環境兵器を手に入れた人類は恒久平和を手に入れるようですよ?
※この物語はフィクションです。作中に登場する事件・兵器などはすべて架空のものです。
「我が国、いえ人類はついに環境兵器の実用化に成功しました」
202x年、日本の首相は記者会見を開いていたが、開口一番にそう語った。
ざわめく記者達。
「正確には我が国とアメリカの共同ですがね。環境兵器の実用化に向けた開発は2009年、アメリカのマバオ前大統領が提唱した【核なき世界】を受けて本格化しました。しかし開発は困難を極め、2010年初頭や末に我が国に甚大な災害を引き起こす事となりました。が、それでも今年、ついに完成の日を迎える事ができたのです」
事もなくそう言ってのける首相。あの地震やあの台風はやはり全て気象兵器だったのか…!!と記者達の中から聞こえる。
「しかし前首相も愚かな事をしました。この環境兵器、もとい台風兵器さえあれば敵国は台風により航空戦力や海上を展開する事ができず、かつ地震兵器により核ミサイルを使わずとも首都を壊滅せしめる事ができるのに。
敢えて言いましょう。こんな素晴らしい兵器を知っていて数百億円もする役に立たない戦闘機を購入した前政権は愚かです」
嘲笑うかのように語る現首相。
日本は東京五輪の失敗から新たな政党による東京都知事が就任し、それを皮切りに新政党は日本各地で選挙に勝利し、ついに新政党が衆議院に大勝利し、首相就任と相成った訳で、前政権をことある毎に批判していた。
「この地震兵器、台風兵器により、従来兵器の役目はほぼ終わり、核兵器も戦略兵器の座を終えました。最早戦争になれば核兵器の撃ち合い等という原始的な戦いはせずに、いかに敵首都に致命的震災を引き起こすかが鍵となります。しかし震災でしかないので核兵器による致命的な汚染はなく、極めてクリーンな戦争となるのです」
首相は淡々と会見を続ける。
その後、アメリカの大統領も似たような会見を行い、地震兵器・台風兵器もとい環境兵器の存在は認められる事となった。
折しも中国では大規模な地震や台風により国家崩壊の危機を迎え、ロシアも台風によりアジア艦隊は甚大な被害を受けていた為、信じざるを得なかった。
「人類はついに手に入れました。核兵器に変わる綺麗な兵器を。 人類はついに手に入れたのです。恒久的平和を!」
日本の首相とアメリカの大統領はそう高らかに宣言したのだ。
【第三次世界大戦はどのような兵器が使われるかはわかりませんが、第四次世界大戦はわかります。石と棍棒です】
第二次世界の有名な物理学者アインシュタインのこの言葉を思い出した日本の記者達は皆無であったが、彼らの宣言を聞いた者達はその言葉が頭を過ったのであった……。
※ ※
『それで、地球人は【我々のあげた】環境操作システムの一部を有り難がって戦略兵器にしたのですか?』
太陽系の宇宙空間。火星の重力圏内、それでいて地球からは観測できない火星の裏側に、数隻の、明らかに人類文明の物ではない、宇宙船団の、とりわけ大きな船の艦橋内で、そのような会話がなされていた。
『ええ。人類は愚かにも我々の環境操作システムを保有して神々を自負しだして、今まで戦略兵器であったレベルγ(ガンマ)兵器を破棄しだしているわ』
艦長と思われる女性型宇宙人はそう答える。
『今までγレベルの兵器を保持していたのに【神々】ですか……。なんともまぁ、歪で原始的な文明ですねぇ』
副官と思われる男性型宇宙人はそう苦笑して見せる。
副官はそう笑って見せたが、艦長は笑わない。
『深層時空観察局は異世界転生者の関与が極めて高いという判断を下してるわ』
『深層時空観察局が? それは……』
艦長の言葉に、副官は驚愕してみせる。
『それは大ごとじゃないですか。異世界転生者ですか……なんとも因果なものですね。それは』
副官は深刻な顔を維持したまま言う。
『千年前、我々テク・シート人を絶滅せんとした異世界転生者が関与しているとあれば、直接的な攻撃は危険だと総司令は判断したのだ』
そこに艦長よりも派手な軍服を着た中年型の宇宙人が現れる。艦長と副官は敬礼をしている事から、どうやら彼こそがこの船団の長、提督なのだろう。
『だからって補助艦含めてたった12隻、地上戦力も一万程度なのは流石に問題だと思います』
副官はそう言ってみせる。
『君も本国と隣国の状態を知っているだろう。主力艦隊は来ない。それはこの前説明した筈だが?』
提督は静かに副官を見て語る。
『それは承知しております。ですが、流石に揚陸艦もなしに人口75億もの惑星を征服するのは心許ない限りと存じ上げます。ましてや相手は異世界転生者の介入があったγレベルの惑星です』
『その為の今回の環境システムの一部の提供よ』
副官の言葉に艦長は答える。
『それに地球には莫大な食物エネルギーが存在している。ウマなる生命体は20万以上、クマなる生命体は60万。ウシに至っては71万。ウマとウシは地球上に広く飼育がなされている。それに、地球人そのものも食物エネルギーとなる』
『71万……! 我々テク・シート人の1人の1航期の必要エネルギーが70万なので、1匹いればまるまる1航期賄えるじゃないですか』
提督の出した情報に、副官は驚愕する。
それほどまでに本国の食糧難は深刻であった。
『そうだ。既に何匹か捕獲・飼育を行っている。評価は最高評価を受けている。惑星ごと入手すれば本国の食物エネルギー事情は一気に好転する。失敗は許されない。慎重に事を進めなければならないのだ』
『なるほど。γレベルの兵器では惑星汚染が深刻ですからね……。γなら惑星ごと使い物にならなくさせるのは容易いですから、なるほど。合点は行きました』
提督の説明に、納得の表情を見せる副官。
『しかし』
『言いたいことは私も提督も同じよ』
口を開く副官に対してやれやれと言わんばかりに艦長は言ってのける。
そう、副官も艦長も、そして提督も、そんなに重要なら戦力よこせ。と言わずにはいられなかった。
だが、それはできない。それほど本国の置かれている状況は良いものではなかったのだ。
三人はそう確認しあい、ふうとため息をつく。
『ちなみに……地球人そのものの食物エネルギーは?』
『8万食物エネルギー。ウシのエネルギーを聞いた後だとどうも低いわよね』
『脂肪分が多いそうだが、抽出してしまえば何も問題はない』
等という談笑が聞こえたとかなんとか。
別の場所
『地球がまさかγレベルの技術で小型化を実現しているとは未だに信じられないよなぁ』
『γレベルは発電や動力にするのが我々の常識だからな』
そう言って情報を纏める情報官の二人。
『最も、レベルεの我々にとってγレベルの兵器が効くとは思わないがな……』
『それでも惑星一つ焦土にするくらいはできるからな。提督も慎重になるのもわかるよ』
『それにしても、γレベルまで行ったのにわざわざ破棄して環境システムを兵器化するなんて物好きな連中だよな』
『しょせんは低俗な文化と精神しか持たない生命体でしかないって事だよ』
等、そのような話を続けていた。
彼らの話が地球人に聞かれる事はないだろう。
その後、人類はその技術が宇宙人テク・シートによって与えられた環境兵器にほとんどシフトし、それを見計らってテク・シートは侵略を開始。
既に環境兵器の報復により主要都市を破壊しあっていた人類に抵抗する手段は存在せず、その支配を受け入れざるを得なかった。
人類はさまざまな用途に使用され、人類はテク・シート達の領星に散らばり、数を増やしていった。
皮肉な話であるが、平和になる筈だった核なき世界よりも、テク・シートによる奴隷支配の方が人類にとって飛躍的な拡散と繁栄をする事となったのだ。
人類はとりあえず手に入れたのである。
人類同士が争わない。恒久的平和とやらを。
環境兵器を手に入れた人類は恒久平和を手に入れるようですよ? おしまい。
Twitterで人工地震や人工台風を主張している人達を見て、でも人工台風だと攻めてきた宇宙人の船とか効かないよなぁ(核兵器が効くとは言っていない)とぼんやり思っていたらなんかこれが出来ました。
核兵器に変わる夢の超兵器・人工台風。だがそれは人類すら食べようとする邪悪な宇宙人の陰謀であったのだ……!という親しみやすい物語ができて満足です。
共和制ローマとか、異世界転生者(が建国した)説、あると思います!!
毘沙門天「なるほど、俺は異世界転生をしたらしい。この体は上杉謙信というのか。よし、頑張るぞ」
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