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ただのおもちゃ

 次の日。


 「おはよう。みんな」


 愛人まなとはクラスメートの女友達に声をかけたが誰一人返事をしてこない。しかし、無表情で愛人まなとのことをチラッと見ると何事もなかったかのように会話を始める。無視されたのだ。その瞬間、愛人まなとは空気が凍ったような感覚を覚えた。原因は一つしかない。ヒカリだ。彼女が何らかのうわさを流したのであろう。しかし人はこうも簡単に態度を変えるものなのか。いったいどんなうわさが流れているのか。愛人まなとは気になった。問いかけても無視されるばかり。


 「ねぇどうしたの美人みとちゃん」


 いよいよ泣きそうになった時、クラスでファンクラブができるほどきれいな女の子、千香ちかが声をかけてきた。美人みとと入れ替わった愛人まなともそこそこ可愛いが、千香ちかの端正な顔と声に一瞬だけ現実を忘れる。女心を持っている愛人まなとからとっても千香ちかは魅力的であった。そして自分に声をかけてくれる存在。愛人まなとには彼女が救世主のように思えた。その様子を教室の片隅で見守る美人みと。なぜか美人みとには世間話をするように声をかける女子たち。


 「ここは居心地が悪いでしょう? 音楽室に行きましょう」


 千香ちかは半ば強引に愛人まなとの腕を引っ張って近くの防音の効いた音楽室へと連れて行こうとする。それを見ていた美人みとは、あとを追いかけようとするがクラスの女子たちが邪魔をしてくる。しばらくして複数人の男子生徒が不気味な笑みを浮かべながらスマホを持って音楽室へと向かっていった。これから起こることを想像した美人みとは顔が青ざめた。愛人まなとが危ない。今の愛人まなと美人みとと入れ替わり、女の子の姿をしている。男子生徒が興味を持つことと言ったら知れている。


 「――美人みと!!」


 美人みとの低い怒り声にくすくす笑っているヒカリ。彼女にとってはSNS上で愛人まなとの恥ずかしい写真が出回れば会話に困らない。そうやって彼女は他人とコミュニケーションをとっていたのである。それ以外の方法を知らないといえばいい。愛人まなとは人柱になったということである。


 一方、音楽室では悲劇が起こっていた。


 「脱ーげ、脱ーげ」


 千香ちかは優雅にピアノを弾いている。まるで他人事のように。愛人まなとに向けられた大勢のスマホ。男子生徒たちは愛人まなとに制服を脱ぐことを強制している。その声はだんだん大きくなっていく。恐怖を感じた愛人まなと。だが、女として大事なものは守りたい。無理やりはがされそうになる制服を必死に抑える愛人まなと

 

 「やめて! 私を性的な目で見ないで!!」


 「っふふ」


 笑ったのは千香ちかだった。


 「ただのおもちゃにしか思ってないわよ。あんたなんて」


 はらりとはだける制服。健康的な肩が露わになる。盛り上がる男子たち。次に手が伸びたのは愛人まなとのスカートの中。その時であった――


 「美人みと!!」


 愛人まなとはずっと、もう一人の自分が来るのを待っていた。本当の救世主だ。美人みとは男子生徒たちを一人一人殴り倒し、スマホを足で踏んで壊した。その様子を撮影していたのは千香ちかである。


 「……消せ」


 美人みと千香ちかに睨みを利かせるが、彼女は余裕の笑みを浮かべるとその場からすっと居なくなった。さすがに女である自分は殴られないと思ってのことだろう。おそらく撮影した動画を都合よく編集して職員室へと持っていくのであろう。このことで、もしかしたら美人みとは停学になってしまうかもしれない。最初から女子はこうなることを知っていたのだ。案の定呼び出しを食らった美人みとは、10日間の停学処分となった。


 宗次郎そうじろうの家には男子生徒の保護者が怒りながらやってきた。スマホの弁償などでずっと宗次郎そうじろうは頭を下げていたが、美人みとを咎めることは決してなかった。少しやつれたように思う。彼の大好きなスイカも冷蔵庫でジュクジュクになっていた。美人みとが停学の間、愛人まなとも休学することにした。

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