第1章 8
「まーじかー」
俺はマチェの新しいステータスカードを眺めていた。
名前: マチェ
性別: ♀
年齢: 2歳
種族: イッヌゥスェード族
状態: “祝福”
属性: 風
スキル: 『高速詠唱Lv.5』、『魔力干渉Lv.10』、『感知Lv.3』、『探索Lv.6』、『魔力貯蔵Lv.6 ストック4』、『魔力探知Lv.2』、『魔族知識【イッヌゥスェード】』
魔法: 『ウィンド Lv.1』、『こそこそ話』
ステータス
HP: 156
MP: 244
STR: E
DEX: C
VIT: E
AGI: B
INT: C
MDEF: C
LUK: A
……え?
……えー。
…………マジかよー。
マチェのステータスが高いんだけどー。やだー。イヌの時のステータスを覚えてないけど、冒険者ランクCくらいはありそう。やだー。
本当に俺よりたかーい。
スキルもめっちゃ沢山ある。『魔力干渉Lv.10』ってなにー? 俺、知らなーい。
思わず、現実逃避したくなるくらいマチェが強くなってる。
てか、見る限り、マチェは魔法特化になっているのか?
さて、ここで比較対象として冒険者ランクEの俺のステータスを見てみよう。職業は剣士である。汎用性なオーソドックス冒険者A。
ちなみに冒険者ランクEってのは田舎には多いランクだ。冒険者ランクCもあれば、この田舎ではほぼトップクラスである。
HP: 74
MP: 32
STR: D
DEX: C
VIT: E
AGI: E
INT: F
MDEF: F
LUK: B
悲しいのでスキルとかは、詳しく見ないでおこう。ちらりと覗いたがマチェと比べると空白だらけで辛いので。
一応、俺も『魔力貯蔵』という凡俗スキルを持っているけど、俺のスキルは『魔力貯蔵Lv.2 ストック0』なんだけどー。唯一のスキルすら負けた!
……あれ? 俺、魔法を使ってないのに魔力のストックが0になってる。
『魔力貯蔵』は文字通り魔力を貯めるスキルだ。覚えれば、MP以上の魔力をストックできる。レベルによってストック量は変わってくる。ストックは純粋な時間経過で溜まっていく。そして、冒険者の二人に一人が持っていると言う凡俗さです。
……まぁ、いいか。特に支障はない。と言うか、ほぼほぼ魔法を使わない俺にとっては無用のスキル。
てか、問題は……。ステータスだ!
うわー、5年前と殆ど変わりがない。DEXがCになってるのは嬉しい。なんか幸運が上がってるけど、戦闘にはあまり関係ない。戦闘面の成長が見られない。まじ微妙……。
このマチェのステータスの上がりようは“祝福”効果? だとしても俺より高いんですけどー。泣きたいくらい高い。マチェ、強くなりすぎー。俺、マチェにご主人と言われてる立場ない。
つらーい。
「ご主人……?」
「なんでもない……」
とりあえず本題に入ろう。
「ブラムの言う通り、マジでマチェは魔法覚えてるな」
スキルは条件が揃えばいきなり出現するものだ。だが、魔法は学んで覚えるもの。自動取得は初期魔法のみ。ここからスキルツリーを広げていく。なので、数は少なくて当たり前だ。
「ご主人、どう言う事ですか? マチェ、すごいんですか? すごいんですか? わんわん」
街の広場、噴水の端に座りながら、俺はマチェのステータスを見ていた。マチェは隣に座って、俺に肩に顎を乗せた。
「ま、マチェ……。ちか、い……」
「わふ?」
いつもはマチェが肩に顎を乗せてくるのはいつもの事だ。だが、イヌの時は良かったが、美少女の姿だと問題があるな。
綺麗な顔がそばにあって、マシュマロ的な柔らかいもの——つまり、胸を押し付けられる柔らかさに俺の理性がゴリゴリいっている。
「まぁ、いい。……うんうん。マチェはすごいよ。なぁ、マチェ。この魔法は使えるか?」
俺はステータスカードに乗っているマチェの魔法欄を指差す。そこには『ウィンド Lv.1』と記されている。
ちなみに『こそこそ話』は魔族特有のスキルで、遠い場所にいる相手の同族と会話する魔法だ。所謂、念話なので、今は気にしなくてもいい。どうせ、俺は同族でないので使えないし。
「わふわふ! まほ、う? う、きゅ……?」
マチェはキョトンと首を傾げた。
「だよなー。いきなり、魔法とか言われてもわかんないもんな」
こればっかりはスキルの事も含めて、魔法は魔法使いに聞くしかない。
「しばらくはクエスト無理か……。マチェが落ち着くまで……、いや、それだと俺が死ぬな……」
出て行った金をなんとかしないと、明日の飯すら危うい。
「わふ!? お、教えてください! マチェは頑張りますっ! ご主人死んじゃダメです! わんわん!」
「いや、そう言われても俺もあんまり魔法には詳しくないからな」
俺もマチェと同じ風属性。初期魔法である『ウィンド』くらいは使える。一応、レベルは6。初期魔法なので、Lv.6でもあんま意味がない。
『ウィンド』は風を起こす魔法。俺が使っても、せいぜいちょっと強い風が吹く程度。次の『ウィンドスラッシュ』にならないと実戦には使えない。ちなみに『ウィンドスラッシュ』はLv.2しかない。
「とりあえず、簡単な採取クエストにでも行くか。町外れなら、魔法の練習しても迷惑はかからない。ついでにクエストもこなせば夕飯の心配もない」
「わふ! さい、しゅ……。あ、長いお散歩ですね!」
「……お前、採取クエストのことを長い散歩だと思っていたのか?」
「はい! だって、ご主人とずっと歩いていられるんです! 敵も出てこないです。しかも、ご主人と宝探しができるんです! マチェ、ご主人との長いお散歩大好きです!」
「………」
マチェはニコニコとしながら、パタパタと尻尾を振っている。
この場合、おバカと言うか、なんでも楽しめる天才と捉えたらいいのか……。
「ご主人、いきましょう! マチェはいっぱい頑張ります、わん! 絶対にお役に立ってみせます!」
「……了解。行くかー」
とりあえず、ギルドにクエストを受注しに行こう。
「その前に、お昼食べにいこう。そろそろ腹減った」
「はい! 行きます行きます! ご飯ご飯! わふわふ!」
マチェは尻尾を振りながら、ぴょこぴょこと走り回る。元気なやつだな。
だが、
「うるきゅーん……」
マチェは再び、スパイスの辛さに鳴いた。美味しいお肉もマチェには味付けが濃いらしい。いい肉のハンバーガーだったんだけどなー……。
他のを頼もうにも、今街ではスパイスがブームになっているようで全体的に味付けが濃い。
「どうして、こんなに食べ物が辛いんですか……?」
「いや、辛くはないんだが……。これはマチェのご飯は少し考えないといけないな」
とりあえず、今はパンと果物で我慢してもらう。
「マチェは辛いの苦手です……」
マチェは耳も尻尾もペタンと下げて鳴いた。
「でも、お肉食べた、い、れしゅ……」
よだれを垂らしながら、マチェは唸っていた。
SSR二枚抜きの高ステータスだろうと、苦手な物は苦手なようだ。