頑張りはいつか
「ど……どういうことだ……?」
突如にして現れた彼らに、俺は驚きを隠せない。
だってそうだろう?
連中はチラシを玩具にして遊んでたんだ。見た目からしても、やや不良っぽさのある雰囲気が拭えない。
そんな奴らが――なぜこんなところに。
「…………」
由美も同様、かなり驚いている様子だ。
まあ当たり前だよな。
俺だって訳わからん。
俺が戸惑っていると、生徒のひとりがこちらに向けて歩み出す。
逆立った髪型。
異様に細められた眉毛。
校則ギリギリの範囲内で自分を飾り立てている、いわゆる陽キャってやつだな。
たぶん学年は一緒だが、名前は例によってわからない。
なおも戸惑う俺に、陽キャたちは一斉に頭を下げる。
「すまん!! 飯塚!」
「え? は?」
「俺たち、考えが足りていなかった。あのチラシを……頑張って作ってた人がいたって……」
「お、おう……」
「だから謝りにきたんだ。このままじゃ、腹の虫が収まらねえと思って……」
謝りにきた?
まさか。
嘘だろ?
「飯塚。この通りだ!」
そう言って彼らはさらに深く頭を下げる。
逆にこちらが申し訳なるくらいに。
今井先生にこっぴどく叱られて、謝りに来させられている……わけではなさそうだな。
演劇部でもあるまいに、ここまで真に迫った謝罪はできまい。
「ははは……さすがに驚くよな。良也」
苦笑を浮かべながら近寄ってくるのは、田端浩二。
「こいつらとは塾が一緒でな。塾が終わったら、みんなでおまえたちに謝りたいと言ってきたんだ」
「俺たちに……」
「ああ。良也、昼にもチラシ配ってたろ?」
「ああ……」
「それがmix○で話題になっててな。たしか……三上さんが投稿してた気がする」
そうか。
三上楓。
彼女が、俺たちの頑張りをSNSで呟いたんだ。それがこの陽キャたちも届いた……
12年後には存在感をなくしてしまうものの、現代においてmix○は最先端をいくサイトである。クラスのみんなも結構やってるみたいだな。
俺? もちろんやってない。
陽キャのひとりが、改めて由美に目を向ける。
「すまん桜庭……俺たち、このチラシよく読んでなかった。犬の殺処分をどうにかするために、ずっと頑張ってたんだよな」
「うん」
由美は唇を尖らせるや、片手に持っていたチラシを突き出す。
「……悪いと思ってるんだったら手伝って。手抜いたら殺すからね……渡辺」
「へっ……」
渡辺と呼ばれた陽キャが目を丸くする。
そのやり取りを聞いて、さしもの俺も苦笑を禁じ得ない。
由美の奴、怒ったら結構怖いな。
俺以外の人とはこんな態度もとるのか。
「まぁ、猫の手も借りたいというのが本音でね。無理にとは言わんが、ぜひ付き合ってほしい」
「わかった。もちろん……やらせてもらう」
渡辺は意外にも嫌がることなく、由美のチラシを受け取る。それを他の生徒たちにも分配し、おのおので散っていった。
あいつらは陽キャだしな。
身軽な動きを期待しよう。
「さて、私たちも頑張ろ!」
片腕を振り回しながら気合いをいれる須賀。
……というか、浩二も須賀も当然のように来てくれてるな。渡辺たちの登場にすっかり忘れてしまったが、この二人にも感謝せねばなるまい。
だから俺は素直に礼を伝えた――のだが。
「昨日の話、ゆっくり聞かせてね♪」
と須賀に言われた。
浩二もニヤニヤ顔である。
「おまえら……」
俺は呆れながらも、それでも二人を憎むことができないのであった。




