表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/61

ずっと好きだった人と。

 母はやはり察していたようだ。


「夕飯、やっぱりいらない」


 という俺のメールに、いち早く了承の返事を送ってくれた。励ましてあげてね――という添え文つきで。


 母は偉大だとよく聞くが、まさにその通りだと思う今日この頃。


 今度、また朝食でもつくっておかないとな。


 由美は現在、俺の隣で自転車を漕いでいる。三橋みはしを通りすぎたあたりなので、じきに家に到着するはずだ。いつもは騒がしく鳳凰拳を繰り出してくる由美も、今日に限っては静かなものだった。


 しばらく無言で自転車を漕ぐうち、見覚えのある家に到着する。


 埼玉県さいたま市、内野本郷。

 以前訪れたときと同じく、周囲は静かなものだった。


 風の流れる音。

 ときおり聞こえる車のエンジン音。

 近所で飼われているであろう犬の吠え声。

『都会の喧噪』とはまるで逆、静謐な時間の流れる場所だった。


 と。


「ワワワワン! ワンワン!」


 ふいに聞こえてきたその声に、俺と由美は顔を見合わせ、二人して笑ってしまう。


 さすがは犬。

 このへんの察知能力は、もはや人間とはかけ離れているな。


 俺たちは家のそばに自転車を停めると、二人して桜庭家に足を踏み入れる。


「ワンッ! ワンッ!!」


 玄関では、当然とばかりにレオが迎えてくれていた。

 もう老犬だし、肉体的には衰えてきているはずなのにな。

 こういうときだけは、動きがものすごく早いんだ。いつもはマイペースだけれど、飼い主が帰宅したときは尻尾を振って迎えてくれる。


 飼い主として、これほど嬉しいことはあるまい。


 ――そして由美は、そんなレオをいままで何十回、何百回と苦楽をともにしてきたのだろう。


「おー、ただいま!」


 胸に飛び込んできたポメラニアンを、由美は笑顔で受け止める。


 だけど、その笑みには陰りがあって。

 苦しくて堪らないのを、懸命に我慢しているように見えて。


 俺が太陽だと思っていた彼女は、こんなにも小さくて、ひとりの人間であることを、改めて思い知らされた気がした。


「レオ。ただいま」


 俺もその場にしゃがみ込むと、その小さな頭を撫でてみる。


「ワン!」


 小さなポメラニアンは、嬉しそうに吠えるのだった。


 それから俺たちはレオにご飯をあげたあと、いつものように受験勉強に打ち込んだ。


 今日は色々と動きまわったからな。シャワーも借りさせてもらった。温かなシャワーがなんとも気持ちよかった。


(ちなみにだが、レオの散歩は本日の夕方前に行っている)


 ――夜の11時。

 勉強を終えた俺は、例によって由美の部屋にお邪魔していた。


「ふう……疲れたな」


 俺は壁面にもたれかかり、大きく背伸びをする。


 今日は飯島さん宅の訪問に、チラシ配りが二回、受験勉強が二回……


 この土日はかなりハードなスケジュールだった。


 それでも、この疲労感は嫌いじゃなかった。

 いや。

 達成感というべきかな。


 壁にもたれかかったまま腰を下ろすと、由美が隣に座ってきた。


 妙に近い。

 肩と肩が触れるほどの距離だ。

 でも、それはおかしいことでもなんでもなくて。


 そういえば俺たちは恋人なんだよな――そう思うと、改めて不思議な気持ちが湧き起こってきた。


「今日はありがとね。良也」

 俺の手を握りしめながら、由美がぼそりと口を開く。

「改めて思ったんだ。良也がいなかったら……きっと私、ひとりで抱えてたと思う」


「そうか……」


 実際問題、未来の世界ではそうなっていた気がする。


 当時の俺は他人にまったく興味がなかったから、由美のちょっとした変化に気づけなかったけれど。


 でもたしかに、ある時から鳳凰拳の応酬が減ってきていたとは思う。


 昔の俺は、そんな彼女に気づけなくて。

 手を差し伸べせば変わっていたかもしれない未来を、自分から拒否していた。


 そう思うと、彼女を愛おしく感じてしまう。……こんなの、俺の柄じゃねえのにな。


 俺の肩に頭を乗せながら、由美は続けてやや甘い声を発した。


「えへへ……なんだか、夢みたいだな」


「夢?」


「うん。小学生のときからずっと好きだった人と、こうして……二人でいられるってさ」


「そうか。そうだな……」


「ね。お願いがあるんだけど」

 いまさらのように頬を染める由美。

さっきの・・・・もう一回やって……くれる?」


「さっきの……?」


 一瞬理解できなかったが、由美の様子からなんとなく察した俺は、これ以上追求することはなく。


「わかった」

 とだけ告げて、もう一度。


 彼女の両肩を掴んだのであった。



【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】


すこしでも

・面白かった

・続きが気になる


と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。


評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。


今後とも面白い物語を提供したいと思っていますので、ぜひブックマークして追いかけてくださいますと幸いです。


あなたのそのポイントが、すごく、すごく励みになるんです(ノシ ;ω;)ノシ バンバン


何卒、お願いします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] キスしてる所を母に見られたら気まずそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ