さすがにおかしすぎる
レビュー書いてくださった方、ありがとうございます(ノシ 'ω')ノシ バンバンしたいんです
――ちゅん、ちゅん。
鳥の囀りが聞こえる。窓の外から差し込む陽光が、俺の顔をほのかに暖める。
どうやら座りっぱなしで寝てたようだ。それでも爆睡できたあたり、やはり高校生の身体である。
「って、ん……?」
どこだここは。
俺の自室ではない。
実家のリビングとも違う。
ここは……
「すぅー、すぅー」
視線を横に向ければ、ソファで横たわっている桜庭由美。体勢的にかなり際どい格好をしているが……いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない。
「ね、寝過ごした……?」
そうだ。
由美から貰ったおにぎりとコーヒーを味わって、眠気と戦いながらチラシ作りに徹して……
そのあとは、どうしたっけ。
数秒だけ考えて、思い出した。
『今日はたぶん両親ともに帰ってこない』という言葉を聞いて、もうちょい頑張ってみようとキーボードを叩き続けて……それで……
「やっぱり、寝過ごした……」
がっくり肩を落とす俺。
よりによって女の家で寝過ごすとは。間違いは起きてないからいいけど、色々と誤解を生むぞ。
時計を見ると、もう朝の九時。
登校時間をとうに過ぎている。
駄目だこりゃ。
もうどうにもならん。
ひとまず俺は作成した記事を保存し、USBメモリに移し変える。由美から借りたものだ。ここで悪戯に取り乱さないあたり、おっさんとしての人生が活きてるのかな。
そしておもむろに立ち上がり、由美の肩を揺する。
「おい。起きろ。由美」
「ふにゃーー?」
なにがふにゃーだ。
「朝だ。もう九時。遅刻だな」
「ええっ!?」
くわっと目を見開き、上半身を起こす由美。その際、はだけた胸元にやっと気づいたか、きゃっと叫んで身を覆う。
「気にするな。なにもしてねえよ」
「うう……っ」
なんだ。
それはそれで不服ですみたいな顔しやがって。
反応に困るんだよ反応に。
「ワン!」
近くで横たわっていたレオが、またも意味不明なタイミングで吠えた。ほんと、マイペースだよなこの犬は。
「はぁ……ごめんね」
格好をただしながら、由美がため息をつく。
「良也、ずっとチラシを作っててくれたんだよね。私まで寝ちゃうなんて……」
「ま、いいさ。気にすることじゃない」
言ってしまえば、これは俺のお節介。謝られることじゃない。
「……でも、完成はしたよ。これで警察の許可が降りれば、晴れてチラシ配布ができる」
「そっか……」
頷いた由美が、目をこすりながらパソコンの画面を覗き込む。
『里親さん大募集!!』という文言から始まり、チラシの大部分にはレオの写真がでかでかと映っている。我ながらよくできていると思う。
「ヘッヘッヘッ」
意味が通じているわけもないだろうが、レオも同様にパソコンを覗き込んできた。
「レオ……」
そんな愛犬を、由美は切なそうに抱きしめる。
「ごめんね……。本当はずっと一緒にいたいけど……」
「ヘッヘッヘッ」
「レオ……」
さすがにいたたまれなくなり、俺は思わず顔を逸らす。
そりゃ俺も考えたよ。
里親になんか出さなくても、桜庭家でレオを飼い続けることができれば、それが一番のハッピーエンドだ。
でも……難しいだろう。
ペットを飼うだけで、家賃は大きく跳ね上がる。とても学業の傍らで稼げるような額ではない。受験生なら尚更だ。
そう思うと……俺はどうしてもやりきれなくなる。
その瞬間。
「ただいまー」
ガチャ――と。
挨拶とともに、玄関の扉が開かれた。声から察するに、由美の母親か。
やばい。
こりゃまずいぞ。
娘と一緒に男が寝泊まりしているのを知られたら……!
かなり焦ってしまったが、さりとてどうにもできない。俺の動揺も空しく、由美の母はあっさりと姿を現した。
「……あら」
濃いめの化粧で塗りたくられた顔面がなんとも特徴的だ。服装もかなり派手で、露出が激しい。持っているバッグもあれ高級品じゃねえのか。
「ふーん……」
由美の母は俺と由美を交互に見やると、興味なさそうに別室に消えていった。俺のことにはなんの言及もない。
「は……」
さすがに驚きを禁じえない。
娘と男が、同じ屋根の下にいるんだぞ?
こんな時間に。
本来は学校に行っているはずの時間に。
なんで、なにも言わねえんだよ……!
「…………」
対する由美も無言のままだった。
悲しそうにうつむくのみだ。
桜庭由美。
ずっと太陽だと思っていた女性。
だけどその表情は、どうしようもなく暗くて。
やっぱり――彼女もひとりの人間で、人並みに悩みを抱えた学生に過ぎなかったんだ……
「あはは。ごめんね、良也」
それでも必死に乾いた笑顔を浮かべる太陽。
「とりあえず、学校いこうよ。この時期休むのは痛いし」
「あ、ああ……」
その提案に、俺は頷くことしかできなかった。
このような暗めの展開、皆様は大丈夫ですか?(ノシ 'ω')ノシ バンバン




