さっさと執筆しないと謎のキチガイ美少女が怒鳴ってくる
「ふへぇ、やっと終わったぁ」
今は金曜日の午後6時3分。午前8時半から午後5時半の仕事を5日連続で頑張った。明日と明後日は待ちに待った休日である。
「この土日は絶対にたくさん執筆するぞぉ!」
僕は【小説家になろう】で連載小説を執筆しているのだが、1ヶ月前に作り始めたのに、まだ1話すら投稿できていない。原因ははっきりしている。僕が執筆に時間をあまり使わずに、動画を見たり、ゲームをしたり、爆睡したりしているからだ。ちょっと執筆したらすぐ違う事をしてしまうのだ。
連載小説を作った時から毎週金曜日は必ず(この土日はたくさん執筆するぞ)と考えていたが、決まってほとんど執筆しないまま月曜日の朝になって酷く後悔してしまう。今回こそはと思っても結局同じ結果になってしまうのだ。
……今回は絶対に! 絶対に執筆する! 他の事に時間をあまり使わずに執筆する! 特に爆睡しないように布団にはこもらない!
僕はそう決意した。
その後、風呂に入って、それから晩御飯を食べた。トイレをすませて、歯磨きをしてから、手を洗って部屋に戻った。
「よし! 始めるか!」
まだ金曜日の午後8時7分だが、執筆を始めることにした。明日は休日なので、夜更かししても大丈夫という事でたくさん執筆できるはずだ。明日が仕事の日は夜更かしができないため、あまり執筆できない(日曜日は夜更かしできないが寝る時間までにある程度執筆できる)。
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「ん? ……あっ!」
僕はいつの間にか寝てしまっていた。時間は土曜日の午前0時0分だ。
……爆睡しないように布団にはこもらないって決意したのにもう布団で爆睡してた…。4時間弱のタイムロスだ!
「……まだ大丈夫か。ちょっとゲ――」
「はぁ!!? 待って執筆してないのにゲームか!!? 執筆しろ!!」
「ん!?」
声が聞こえた方向に向くと、そこには超絶可愛い美少女が僕の椅子に足を組んで座っていた。
超絶可愛い美少女の見た目は、【かぐや姫】を思わせるようなさらさらの長い黒髪、あまりにも整いすぎている可愛すぎる顔立ち、かなり高そうな着物を着ている。あと、肌の色がかなり淡白だ。
……なんだこの子。凄く可愛いけど、誰なのかわからないなぁ。
「あのぉ、誰で――」
「私の事よりも執筆しろぉ!! ほら早く!! さっさと!!」
「いやでも名ま――」
「無駄口開くな!! 執筆が先!! さっさとしろ!!」
なんなんだこの子は! 見た目は凄く良いのに喋り方は荒いなぁ。……そんな事よりちょっとジュース飲むか。
「おぉっ!!? 逃げるのか!!? 執筆せずに逃げるのかぁ!!?」
「違う! ジュースを飲みに行――」
「ジュースを飲むよりし・っ・ぴ・つ!!」
「喉が乾い――」
「てめぇの喉の乾きなんかどうでもいい!! 何よりも執筆が先!! 読者様はてめぇの事なんかこれっぽっちも興味無いの!!」
この子僕の発言を必ず遮ってくるなぁ。……どれだけ怒鳴られようが罵られようが、僕はジュースを飲む!
僕はドアのドアノブを掴んだ。が……
「あれ!? 開かな――」
「逃げられませんでしたぁ!! ざまぁみろバーカ!!」
「……執筆しないと出られな――」
「てめぇのためだ!! 執筆が全然できないてめぇのためだ!! この時間をしっかり使って執筆しろ!!」
「こんな事されても集ちゅ――」
「1ヶ月経っても完成させないてめぇが悪いんだ!! たった1話に何ヵ月かけるつもりなんだ!!?」
おう…。そう言われたら何も言い返せないなぁ。……まぁ僕はこの土日にいっぱい執筆するって決めてたし、とりあえず執筆するかぁ。……この子なんで1ヶ月経っても完成してないこと知ってるんだろ…。
僕はスマートフォンを持って、執筆を始めた。
「遅い!! こののろま!!」
「僕はいつもこのスピードなんだ!」
僕は他の作者達よりも執筆速度が遅い。じっくりと考えてしまうので仕方がないのだ。
「文字消すな!! ただでさえ遅いのに!! 何がしたいんだてめぇはぁ!!?」
「この展開はなんか違うん――」
「知らん!! てめぇの小説にははなっから期待してねぇ!!」
「ならいちいち文句言わないでよ!」
この子マジでうるさい! 僕は誰かにあぁだこぉだ言われるより静かに執筆する方が良いんだ! ……まぁ、それがちょっとした休憩中に爆睡する原因になるんだけど…。
「遅い・のろま・グズグズグズ!! 遅い・のろま・グズグズグズ!! 遅い・のろま・グズグズグズ!! 遅い・のろま・グズグズグズ!! 遅い・のろま・グズグズグズ!!」
僕が内容を考えて執筆している時、この子は「遅い・のろま・グズグズグズ!!」を連呼している。これは本当にうるさい。全然集中できない。
なんとか1000文字執筆できた。ちょっと休憩したいなぁ。でもこの子がいると休憩できないだろうなぁ…。
「あのぉ、ちょっと休け――」
「休憩!!? そんな事よりも執筆だ!! 休憩がしたいとか何考えてんだてめぇ!!」
やっぱりダメでしたぁ。この子が認めない限り部屋からは出られなさそうだ。1話を執筆できたら、出してくれるかな?
「遅い・のろま・グズグズグズ!!」という嫌な気しかしない言葉をリズミカルに連呼するこの子。マジで勘弁してほしいが他の事をしてしまうのを妨害してくれるという利点も一応ある。
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4時間以上、非情な罵声や怒声を浴び続けながらも、僕は9000文字執筆した。これで完成である。
「やったぁぁぁ!! これでやっ――」
「はぁっ!!? バーカ!! さっさと2話書けこのグズ!!」
「……え? いやいや! やっと終わったんだよ!? 少し休け――」
「対してできもしないゲームか!!? しょうもない妄想か!!? くだらない爆睡か!!? それとも股間にある汚いもんで快楽でも味わうんか!!? あぁっ!!? ふざけんじゃねぇ!! とっとと執筆しろ!! 遅い・のろま・グズグズグズ!!」
もう嫌だぁぁぁぁぁ!!
僕は美少女に近づいた。すると、美少女に触れる手前で見えない何かに当たって僕は気絶した。
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「……ん?」
僕は目が覚めた。時間は……金曜日の7時23分。
「えぇっ!?」
……今のは…夢? てことはまさか!!?
僕は小説を確認した。1話は……全然出来ていなかった。
「……あんなに罵声や怒声を浴び続けて作ったのにそれはただの夢でした……」
凄くガックリきた。
なんかしばらくは執筆する気になれなさそうだ。そもそもあそこまで可愛い美少女はこの世界にはいるはずもなかった。なんで気づかなかった。なんでさっさと僕の頬をつねらなかったんだ…。本当に僕は馬鹿だ…。
1話の執筆が終わったのは半年経った時だった。
自分はこれを執筆し終わるのに1週間程度かかってしまいました。この程度の物は1日で仕上げるべきです。