詩織の告白
長らくお待たせしました!!
第二章、始めます!!
桜庭一家は新たな道を歩み始めた。
さっきまで剣呑な雰囲気を漂わせていた桜庭詩織も、少しだけ柔和な表情を覗かせている。
そう。
まるで桜庭家に飾られていた、昔の写真のように――
「お二人とも、ご迷惑をおかけしました。本当になんと言ったらいいか……」
別れ際、詩織が頭を下げてくる一幕があった。
先程までの邪険な様子は微塵もない。
おそらくだが、これが彼女の素の姿なのだろう。
「いえいえ。いいんですよ」
香苗が両手を振って応じる。
「よろしければ、今度お茶しましょう。同じ母同士、きっとわかりあえることもあるでしょうから」
「はい。ぜひ……!」
そして今度は俺に目を向ける詩織。
「あなたも……ありがとね。良也くんって言ったっけ?」
「はは……。はい、そうですよ」
急に態度を改められるとなんだかむず痒いな。
「あなたがいなかったら、もう二度と由美の笑顔を見られなかったと思う。色々迷惑かけたね」
「いいんですよ。俺が好きでやったことですし」
視線を脇に向ければ、由美がレオと戯れているのが見て取れる。
心なしか、レオのはしゃぎっぷりが普段より激しかった。
犬は頭がいいからな。
自分がどんな運命を辿らされるところだったのか……なんとなく察していたんだろう。
だからこそ、本当に嬉しそうだった。
由美も。レオも。
詩織自身も。
「では、私はこれで」
ふと香苗が頭を下げる。
「良也。このあとどうするの?」
「いや、帰るよ。親子水入らず、さすがに俺は邪魔そうだ」
「そう。じゃ、私は先に車で待ってるからね」
言ってから、保健所を後にする香苗。考えてみれば、香苗は夜勤後、休む暇もなく駆けつけてくれたんだよな。疲れてるのは言うまでもあるまい。
そうして香苗が去った後、詩織がふうと息を吐く。
「……いいお母さんね。本当に」
「そうですね。自慢の母です」
「自慢……」
詩織が苦笑を浮かべる。
「ほんと、あなたは不思議な子ね。高校生のはずなのに、高校生って感じがしない。私なんか同年代と話してる気分よ」
「は、ははは。そうですか?」
「うん。自慢の母なんて、いまどき高校生の口からは聞けないわよ」
たしかにそうだな。
でも嘘つくわけにはいかないし。
たとえ冗談であったとしても、親への悪口は言えない。
詩織は苦笑いはそのままに、続けて言う。
「だから正直、あなたは嫌いだった。自分の汚い部分を見てるようでね」
「…………」
そうだな。
たしかにそれは態度に出てたよ。
「でも、いまは感謝してる。由美を守ってくれて……助けてくれて、ありがとう」
「いやいや、そんな」
俺だって、由美に助けられた。
暗く閉ざされた人生に光を投げ込んでくれたのは、間違いなく彼女だったから。
「だから……あなたを信用して、ひとつだけ、言っておきたいことがある」
詩織の表情がふいに引き締められる。
懇願するような、祈るような……いろんな感情がない交ぜになった顔に、俺も無意識のうちに身を引き締めた。
詩織は俺にすこしだけ距離を詰めると、由美に聞こえぬほどの声量で呟いた。
「ここ最近、嫌な雰囲気を感じるの。ストーカーっていうのかな。誰かに追われてるような……」
「え……」
おいおいおい。
思った以上に不穏な話だぞ。
「もちろん、私はこんな仕事してるし、ある程度は覚悟の上だけどね。正直、変な男がいっぱいいるのがこの世界」
「そ、そうなんですか……」
一応高校生の身分なので、初耳という体にしておく。
「だから《躱し方》もわかってるつもりだけど……それでも、変な雰囲気を感じるの。日夜、誰かに追われてるような……」
「…………」
そうか。
詩織の心が荒んでいったのは、多分にそういった要素が絡んでくるんだろう。
「私に被害が及ぶだけならまだいい。だけどもし、あの子に危害が及んでしまったら。私……」
なるほど。そういうことか。
もしかしたら――由美が将来直面するはずの《交通事故》とも、なんらかの関わりがあるのだろうか。
表向きは《交通事故》で済んでいる事件も、ひょっとしたら……
いや、悪い想像はここまでにしておこう。
交通事故との関連性はともかくとして、ストーカーの存在を気に留めておくのは重要だろう。
俺は詩織の視線を受け止めると、しっかり頷いた。
「……わかりました。彼女のことは任せてください」
「あなたも気をつけてね。危なくなったらすぐに通報して」
「ええ。ご忠告、ありがとうございます」
俺は最後に由美とレオに手を振ると、その場を後にするのだった。
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