文化祭のはじまり
父に感謝の言を述べたあと、俺は勉強に徹することにした。
今日は平日だし、本当は学校に行くべきなんだけどな。
なんとなく登校する気分じゃなかった。香苗もそれがわかっているからか、これについてなにも言ってこなかった。
レオの一件はひとまず落ち着いた。
――俺の人生をやり直し、由美を暗い未来から救い出す――
この本題に立ち直るときだろう。
大事なのはまず勉強だ。
由美と同じ大学に行けなくては、彼女を救うことが格段に難しくなる。いったん落ち着いたからこそ、力を入れていかなくては。
俺は腕まくりすると、いままで以上の集中力で勉学に取り組むのだった。
★
それからの日々は勉強づけだった。
本当は塾に行くのがいいんだろうが、金銭的にそれは難しいからな。ネットで調べてみると、学生の通塾率はめちゃくちゃ高い。ほぼ7割だからな。
けど、かといって諦めることはない。
難しいことに挑戦しているからこそ、人の何倍以上に努力する必要がある。それは嫌というほど痛感しているからな。あとはそれを実践するときだ。
前までの俺なら、こんな努力できるはずもない。
けど、いまは大事な人がそばにいる。それが大きな原動力に繋がっていた。
そのようにして、俺は怒濤の日々を過ごしていった。
あるときは、クラスメイトと他愛もない時間を過ごして。
あるときは、由美と一緒に遊びにいったりして。
合間の休憩を適度に挟みながら、俺は着実に学力を高めていった。
そして、9月。
模試でも安定的な結果を出せるようになった頃、大宮西高校では一大イベントが開かれようとしていた。
★
3年7組。
教室にて。
「ふふ……。それでは始めようか!!」
教壇に立つ生徒会長――田端浩二が、眼鏡をキランと光らせながら、大きく両腕を広げる。
「高校最後の文化祭……。我らが7組の催し物を!!」
一歩間違えれば中二くさい言動だが、田端のキャラクターはクラスの共通認識。いまさら誰も気に留めない。
「ね、どうしよっか!」
「あたしアイス屋やりたーい!」
「それあんたが食べたいだけでしょ!」
「あ。バレた?」
ざわざわ、とクラスメイトたちがざわつきだす。
みんな明るい表情でなにをしたいか話し合っていた。
受験でピリピリしがちな時期だが、たまにはこんな休息もいいのかもな。全員が普段以上に楽しそうだった。
「ね。良也」
隣の由美が肩をツンツンしてきた。
「なにしたい? 良也だったら」
「いや、俺は――」
俺はいいよ……という言葉をすんでのところで飲み込み、代わりの返答を投げかける。
「そうだな。お化け屋敷とかいいんじゃないか?」
「お化け屋敷!! いいね!」
まあ、定番中の定番だけどな。
文化祭といったらやっぱりこれだろう。
「あ、俺もお化け屋敷に一票!」
ふいにそう声をかけてきたのは渡辺。かつて大宮駅でレオのチラシ配布を手伝ってくれたクラスメイトだ。
「やっぱり幽霊役になってキャーキャー言わせたいよなー……。飯塚、一緒にお化け役やろうぜ!」
「お、おう……。別にいいが」
レオの一件以来、俺は渡辺ら陽キャと積極的に関わることになった。
おかげで元々スクールカースト最底辺にいたのが、いまではよくわからんポジションに立っている。
「オッケー、お化け屋敷だな……」
俺たちの会話を聞いていたか、田端が《お化け屋敷》と黒板に記入する。
「その他の意見はあるかー? 最終的には多数決で決めたいと思うが」
その後いくつかの候補が挙がったが、やはりみんな最後はお化け屋敷をやりたいらしい。
ダントツの票差で、お化け屋敷をやることとなった。




