一丸となって
※若干タイトルに変更かけました。
安っぽさが出ないようにはしましたが、いかがでしょうか?
★
「…………!」
いつしか風景は元に戻っていた。
半透明に透き通った俺や由美は、もういない。
周囲の風景も完全に元通りだ。
教師はいつも通り野太い呪文を唱えているし、さっき俺をデートに誘っていた由美も静かに机に向かっている。
――いまのはなんだったんだろう。
過去の出来事……ってやつだろうか。
なぜその現象が起きたのかは不明だが、たぶん俺は十二年前の光景を見た。
いま思い出しても、由美からああやってデートに誘われたことは間違いない。そして俺も……たぶんさっきと同じ文言で断っていたと思う。
だとするなら。
このまま放っておけば……レオは間違いなく保健所に送られる。そして一切の猶予期間もなく、ガス室で窒息死させられることだろう。
それを知った由美は、心に深い傷を負ったまま学校生活を送ることになる。たとえ長い年月が経ったとしても、それが癒えることはないだろう。
そうか。
ここが分岐点。
諦めるか諦めないかで、由美の人生がきっと大きく変わる。
大事な命を失ったことによる傷心は、それこそ取り返しのつかないものだろう。もしかすれば将来の交通事故にも結びつくかもしれない。
由美とレオを救うなら、いましかない――
俺だけ腐ってるわけにはいかないんだ。
もう――彼女の泣き声は聞きたくないから。
俺はひとり、決意を新たするのだった。
放課後になった。
夕陽の輝きが教室を橙色に染め上げる。カラスの切なげな鳴き声が一帯に響きわたる。
部活のある生徒は一目散に部室へ走っていく。そうでない生徒は、受験勉強を控え、そそくさと帰っていく。
三年生の教室は他学年と比べ、人の動きがだいぶ激しかった。誰もが自身の目標のために走っている。
そんななか、俺と由美、そして田端と須賀だけは教室に残っていた。
田端と須賀は塾が休みみたいだな。だからすぐに帰る必要はないそうだ。
俺は里親募集のチラシを机に置き、静かに、しかし決然と言い放つ。
「学校での配布は残念な結果になってしまった。けど、まだ手段は残ってる。田端、頼んでたことは終わったか?」
「あ、ああ……」
目をぱちくりさせると、田端は一枚の書類を差し出す。
道路使用許可申請書。
それの写しだった。
「手続き自体は終わってる。今日には結果がでるみたいだが……」
「そうか……。ありがとう。助かるよ」
「え、なに? なんのこと?」
須賀がわけわからんといった顔で首を傾げる。
田端は苦笑を浮かべ、書類をしまいながら言った。
「親友に頼まれてな。街頭でチラシを配るために、警察に許可を取るのを頼まれてたのさ」
「え……いつの間に!?」
「すまん。恩に着るよ」
俺は手刀をつくり、何度も顔の前で振ってみせる。
「はは、いいんだよ。言っただろ。《西高同盟》を組んだからには、みんなで夢を叶えるんだ」
そう。
チラシ配布の申請をするには、そこそこの時間を取られる。書類の記入もそうだし、警察に色々と理由を聞かれるのだ。
住所や氏名はもちろんのこと、目的や区間などなど。
学力的に底辺を這いずる俺にとって、この時間のロスがかなり痛いことは想像に難くない。
だから田端が手を挙げてくれたんだ。時間を見つけて俺が申請しにいくから、おまえは勉強に集中してくれ……ってな。
本当に、ありがたいと思う。
俺は恋人だけじゃなく、友達すらまともに作ったことなかったからな。
こういった助け合いが、胸に沁みるんだ。
俺は込み上げるなにかを抑え込むと、一同を見渡して言った。
「じゃあ、許可が降りたら俺がチラシを配る。みんなも――できれば協力してほしい。受験生の身だし、無理にとは言わないが」
「良也……」
由美が潤んだ瞳で見上げてくる。
「うふふ、たいした男ね、飯塚くんも」
須賀も苦笑まじりに言った。
「学校でのチラシ配布がこんなことになったのに……それでも前を向いてる。見習いたいくらいよ」
「ああ。本当にな」
田端も賛同を示す。
「チラシを作ってない俺ですらメンタルやられたんだがな。飯塚……おまえは本当にたいした奴だよ」
「…………」
俺は数秒だけ黙り込むと、全員を見渡しながら続ける。
「……だとしたら、みんなのおかげさ。俺も正直、暗い人生を歩んできたよ。誰も信じられなくて、ずっと一人で、すべてがクソに見えて……それがちょっとずつ変わってきたのは、みんなに出会えたからだと思う」
「い、飯塚くん……」
須賀が嬉しそうに頷く。
「だからこそ、由美は絶対に救いたい。どうしようもなく高い壁がそびえていても――最後まで」
「ああ……そうだな」
田端がしっかり頷くと、例のごとく右腕を突き出してきた。
「みんなで頑張ろう。西高同盟のために!」
気のせいだろうか。
またしても、稲荷塚古墳の方向から、暖かな風が吹いてきた気がした。
世間はなにかと暗い話題が続いていますが、みんなで乗り切っていきましょう(ノシ 'ω')ノシ バンバン!
一丸となって!!
※もしいけたら本日中にもう一回、更新します。




