予期せぬ顔
前話でご指摘いただいた箇所、修正かけました。
やっぱり睡眠不足はいけませんね。
お教えくださった方、ありがとうございました。
ふとガラケーを開くと、すでに13時を超えていた。
配付開始の時刻は11時。
目標の2時間には達したと見ていいだろう。
もう汗だくだし、少しばかり休みたいという気持ちもあるからな。
だから俺は
「由美。いったん休もう」
と提案した。
彼女もさすがに疲弊を顔に滲ませていた。
レオを助けるためとはいえ、慣れないことを二時間も続ければ疲れも溜まる。弱音を吐かず、よく頑張ってると思う。
俺たちはいったん駅の東口を離れ、西口に向かうことにした。
こっち方面には座る場所が沢山あるから、小休止には丁度いいんだよな。
たまに変な勧誘を受けることもあるが。
俺はのっそりと腰をベンチに降ろす。当たり前だが、その際に腰や膝が痛みを発することはなかった。
若いっていいな。
「ほい。差し入れ」
「お。助かる」
いつの間に用意してくれていたのか、由美がコーラをくれた。
たっぷり大容量600ミリ、缶ジュースだ。
「いつも助けてくれてるから……これはそのお礼」
「そうか。ありがとな」
であれば有り難く受け取っておこう。
そんなに気を遣ってくれなくてもいいんだが、きっと彼女なりに恩返しがしたいんだろう。それを拒む道理はない。
俺はコーラを豪快に口に放り込み、痛快なのどごしを味わう。
うん。うまい。
学生の頃は、たしかにこういうのよく飲んでた気がする。
「ねぇ。良也」
「ん?」
「さっき、誰かと話してたよね? よく見えなかったんだけど……もしかして三上さん?」
お。
俺とは違って、彼女は交友関係が広いからな。三上の名前がすぐにわかるのか。
「そうだな。偶然ここを通りすがったみたいで、話しかけられた」
「そっか……」
そして急にそっぽを向き、やや恥ずかしげに言う。
「……仲、良いの?」
「へ」
「だって。仲良く話してるように見えたし……」
「いやいや。そりゃないって。ぶっちゃけると、ちゃんと話したのはさっきが初めてだ」
「そうなんだ……」
ちょっと安堵したように呟く由美。
まあ、仮に三上と必要以上にお近づきになろうものなら、浩二に殺されかねないからな。
そんな結末、誰も得しない。
――それに。
俺は由美の頬をつついて言う。
「一番大事なのはおまえだからな。これは揺らがんよ」
「……むぅ」
俺に頬をつつかれながら、ちょっとだけ甘い声を出す由美。
とても嬉しそうに見える――のは気のせいだろうか。
「ねぇ。良也」
「なんだ」
「久々にあれやっていい?」
「どうぞ」
えいっ! と。
怒濤のごとく繰り出された鳳凰拳を、俺はさらっとかわしてみせるのだった。
それが周囲にはイチャついているように見えたようだ。
爆発をお祈りしてそうな顔がいくつも見られたので、俺たちはいったん退散することにした。
向かう先は由美の家。
受験勉強も兼ねて、レオの餌やりと、散歩をする必要があった。
「ワン! ワン!」
帰宅した俺たちを、レオは尻尾を振って出迎えてくれた。
ほんとに、この顔を見ると安心するんだよな。
純粋に自分の帰りを待ち望んでいる相手がいるのって、実はものすごく幸せなことかもしれない。
俺はそんな老犬と遊びつつも、受験勉強に徹する。
我ながらハードなスケジュールだが、ここが踏ん張り時。
音をあげるわけにはいかない。
由美も同様、勉強時には真剣きわまる表情で取り組んでいた。
そして、夕方の4時半。
勉強に区切りをつけた俺たちは、再び大宮駅に向かうことにした。むろんチラシを配るためだ。
行き来するのは手間だが、レオを助けるためには四の五の言っていられない。
五時。
予定通りの時間に東口についた俺たちを、思いがけない人物らが出迎えた。
「あれっ……?」
階段を降りながら、由美が素っ頓狂な声を発する。
そこにいたのは、浩二と須賀。
さらに数名の同級生たち。
その同級生たちの顔は、さしもの俺ですら忘れていなかった。
――学校内で配った里親募集のチラシを、紙飛行機にして遊んでいた連中だったから。
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