアス、ニーナ!!」


「もう準備は出来てる。いつでも出れる」


 北東の空に上がった狼煙、それは、緊急事態を知らせる為のものだ。おそらく、口頭伝達では間に合わないと判断した偵察兵が上げたものだろう。


「よし、隊の指揮はゴッグとレイナに任せるっす!」


「了解!」


 遂に、東の戦場も動き始めた。最も、東には最強の騎士ヘルドが配置されているので、万一の事態もないだろうが、緊急事態の狼煙が上がったと言う事は彼でも対処し切れなかった敵、もしくは手が回せない程の数がいたのだと思われる。

 その事を理解しているからこそ、ティポンは自分『専用装備』の鞭を持ち、この戦いで死ぬ覚悟を持って馬に乗った。


「さあ、行くっすよ」


△▼△▼


「おい、聞いていた話と違うぞ」


 アークトゥルス山脈の山中、七合目付近の岩山でデネブは東に配置された筈のヘルドとばったり出会していた。


「お前、東にいたんじゃないのか?」


「……怖いなぁ。そんな怒らないでください。確かに、僕は団長の命令を無視して此処にいますが、ちゃんと理由があるんですよ。この戦いを仕組んだであろう魔人を探すと言う理由が」


 ヘルドのあっけらかんとした態度にデネブは剣を収めずにヘルドの胸ぐらを掴んだ。


「………仕組んだ?……いや、今はそんな事より、今東にいるのは誰なんだ?お前以外の誰が……」


 東に残したのは自分の部下と生徒達だ。デネブはヘルドの実力を認めているからこそ、万が一もないだろうと思い、戦場を離れたのだ。


 その信頼が勝手に裏切られた気分だ。


「第十三師団」


「──!!なにっ!?まさか、あいつらがっ!?」


 第十三師団。この言葉を聞いた瞬間、デネブはヘルドの胸ぐら掴んでいた左手を咄嗟に離してしまった。


「本当ですよ。彼らとヴァルゴさん以外に、誰に僕の戦場を任せられると思うんですか?」


「──くっ!!」


 嫌な予感を感じたデネブは直ぐにでも下山しようと下を向く。しかし、


「………なっ!?」


 立っている岩山の下から見える範囲に、数にして凡そ三百もの魔獣が岩の影、木の影、茂みの中に潜んでいるのが見えた。


「これはっ……この数は……!!」


「なにも可笑しい事じゃありません。孤立している者を優先的に狙う魔獣の習性ですよ。今此処にいる獲物はデネブさんと僕……。彼らに餌の標的とされたんでしょう」


「………ヘルド、俺は此処に来るまでに何百体も魔獣を斬ったぞ。それなのに、未だにこの数がいるのは……まだこの戦いを仕組んだ奴は倒せていないのか?」


「…………ええ、おそらくは」


 ヘルドも腰の鞘から剣をぬき、戦う姿勢を見せる。


(ヘルドの言っている事が本当であるのならば、あの時に斬った魔人は魔獣使いじゃなかったって事だ。じゃあ、本物は最前戦の北にいるのか?

 いや、いないな。戦いの命運を握る要人を前線に置く訳がない。だとすると、やはり西か東……だが、西も北と同じくらい戦闘が激化していると聞いているし、ヘルドが此処にいると言う事は東にもいないのだろう。だとすれば、この戦いを裏で操っている者は南にいる。

 そして、この魔獣達は……南の…おそらくルーフに奇襲を仕掛ける為の群なのだろう)


 どちらにせよ、戦うしかない。そう思ったデネブはヘルドの方へ目線を向けた。


「……すまなかったな。お前はこれを止める為に東の戦場を離れたんだな」


「……そうですよ。誰かが此処で奴らを倒さないと、王都は守れても、兵が全くいないルーフや近辺の村々は守れません。ここが正念場です」


「ああ」


 デネブの剣が赤く光る。それを確認した魔獣達は自分達が隠れているのがバレているのだと気付き、ゾロゾロと隠れるのを辞めて、戦闘態勢に入る。


 しかし、この時、デネブもヘルドも知らなかった。既にとある場所では最悪の状況が起こり、手遅れになってしまっている事に。

 最後まで読んで頂きありがとうございます。


 今回は久しぶりに主人公のアスタ達に焦点を当てたお話になりました。今話に続き、次話もアスタ、コード、そして第十師団がメインのお話になります。


 最後によろしければ、ブックマーク登録と感想を頂けると幸いです。

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