表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/61

泣いたら勘違いされた

 ――桜庭由美。


 俺にとっては太陽のような人。


 だからこそ、届くはずがないと思っていて。

 まともに直視することもできないし、触れることもないと思っていて。


 だけど、いま。

 由美は俺の隣にいる。

 こんな――クソったれな俺なんかを好きと言ってくれている。


 まさに奇跡だと言う他ないだろうな。自分でもそう思うよ。


「ね。良也」

「ん?」

「……あの、ひとつだけお願いがあるんだけど」


 なんだ改まって。

 しかも妙に顔が赤い。


「……繋ぎたいの、手」

「鳳凰拳飛んでこないだろうな」

「し、しないよっ!!」


 目をぎゅっとして叫ぶ由美。


 まあ――不器用なりに想いを伝えられているあたり、由美も成長したのかもしれないな。


 だったら。

 俺もそろそろ、自分の殻を破るときだろう。


 机に乗っかった由美の手を、俺はゆっくり握りしめる。


「…………」


 温かな感触が肌に伝わる。

 人の鼓動が直に感じ取れる。


 そっか。

 なんだかんだ言って、誰かと手を繋ぐのは初めてかもしれない。しかも相手は超絶美人だし、いかがわしい店でもないもんな。


 これが夢にまで見た手繋ぎ……


「くぅう……」

「な、なんで泣いてんの」

「嬉しいんだ。嬉し泣き」

「う、嬉しいって……。そんな……」


 なぜか嬉しそうに頬を染める由美。

 なんか噛み合ってない気がするが、嬉しそうなので放っておこう。


「そうだ」


 俺はふと思い立って、至近距離にある由美の頬をツンツンしてみる。

 ぷにゅ、と柔らかい感触が返ってきた。


「むぅ」

 由美がぷうと頬を膨らます。

「いたい。なにすんの」


「やってみたかった」


「むむ……」


 いっそう頬を膨らます由美。


 ――可愛い。

 ふとそう思ってしまう。


 彼女のこんな一面は見たことなかったからな。

 天真爛漫てんしんらんまんなようでいて、誰にも心の内を明かさず、自身の暗い一面を懸命に隠してきた彼女。


 いま振り返っても、由美に甘えたところは一切なかった。いつも自分だけで抱え込んで、いつもひとりで悩んでいて。


 もし俺がそんな彼女を明るく照らし出すことができたなら――未来も変わるのだろうか。


「なあ。由美」


「え?」


「もしな、これから辛いことがあったら……なんでも吐き出してほしい。さっき俺に全部話したみたいに」


「へ……」


 目を丸くする由美に向けて、俺はしっかりと言い切ってみせる。


「ひとりで抱えるなってことだ。なんでも聞くからさ」


「え。えへへ……ありがとう」

 由美は満面の笑顔を咲かせる。

「でも、いいんだよ。私はね、ずっと良也に支えられてきた。こうやって一緒にいるだけで幸せだもん」


「ぬっ……」


 なんと恥ずかしいセリフを。

 って、俺も人のことは言えないか。


「ワン!」


 なぜかよくわからんタイミングでレオが吠えた。


 ――でも、そうだな。


 一緒にいるためには、早稲田に合格しなくちゃならない。進学先が異なっても交際を続けることはできるが、そもそもの目的は彼女の交通事故を回避することだからな。


 交際がゴールではない。

 それだけは、ゆめゆめ忘れないようにしたい。


 それを思えば、受験勉強にもより一層身が入った。むろん今までの勉強も気合い充分だったが、さらにレベルが増したというか。


 人間、成長しようと思えばいくらでもできるもんである。


 すべては――隣の由美を守るため。

 それだけを原動力に、俺は必死に机にかじりついた。


 だから気づかなかった。

 時間がすでに夜の1時をまわっていることに。


「ふああぁあ……」


 背伸びしながらあくびをする俺。


 さすがに眠くなってきた。

 これ以上の勉強は無理だろう。

 四当五落が叫ばれる世の中でもないしな。


「由美。そろそろ寝ようぜ」


「う……うん」


 なぜか顔を赤くする由美とともに、俺たちは寝室に向かうのだった。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ボディタッチのやり取りとか、二人のセリフが甘めの仕上がりな所(ノシ 'ω')ノシ バンバン [一言] くっ、寝室でどうなるんだろう(ノシ 'ω')ノシ バンバン
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ