No9 旅の目的
今日のうんちく
※ゴキブリは、脳を経由せず足に直接伝達する神経を持っているので、『危ない!』と思う前に動けるのです。だから素早く見えるんですね。
電話はクリーンハッピーで管理している弁当屋からだった。
「え? ゴキブリが出ました? わかりました。すぐに対応します」
受話器を握って答えるもみじを見る小堺。
「またか……社長に連絡する」
「社長は今日病院なの」
「具合、悪いのか?」
「まぁ……」
あまり答えたくないのかもみじは慎重に返事した。
「じゃ、俺たちでとりあえず顔出すか」
「そうね」
俺は片桐雄介。ついこの前まで普通の高校2年生だった。が、今はチャバネゴキブリという飛べないゴキブリだ。
どうやら俺は、不死身のゴキブリ無双Gになったようなんだが。
さらに、人間の悪い妄想が感覚で理解できるようだった。
さっきからこの小堺という男から、ギンギンに悪い妄想を感じた。いずれ事件になるのではないかと思わせる。
せわしなく仕事の準備をするもみじちゃんに、おれは何とか合図を送って一緒に行かなければならい。
あの小堺という男からもみじちゃんを守らなければいけない。
しかし……。
ゴキブリの俺に何が出来る?
そう思ったら、自然と身体が動いた。ゴキブリってのは考えるより体が先に動くようだった。
玄関から出ようとしたもみじちゃんの前に俺は突然現れた。
「きゃ!」
一瞬、気付いたもみじちゃんだったが俺を踏んづけてしまった。
大丈夫。
俺は生きてる。
どんな圧力にも耐えうる身体をしている。それはもう学習済みだ。
「え?」
足の裏に違和感を覚えたもみじちゃんが、足を上げると俺が平然と生きている。
「うっそ……」
もみじちゃんは明らかに俺を見て不思議そうな顔をしている。
「死なないの? あなた」
『死なないというか、死ねません!』
俺はもみじちゃんの足元で、体を斜めにして触角をフリフリしてみた。
『おれも連れてけ。ほら。伝わんないかなぁ……』
必死の伝達が始まった。
すぐ身体を逆方向に斜めにして触角をフリフリ。
「なんか愛嬌ある! すごい! こんなゴキブリ初めて!」
『お! キタ―!』
よし。俺は決めた!
このままもみじちゃんを守るべくペットになって見せる!