No1 ここは居酒屋のどこ?
今日のうんちく
※クロゴキブリは木造家屋が好きで、チャバネゴキブリコンクリート建造物を好みます。
あれ?
やけに真っ暗だな……あれ? くっさ!
あれ? でもいい匂い。
ああ、焼き鳥の匂い?
あまいなぁ……タレが焦げる香ばしい匂い……。
あれ?
学校は?
ここは学校じゃないのか?!
なんで?
「へい、いらっしゃい! お二人様で!? こちらへどうぞ!」
威勢のいい声が聞こえてきた。
お店!?
ここはお店か? 何の店やねん。
第一、俺はさっきまで歩いてたはずだ。
俺の通う高校まですぐ近くだったはずだ。
いつもは自転車で通学しているが、今日は朝から大雨だったからバスできた。
で、最後の信号を渡って……
そうだ。
あの時、俺は吹き飛ばされた……。ダンプカーに……。
で、ここどこやねん!
目は見える。匂いもする。いや、いつもより敏感。てか、匂いが脳に直接来る気がする……。
しかし暗い。
「おい。お前、どこの巣のモンだ?」
「え? 俺の事?」
声のする方を見た俺はビビった。ビビりまくった。
目の前に巨大なゴキブリがいて俺に話しかけている。
いや、正確には触覚を通じて俺の脳に直接語りかけているようだった。
もしや……。
「何黙ってんね! チャバネの分際で!」
俺は……なんだ?
こいつと同じゴキブリなのか……?
チャバネ? チャバネゴキブリ?
「おい! てめぇ口聞けねぇのか!?」
「ていうか、どうやって話すんだよ?」
「聞けるやん! 心配するし!」
実際には口を動かしていないのだが、頭で考えれば触覚を通じて相手に言葉を伝えられるようだった。
「え? 聞こえてるんですか?」
「当たり前だろ。そんな事よりお前、そんな所にいたら人間に見つかるぞ」
「え?」
俺は今どこにいる?
すると、巨大な長靴を履いた足がドスンっと俺の目の前に現れた。
体がビクッとなって動けないかった。
「動くな。相手の様子を見ろ」
俺は言われるがまま、じっとした。
……。
すると知らず知らずに頭の上の触角が動き、周囲の様子を脳に直接伝えてくれる。
半径3メートル以内に人間が二人……。
テーブルに座っている客は10人ほどか……。
この長靴の主は今、冷蔵庫の中の物を探っている……。
凄い!
触角は様々な情報を俺に与えてくれる!
そのおかげで俺は今、小さな居酒屋の業務用冷蔵庫の下にいる……。
長靴の主が去っていった。
「よし、こっちに来い。そんな端っこにいては見つかったとたん殺されるぞ」
「こ、殺され……!」
正直、もう一回死ぬ方がいいんだけど……。
「お前はチャバネだから飛べないだろ?」
「俺はチャバネ?」
「なんだ、自分のことも知らないのか! 俺はクロゴキブリのジョーだ。よろしく」
「あなたは飛べるんですか?」
「当たり前だ! 飛べるからこの居酒屋に来たんだ。お前の巣は、この冷蔵庫のモーターの中だろ? 早くお家に帰れ。坊主」
「巣? 家?」
「そうだよ。全くとぼけたチャバネだな! 俺の背中に乗れ!」
乗れって……!
真っ黒なクロゴキブリのジョーがぐわッと俺の目の前に来た。
俺は思わずババッと動いてしまい、冷蔵庫の外に出てしまった!
「キャ!」
人間の悲鳴が聞こえた瞬間、俺は触覚で危険を察知した。